RADWIMPSの哲学とロックバンドとしての革新性を『アルトコロニーの定理』から振り返る

2021年3月17日 / 18:00

3月11日、東日本大震災から10年という日にアルバム『2+0+2+1+3+1+1= 10 years 10 songs』を発表したRADWIMPS。今週は彼らの過去作品を紹介する。担当編集者からは“やっぱり『RADWIMPS 4〜おかずのごはん〜』ですかね?”とのアドバイスがあったのだが、個人的には本作が発売された2009年に最もよく聴いたアルバムであった『アルトコロニーの定理』をチョイスさせてもらった。本作はその年とにかくよく聴いた。何でそんなに気に入っていたのか客観的に考えたことがなかったのだけれど、今回改めて聴かせてもらって、この頃のRADWIMPSというバンドの特徴を整理することが出来て良かった(?)と思う。このアルバムは今でも2000年代邦楽屈指の名盤だと思っている。
独特のワードセンス

RADWIMPSのファンにはここで改めて説明するまでもないことだし、ファンでなくとも“そんなこと分かっとるわ!”とか突っ込まれそうだけれども、RADWIMPSの楽曲は言葉使い、言葉選びが独特だ。すなわちバンドのほとんどの楽曲を手掛ける野田洋次郎(Vo&Gu&Key)のワードセンスに特徴があるということだが、それはこの『アルトコロニーの定理』でも十分に発揮されていると思う。まずはそこから見ていこう。楽曲のタイトルからしてひと筋縄ではいかない。M1「タユタ」は“ゆらゆらと揺れ動いて定まらない様子”、または“気持ちが定まらずためらう様子”という意味の“揺蕩(たゆた)う”をもじったもの。M5「七ノ歌」の“なのか”やM9「雨音子」の“あまおとこ”などもあまり目にしない言葉だ。M11「魔法鏡」を“マジックミラー”と読ます辺りは、他のアーティストでも似たようなことやってそうだが、M13「37458」を“みなしごはっち”と読ませるのはそうはいないだろう。スピッツの「8823」など他にも前例がなくはないけれども、「05410-(ん)」(『RADWIMPS 4 〜おかずのごはん〜』収録)、「4645」(『RADWIMPS 3〜無人島に持っていき忘れた一枚〜』収録)もあったりするから、この辺はRADWIMPSの得意技(?)と言ってもいい気はする。M4「謎謎」も独特だと思ったが、いわゆる“なぞなぞ”もこの漢字を当てるようで、ことさらにバンドの特徴というわけではないけれども、“なぞなぞ”よりも「謎謎」のほうがまさに謎めいてRADWIMPSらしい感じはある。で、歌詞の内容はこんな感じ。

《さぁ無茶しよう そんで苦茶しよう 二つ合わさって無茶苦茶にしよう/さぁ有耶しよう そんで無耶しよう 二つ合わさって有耶無耶にしよう》(M2「おしゃかしゃま」)。

《俺は0でも1でも2でも3でも4でも5でも6でもない/だから ほんとはお前といるのは8でも9でも10でもない》(M5「七ノ歌」》。

《分かり合ってるふりはいいから 所詮僕らはアリスとテレス/なのになんでどうしてなぜ今日も 君はアルキメデス》(M7「ソクラティックラブ」)。

《「君」は7画で 「僕」は14画で/恐いくらいよく出来てる/僕は僕の半分しか/君のことを愛せないのかい》《このメロディーは/ド・ミ・レ・ド・ド》(M8「メルヘンとグレーテル」)。

無茶も無茶苦茶もあるが、“くちゃ”と読む“苦茶”という言葉はない(“にがちゃ”ならある)。有耶無耶はあるが“有耶”も“無耶”もたぶん単独で使うことはないはずだ。だけど、メロディーへのハマりの良さで、M2「おしゃかしゃま」の歌詞はあまり気にならないというか、そのウィットに富んだ感じに関心させられるほどである。M5「七ノ歌」の数字使い(?)は前述の通り、RADWIMPSの真骨頂。“ろくでもない”を《6でもない》、“とんでもない”を《10でもない》と当てるのは何ともらしい。M7「ソクラティックラブ」の《アリスとテレス》はおそらくそれほどに深い意味はないのだろうが(ソクラテスの弟子の弟子がアリストテレスとか、そのくらいはあるだろうけど)、何とも意味ありげというか、アリストテレスという人物名をふつに分けてしまうところに可愛さすら感じてしまうのは、ここまで説明して来たような、言葉遊びが随所にあるからで、聴いているこちらもそれに慣れたからだろう。M8「メルヘンとグレーテル」での《「君」は7画で 「僕」は14画で/恐いくらいよく出来てる》は、[歌詞を書いている最中に気づいたらし]く、凡人からしてみれば画数が倍だとして何だ…という話だが、《僕は僕の半分しか/君のことを愛せないのかい》とロマンチックにつなげるのは流石だと言える([]はWikipediaからの引用)。また、《このメロディーは/ド・ミ・レ・ド・ド》という辺りは、演劇や映画で言うというところの“第四の壁打破”にも似た手法であり、こういうことをするバンドも稀であろう。
寓話に近い哲学的な歌詞

それでは、それらの言い回しで紡ぐ歌詞の内容は…というと──。

《人はいつだって 全て好き勝手 なんとかって言った連鎖の/上に立ったって なおもてっぺんが あるんだって言い張んだよ》(M2「おしゃかしゃま」)。

《君は僕が愛しいと言うけど それは僕のナニを指すのだろう/僕を僕たらしめるものが何なのか 教えてよ》(M7「ソクラティックラブ」)。

《決まりきった世界で 僕はちゃんと生きてるよ/だから一つくらい僕にだって 決める権利は僕にだって/あるでしょう?》(M8「メルヘンとグレーテル)。

《一瞬たりとも同じ僕はいない それだけは忘れずに生きていたい》《全てが そこからの人生の 記念すべき一回目になんだよ/全てが そこまでの人生の 最後の一回になるんだよ》(M12「叫べ」)。

13曲全てがそうだとは言わないが、多くが哲学的だ。本作がリリースされた2009年に限らず、2021年の現在でも、1909年でも1809年でも通用しそうな内容である。また、M10「オーダーメイド」が最も顕著で、M4「謎謎」の他、M7、M8辺りもそうなのだが、説話や昔話、おとぎ話の雰囲気を持ったものも多い。長くなるのでこの辺の引用は止めておくが、M10はもろに物語調だし、それ以外ではメルヘンチックな言葉が踊っている。堅苦しい雰囲気はなく、小さい子でも分かる…とまでは言えないけれど、分かりやすい内容ではある。つまり、『アルトコロニーの定理』収録曲の歌詞、そのスタンスは寓話に近いものである。“アルトコロニー”とは昔話で言うところに“昔々あるところに”をもじったものであろうし、“定理”とは[数理論理学および数学において、証明された真なる命題]である([]はWikipediaからの引用)。アルバムタイトルがずばりそう言っているので、寓話に近いというのも的外れな話ではなかろう。普遍的な疑問、あるいは真理と思えるようなものを説話や昔話の形を借りながら述べて、しかもそこに、それまでRADWIMPS以外ではあまりお目にかかれなかった独自の味付けを加えている。それが『アルトコロニーの定理』の時点でのRADWIMPSの作風の特徴である。みなさんもよくご存知の通り、こののち、彼らは2016年に新海誠監督の映画『君の名は。』の劇伴を担当。主題歌『前前前世』を大ヒットさせ、バンド自体も大ブレイクに至った。そして、2019年に再び新海監督とタッグを組み、映画『天気の子』の音楽を手掛けたことも記憶に新しい。RADWIMPSと物語との親和性の高さは大ブレイク以前からその作品にはっきりと表れていたことを、ここに改めて記しておきたい。
多彩なロックに独自性を注入

歌詞の特徴をザっとまとめてみて、こういった傾向はそのサウンドにも当てはまると思ったところで、ここからはRADWIMPSのサウンドについて述べていきたい。まずはサウンド面を全体的に見渡してみると、ブリットポップ、パンクの影響が色濃い。ただ、ギターサウンドが前面に出ているものがほとんどではあるものの、リズミカルなアルペジオを所謂リフとしながら楽曲全体を引っ張っていくものが多いのは特徴的ではあろう。M1「タユタ」、M8「メルヘンとグレーテル」、M10「オーダーメイド」、M13「37458」といったミディアム~スローにおいてアルペジオを使うのはわりと普通と言っては何だが、古今東西でよく見られるギターのアレンジではあろうが、アップチューンにおいても単音弾きを多用している。それはM4「謎謎」、M9「雨音子」辺りもそうだが、何と言ってもM2「おしゃかしゃま」に止めを刺すだろう。ポップで躍動があり、それでいて、少しばかりの物悲しさが加味され、そこに生真面目さも感じられるような、相当に耳に残るフレーズである。個人的なことを述べて恐縮だが、『アルトコロニーの定理』が発売された時、このM2「おしゃかしゃま」のギターの気持ち良さに、M2だけ何度も繰り返して聴いていたことを思い出す。ついでに言わせてもらえば、ここ20年くらいの邦楽ロックでは屈指のギターフレーズであると思うし、『アルトコロニーの定理』においてRADWIMPSというロックバンドのサウンドの個性を示すに十分なものであったであろう。ガツンとしたストロークで始まるM11「魔法鏡」でもAメロはアルペジオになったり、ほとんどストロークで攻めているM12「叫べ」でもそこにアルペジオを重ねているから、ギターの単音弾きは間違いなく彼らのこだわりと言える。

あと、意外と…と言ったら失礼ではあるが、『アルトコロニーの定理』収録曲にはブラックミュージックを下地にしたものが見受けられる。特にM5「七ノ歌」が印象的。野田がひとりで声を重ねたというゴスペル調のコーラスが圧倒的な存在感を放っている。エレキギターが重めなのでハードロック的な側面も強いが、ブルースフィーリングもしっかりあって、楽曲を骨太なものにしているのは確実である。ブルースフィーリングはM13「37458」でも感じられるところだし、遡れば、M4「謎謎」のディスコっぽい感じもブラックテイストと言えなくもない。この辺は野田が帰国子女だったことが関係しているのか、はたまたメンバーのルーツミュージックによるところなのか分からないけれど、バンドの世界観を奥深いものにしていることは明らかだろう。そして、“歌詞の特徴がサウンドにも当てはまる”と前述したのもこの辺りにある。ブラックミュージックの影響下にありながらも、その特有の泥臭さを抑え気味にしているように思う。これは本来、良くもあり悪くもあることだろうが、RADWIMPSとしては正解と言っていいだろう。リズム&ブルースを追求するようなバンドであればともかく、彼らはそうではないわけで、例えば、M5「七ノ歌」で本場のゴスペルシンガーを入れていたとしたら、何かのバランスが崩れていたように思う。あそこは野田ひとりの声だからこそいいのだ(洒落ではない)。

さらに言えば、前述したアルペジオへのこだわりもそうだし、ここまで触れて来なかったが、ラップ調の歌唱もそうかもしれない。パンク系のナンバーでも単音弾きを欠かさないところに“らしさ”は確実にある。抑揚なく淡々と進むヴォーカルは随所で見られるところで、特に韻を強調している感じではないようなので、これは本格的なラップではない。でも、それでいい。想像するに、歌詞が多いため──すなわち伝えたいことが多いために必然的にメロディーが乏しくなるか、サビなどのメロディーパートをよりキャッチーに聴かせるための抑揚を抑える部分が必要となるのか、ラップ調の意図はそんなところだろう。これもまた、本格的なラップがあったら、おそらく何かバランスが崩れるのだろうし、それ以前に興醒めのような気がする。特定のジャンルは尊重して、それをドラスティックに変化させるのではなく、独自の解釈をわずかに加えるだけで、それまで誰も見たことがないオリジナリティーを浮き上がらせる。誰にも簡単にできそうで、実は誰にもできることではないことをやっているのが『アルトコロニーの定理』であり、RADWIMPSであることを改めて知った。音楽に対するリスペクトの中に革新性を注入することを忘れない、ロックバンドらしいロックバンドなんだろう。
TEXT:帆苅智之
アルバム『アルトコロニーの定理』
2009年発表作品

<収録曲>

1.タユタ

2.おしゃかしゃま

3.バグパイプ

4.謎謎

5.七ノ歌

6.One man live

7.ソクラティックラブ

8.メルヘンとグレーテル

9.雨音子

10.オーダーメイド

11.魔法鏡

12.叫べ

13.37458


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