名曲「サタデー・イン・ザ・パーク」を収録したシカゴの傑作『シカゴ V』

2021年2月5日 / 18:00

シカゴは1stアルバムの『シカゴの軌跡(原題:The Chicago Transit Authority)』(’69)、2nd『シカゴと23の誓い(原題:Chicago)』(’70)、3rd『シカゴ III(原題:Chicago III)』(’71)と、新人であるにもかかわらず、3枚続けて2枚組でのアルバムリリースを果たしている。そして、4枚目となる初のライヴ盤『シカゴ・アット・カーネギー・ホール』(’71)は何と4枚組(当時の日本盤LPは7,800円!)でのリリースという、貧乏学生泣かせのグループであった。今回紹介する本作『シカゴ V』(’72)は彼ら初の一枚もののアルバムで、ここにきてようやく彼らのアルバムを入手できた若者は少なくなかったはずだ(当時中学生の僕はそうだった)。大ヒットしたシングル「サタデイ・イン・ザ・パーク」(全米3位)の収録もあって、本作は全米1位を獲得することになる。前3作のスタジオアルバムでは、3管を擁したパッション溢れる演奏と政治色の濃い硬派のイメージがあったが、本作はロックグループとしての熟練すら感じられるすっきりとした仕上がりになっており、それまでの集大成とも言える彼らのエッセンスが凝縮された傑作である。
ジャズロックとブラスロック

シカゴはブラッド・スウェット&ティアーズ(以下、BS&T)やチェイスらと同様、ホーンセクションを擁したブラスロック・グループとして知られている。ただ、BS&Tやチェイス(トランペット4管!)が、ジャズサイドからロックへのアプローチを試みたようなサウンドなのに対して、シカゴはあくまでもロックグループとしてのスタンスを保ちながらホーンを導入しているという感覚である。海外では“ブラスロック”という表現は存在せず、BS&Tもチェイスもジャズロックとされているが、僕はシカゴには“ブラスロック”という言葉が似合うと思っている。それだけ初期のシカゴはロックフィールに溢れており、シングルヒットした「クエスチョンズ67&68」「長い夜(原題:25 or 6 to 4)」「ぼくらに微笑みを(原題:Make Me Smile)」「自由になりたい(原題:Free)」などを聴けばそれは明らかである。また、3rdアルバム『シカゴ III』では生ギターを使ったり、70年代初頭に巻き起こったシンガーソングライター・ブームに便乗したかのようなフォーキーな曲を取り入れたりするなど、時代の要求に敏感に対応できる柔軟さは、ほかのジャズロックのグループにはあまり見られない。
ロバート・ラムのポップ性

上記のシングルヒットした4曲は、どれもポップ性の高い仕上がりになっているが、テリー・キャスの破壊的なギターや実験的なホーンアレンジが登場するなど、そのあたりの多面性にもシカゴの魅力があるのではないかと思う。シカゴのヒット曲の多くはロバート・ラムが書いたものであり、彼のソングライターとしての才能がシカゴをビッググループにのし上げたことは間違いない。

ラムはソングライター&ヴォーカリストとしての才能を買われたのか、グループを続けながら、この後『スキニー・ボーイ』(’74)でソロデビューも果たす。バックにホーンはなく、シカゴの弟バンドと言われたマデュラのメンバーの他にポインターシスターズなどが参加している。そのサウンドは想像通り典型的なAORサウンドで、残念ながら彼の才能が生かされているとは言い難い内容であった。
本作『シカゴ V』について

冒頭にも書いたが、本作はシカゴ初のシングルアルバムであり、収録曲は10曲(CDは3曲のボートラあり)。このうち8曲をラムがひとりで書いているからか、これまでのような実験的な小品や長尺のアドリブを重視したナンバーは減り、少しポップなサウンドが特徴である。とはいうものの、曲の合間や歌のバックを埋めるホーンセクションのアレンジは巧みさを増しており、どの曲もコンパクトに凝縮されているだけに濃密なプレイが味わえる。

シングルカットされた名曲「サタデイ・イン・ザ・パーク」や「ダイアログ(パート1・2)」(全米24位)は、いま聴いても全く古くなっておらず、特にキャスとピーター・セテラの掛け合いボーカルが印象的な「ダイアログ(パート1・2)」は、ノーザンソウル風の出だしからロックへと移り変わる後半部分の盛り上がりは何度聴いても鳥肌ものだ。ひょっとしたら、後半で登場するキャスの冴えわたるギタープレイに他のメンバーが鼓舞されたのかもしれない。

「ナウ・ザッツ・ユーブ・ゴーン」(ジェームズ・パンコウ作)は複雑な構成を持つ曲で、風変わりなリフはエチオピアのジャズを思わせる。後半のウォルター・パラザイダーのサックスソロがジャズファンクしていてカッコ良い。

「ホワイル・ザ・シティ・スリープス」でもキャスのギターは素晴らしく、イエスを思わせるコーラスがでてくるなど、仄かに香るプログレ臭が面白い。

タワー・オブ・パワーのバラードに似た演奏が聴けるソフトな「オール・イズ・ウェル」やフュージョンっぽい「グッドバイ」では、途中のキリッと引き締まったホーンのリフとセテラの巧みなベースラインが印象的だ。アルバムの最後を締めくくるのはキャス作の「アルマ・マター」で、ザ・バンド風の名曲。リードヴォーカルもキャスである。
本作以降の活動

本作は彼ら初の全米ポップスチャートで1位となったばかりか、ジャズチャートでも1位を獲得し、ここからシカゴの絶頂期が始まる。このアルバム以降、9thアルバムの『シカゴIX』(’76)まで、5枚連続で全米1位を獲得するという快挙を成し遂げるのだが、時代はパンクロックとAOR/ディスコの2大勢力へとシフトしていた。78年にはオリジナルメンバーのテリー・キャスが拳銃の暴発で亡くなるという痛ましい事故があり、日本でもマスコミ等が事件を大々的に報じていた。この頃からはメンバーチェンジもあってシカゴの音楽は変革期を迎える。80年代に入ると、ホーンを抑えたAOR路線に転向「素直になれなくて(原題:Hard To Say I’m Sorry)」(’82)などの大ヒットを出し、ライヴ以外ではソフト路線のグループに変貌していくのである。僕のようなロック好きの年配者にとっては、本作あたりまでが最もシカゴらしいサウンドだと感じるのかもしれない。
TEXT:河崎直人
アルバム『Chicago V』
1972年発表作品

<収録曲>

1. ヴァレーズに捧げる歌/A Hit by Varèse

2. 今は自由さ/All Is Well

3. お前が去って/Now That You’ve Gone

4. ダイアログ(パート1)/Dialogue (Part I)

5. ダイアログ(パート2)/Dialogue (Part II)

6. 街が眠りについて/While the City Sleeps

7. サタデイ・イン・ザ・パーク/Saturday in the Park

8. 俺達のアメリカ/State of the Union

9. グッドバイ/Goodbye

10. 俺達の見た未来/Alma Mater

〜ボーナストラック〜

11. ア・ソング・フォー・リチャード・アンド・ヒズ・フレンド/A Song For Richard And His Friends (Studio Version,without Vocals)

12.ミシシッピ・デルタ・シティ・ブルース/Mississippi Delta City Blues (First Recorded Version, with Scratch Vocal)

13. ダイアログ(パートI & II)/Dialogue (Part I & II) (Single Edit)


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