キミノオルフェ・蟻「自由というモノを掴みかけている」胸ぐらを掴んでくる左脳音楽~気持ち良く存在できる右脳音楽へ――劇的変化を語る

2020年12月25日 / 18:30

 TVアニメ『エガオノダイカ』鈴木利正監督×キミノオルフェ・蟻『この世界に花束を』対談インタビュー(https://bit.ly/3mN5tsc)から1年10か月。この間、水面下で「生まれ変わった」と表現しても大袈裟ではない変化と進化を遂げていた蟻に再びインタビューを敢行した。蟲ふるう夜に時代から音楽と戦い続け、胸ぐらを掴みかかってくる様な表現者であった彼女が殻を破り、新しい自分や他者との関係を受け入れ、自由を掴もうと劇的変化を遂げた新作EP『Then, the Curtains Open』に至る迄の音楽物語、ぜひご覧いただきたい。

◎蟻(キミノオルフェ)インタビュー

<「誰にも何も譲りたくない」から「全部おまかせ」へ―― 生まれ変わったきっかけは金髪?>

--キャリア初となる無観客配信ライブ【Then, the Curtains Open(そして、幕は上がる)】は、バンド(蟲ふるう夜に)時代から取材させて頂いている身からすると、生まれ変わった蟻を体感できて感慨深かったです。

蟻:蟲ふるう夜にの初期から観て頂いてますもんね。さっき、平賀さんに初めて取材してもらったプー・ルイさんと松隈ケンタさんとの対談インタビュー(https://bit.ly/2WKbcol)を読み返していたんですけど……なんか恥ずかしくて(笑)。

--もう7年前ですからね。虫で例えると、やっと土の中から出てきたばかりぐらいのタイミングだから若々しいよね(笑)。そんな時期から見ているからこそ「こんな一面があったのか」と驚かされるライブでした。

蟻:こちらからすると、そんな時期から取材してもらっているからこそ「オンラインライブをどう受け取られるんだろう?」みたいな不安はありましたよ。そこはすごく気にしていました。

--あのライブ直後にツイートした通り(生きることは戦いだから、生きることを歌う人は音楽の中でも戦い続けることになる。足掻き、苦しみ、のたうち回りながら歌う。その痛みから逃れる為に歌うときもあるかもしれない。でも、初めて心底嬉しそうに音楽の中で泳いでいる彼女の姿を見て、戦いは幸せを掴む為にあるんだったなと気付かされた)、新境地に到達したライブだったと思います。音楽の中で自由に泳げるようになったんだなって。

蟻:初めて音楽のことをちゃんと考え始めたかもしれないです(笑)。歌い方もそうだし、メロディーの捉え方もそうだし。あと、あのオンラインライブの終盤に披露した新EP『Then, the Curtains Open』の収録曲たちは、EXPCTRに作曲をお願いしたんですけど、今はそうやって人に委ねることができる余白みたいなものも生まれていて。それまでは「誰にも何も譲りたくない」気持ちが強かったんですけど、人の才能を信じることが上手になったのかも。

--そもそも「誰にも何も譲りたくない」音楽制作の在り方からEXPCTRを迎え入れての活動になぜシフトしようと思ったんでしょう?

蟻:私、年が変わると髪型を変えたくなるんですよ。ガラッと自分を変えたくなるんですよね。今年は2020年だから「思いっきり髪型を変えてやろう! もし怒られたら戻そう(笑)」と思って、カメラマンのきるけ。くんから紹介してもらった美容師さんのところへ行ったんですけど、自分から「こういう髪型にしてください」とお願いしちゃうと自分のイメージから脱却できないじゃないですか。なので、意を決して「全部おまかせで」って伝えたんです。それで金髪になったんですけど、そのときに「良いな、こういう変わり方」と思ったんですよ。それがきっかけで「自分が信じた人のセンスにお任せしよう」みたいな気持ちが高まって、元々EXPCTRの曲を聴いて「凄い才能だな」と思っていたので、今回の新EP『Then, the Curtains Open』は彼にめちゃくちゃ委ねることにしたんです。

<蟻の歌詞「性をあんまり意識しない子供時代で止まってる」>

--積み重ねたモノがあるゆえに生まれ変われない人ってたくさんいると思うんですけど、蟻の場合はいったん「全部おまかせで」と思えたことで金髪になり、それをきっかけに音楽家としても新境地に到達できたんですね。

蟻:あと、今思い出したんですけど、去年の時点で「私、来年は右脳音楽をやろう」と決めていたんです。それまでは左脳ばかり使っていて「歌詞が聴こえなきゃ意味ねぇだろ!」と思っていて(笑)。言葉が先にあって、そこにメロディーが乗って、背景として音楽が鳴っている。言葉の為に音楽を作っていくのがあたりまえだったんですけど、そこに縛られてしまって表現の広がりを自分で抑えてしまっているんじゃないかと思ったときに「感覚だけで音楽を作ってみたらどうなるんだろう?」と。それで「2020年は右脳で音楽を作る年にしよう」と決意できたことも変化の要因ですね。

--蟻の音楽人生で最も大きなターニングポイントじゃないですか。

蟻:Spincoaster(スピンコースター)というミュージックバーでお手伝いしていたんですけど、お客さんがリクエストするレコードだったり、とにかくいろんな音楽を耳にするんですよ。そこで音楽の自由さを感じたというか、いろんな人のいろんな「好き」を感じて、自分には「縛り」があったなと気付いたんです。

--そう言えば、あんまり音楽を聴く人じゃなかったですよね?

蟻:無音が好きで、音楽を聴かない人だった(笑)。それゆえに自由に自分の音楽活動が出来ていたんですけど、今は逆に不自由になってきてしまった。そんな中でラジオのパーソナリティーもやらせてもらって、毎週金曜日に30分間ひとりで音楽を紹介する番組だったので、必然的にめっちゃ音楽を聴かなきゃいけないじゃないですか。それでSpotifyで音楽を毎日漁るようにいっぱい聴くようになったんです。

--ほとんどのミュージシャンが学生時代にたくさん音楽を聴いて「自分も音楽やりたい!」ってなるわけですけど、蟻の場合はデビューから何年も経ってから「いろんな音楽を聴こう!」と思った。なかなかのレアケースですよ(笑)。今日のインタビューで改めて思ったんですけど、蟻のその突拍子もない感じって子供っぽいですよね。

蟻:そうなんですよ(笑)。今回の新EP『Then, the Curtains Open』の収録曲たちは大人のつもりで書いたんですけど、やっぱり子供なんですよね。小学生の頃って自分が男なのか女なのかよく分からないというか、性についてあんまり意識しないじゃないですか。私はそこでずっと止まっているんだなと思って。今回の作品に限らず「虫ピン」も「バックパック」もそうなんですけど、半分少年なんですよね。

<胸ぐらを掴んでくる左脳音楽 / 気持ち良く存在できる右脳音楽>

--先日のオンラインライブ、今回の新EP『Then, the Curtains Open』を完成をさせたキミノオルフェに対して、どう自己評価していますか?

蟻:すごく頑張っているなって思います。良い風に変わろうとしているというか、自由というモノを掴みかけている。なので、新EP『Then, the Curtains Open』でも自由な歌詞を書きたいなと思っていたんですよ。今回は自分ではなくEXPCTRがメロディーを書くので、そこに当てはめていく歌詞を書く気持ちだけはめちゃくちゃ自由じゃないといけないなと思っていて、今までの型を破った、新しい言葉の生み出し方をずっと模索していたんです。そんな時期に電車の中で歌詞を書いていたら、優先席に座っているおばちゃんがデカいバッグを隣の席にどんと置いて、新聞を広げて読んでいたんですよね。で、足も組んでいる。当然、まわりの人たちは迷惑そうな顔をしているんだけど、私はそのおばちゃんに対して「自由だなぁ」と思って。

--めちゃくちゃワガママではありますよね(笑)。

蟻:その行為自体はもちろん良くないことではあるんですけど、これぐらい自由な在り方を「見習いたいな」と思ったんですよね(笑)。前の自分だったら、その悪びれもしないおばちゃんのことを少し憎んだと思うんですけど。その今までと違う方向に自分を置いてみる、自由な考え方や在り方みたいなモノは今回の新EP『Then, the Curtains Open』にも反映されている。自分の中では、随分書き方が変わったと思います。で、それがしっくり来ている。今までは日本語に拘ってきたのに、今回は英語詞の歌唱にも挑戦できていますからね。それによって表現の幅が広がるので、日本語では言えなかったことを歌えちゃったりとか。とにかくいろんな面でタガを外すことが出来ている。それは良い進化なんじゃないかなって思いました。

--今回の作品を気持ち良くこれからも表現していくことって「変わっていくこと」を肯定していくことと同義だと思うんです。しかも、元々は生き方を変えられなくて下手したら短命で人生を終えてもおかしくないようなタイプの人間だったじゃないですか(笑)。ゆえに今作は物凄く有意義だなと思うし、ということは、蟻が物凄く有意義な人生をここ1,2年で歩んできたってことなんじゃないかなって。

蟻:そう感じてもらえたんだったら、めちゃくちゃ嬉しいですね!「何してたんだよ!」って思われてしまったら悲しいですけど(笑)。長年取材して頂いている平賀さんに「良かった」と思ってもらえたんだったら、私も「良かったんだな」って思えるから。

--この先、新EP『Then, the Curtains Open』をリスナーの皆さんにどう楽しんでいってほしいなと思いますか?

蟻:どう聴いてもらいたいかなぁ? 作ることに必死だったから「聴いてもらいたい」みたいなことをすっ飛ばしていたかもしれないですね。なので、今、考えますね。…………以前、私が居酒屋でご飯を食べていたときに、キミノオルフェの「マイナー調のBGMがいい曲に聞こえた」が偶然流れてきたんですよ。そのときに「胸ぐらを掴んで「聴け!」って言ってくる音楽だな」と思ったんです。友達とたのしく食事しているのに、めっちゃ胸ぐらを掴んでくる曲だなって(笑)。それで突き刺さってくれれば私はめちゃくちゃ嬉しいんですけど、今回の『Then, the Curtains Open』は居酒屋でご飯を食べていても胸ぐらは掴まず、その楽しい場に気持ち良く存在できる。そういう右脳音楽を作る挑戦だったから、それが叶ってくれたら嬉しいですね。

<突拍子もない話「2021年はスポーツマンになります」>

--とは言え、エッジの効いたボーカルワークだなと思いましたよ。心地良く泳げるエレクトロミュージックでありながら、振り返らざるを得ない歌声がガンガン突き刺さってくる。表題曲「Then, the Curtains Open」なんてその象徴みたいなナンバーですよね。

蟻:歌い方を進化させた楽曲ですね。英語詞が入ってきたから普通に歌っちゃうとつまんないかなと思って、洋楽的な声の鳴らし方をしているんです。

--「胸ぐらを掴んでくる」という表現には当てはまらないかもしれないけど、「誰、こいつ?」とはなる。

蟻:良いですね!「誰、こいつ?」って思われたい(笑)。

--そろそろ〆に入っていきたいんですけど、これからのキミノオルフェはどうなっていくんですかね。今の自由を求めていくモードからすると、また全く違う音楽に変化する可能性もあるわけですよね?

蟻:全然ありますよね。「やっぱりギターが歪んでなきゃ」と思ってロックに振り切る可能性だってあるでしょうし。でも、感覚的に音楽を作っていくというか、そこに関しては詞の書き方も含めてまだ駆け出しの段階なので、今回の『Then, the Curtains Open』で掴んだやり方をもう少し極めたい。そこに流れたらみんなの体が自然と揺れるような音楽を突き詰めていきたいですね。今はまだ全12話で完結の物語の第1話って感じなので。あと、2021年はスポーツマンになります。

--また突拍子もない話を(笑)。

蟻:私、これまでの人生の中で1度もスポーツマンになったことがないんですよ。中1のときに柔道部に入ってはいたんですけど、半年ぐらいで、試合で一本背負いで投げられて骨を折ってしまったので。あと、筋トレはずっと続けているのと、キックボクシングを習ったりもしていたんですけど、それって「スポーツマンです!」って感じではないじゃないですか。で、私は球技がヘタクソで、あらゆる球が怖いんですよ。それを克服する為にも、2021年はスポーツマンになります(笑)!

Interviewer:平賀哲雄


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