『マッカートニーIII』ポール・マッカートニー(Album Review)

2020年12月24日 / 18:00

 2020年は、新型コロナウイルス感染拡大によりアーティストにとっても苦難の一年となった。しかし、それが良い方向に向かうこともある。ポール・マッカートニーの新作『マッカートニーIII』も、ゲスト・アーティスト、制作陣を用いず、単独で曲作りから演奏を熟したロックダウンの賜物……というか、パンデミックがなければ実現しなかった作品といえる。Lock DownをRock Downとロックにかけるあたりのセンスも流石。
 
 本作は、米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard 200”で通算8作目(ビートルズの作品を除く)の首位を獲得した『エジプト・ステーション』(2018年)  から約2年ぶり、通算18作目のソロ・スタジオ・アルバム。今年は同チャート1位を記録したデビュー作『マッカートニー』(1970年)から50周年目のアニバーサリー・イヤーで、その『マッカートニー』と『マッカートニーⅡ』(1980年)に続くセルフ・プロデュース第三弾という、節目的な意味合いでもタイミングに恵まれた。
 
 ロックダウン中は家族と過ごしつつ自宅のスタジオにこもっていたようで、別の仕事で曲作りに励んでいたところ、本作の完成に至るまで続々と曲が仕上がっていったのだそう。「本来は今年アルバムをリリースする予定ではなかった」とのことで、期間を設けて商業的に作った曲陣ではなく、本当の意味で「ポールが今やりたかった音楽」が詰まっている。過去の名盤に使用された楽器で一部演奏されたことも(マニアの方には)聴きどころ。
 
 コロナ禍を経てこそ完成したであろう曲もある。9曲目の「スィーズ・ザ・デイ」なんかはまさにそうで、柔らかいサウンド&メロディに乗せた、短編ながらも希望を見出す歌詞には心打たれた。その他にも、アコースティックとエレクトリックを融合させた、ウエストコースト・ロック風の「ファインド・マイ・ウェイ」でも、不安を抱く人達への架け橋になるであろうメッセージが綴られている。
 
 アルバムのオープニングを飾る「ロング・テイルド・ウィンター・バード」は、甲高く粗いギター、骨太のドラム、ビバップを彷彿させるボーカルが重なった5分を超えるインストゥルメンタルで、最終曲「ウィンター・バード / ホエン・ウィンター・カムズ」に繋がるよう同曲のイントロが起用されている。その「ホエン・ウィンター・カムズ」は、1992年に制作したものを焼き直した曲で、ボーカルも当時のものがそのまま使われている。(声質など)前曲からの違和感は多少あるが、アルバムの雰囲気には馴染んでいるというか、むしろこの曲が軸になっているともとれる。
 
 違和感といえば、その前曲「ディープ・ダウン」も良い意味で浮いた存在といえる。ホーンが飛び交うミディアム、ファンキーなボーカルは、ロックというよりはソウルに近いテイスト。78歳にしてまた新しい一面をみせてくれるポールには感服する。もちろん、80年代初のソロ全盛期を思わせる「ラヴァトリー・リル」や、前述の『エジプト・ステーション』を引き継いだ「ディープ・ディープ・フィーリング」など、“らしい”曲も健在。カントリーに通ずるアコースティック・メロウ「プリティ・ボーイズ」では、年相応の落ち着きと成熟さが活かされていて、年齢を重ねたからこそ表現できる良さも感じられた。
 
 ピアノの伴奏をフィーチャーしたノスタルジックな「ウィメン・アンド・ワイヴズ」もいいが、ビートルズ時代をニオわせるメロディラインの「ザ・キス・オブ・ヴィーナス」は、本作の中でも1、2を争うメロウの傑作。弾き語りをそのまま収録したようなスタイルも、こういった時世だからこそ実現できた。セルフ・レコーディング的要素が強いからか、ラスティ・アンダーソンをギターに、グレッグ・カースティンを共同プロデューサーに招いたハード・ロック「スライディン」が、むしろ新鮮に聴こえるほど。
 
 前2作同様、自由度の高いその名に相応しいアルバムに仕上がった 『マッカートニーIII』。前述にもあるように、本作はパンデミックという要因や年キャリアを重ねたからこそ表現できた作品で、音楽面のクリエイティブ度は(見方によっては)傑出したといえる。
 
 余談だが、同18日にはエミネムが『ミュージック・トゥ・ビー・マーダード・バイ – サイド B』を突如リリースし、周囲をザワつかせている。前作『エジプト・ステーション』の発売1週前にもエミネムは『カミカゼ』を発表し、チャートにおいては対抗馬として報じられていた。その際、全米ではどちらも首位を獲得したが、全英チャートでは『カミカゼ』に阻まれ首位を逃がしている。

Text: 本家 一成


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