松原みき「真夜中のドア~stay with me」なぜ今話題に? 世界のシティ・ポップ・ファンに愛されたアンセム<コラム>

2020年12月10日 / 18:00

 「ソウルやシンガポール、マレーシアでもDJで『真夜中のドア~stay with me』をかけると、イントロが流れた瞬間で歓声が上がるし、もはや“この曲はなんですか?”と聞かれることもない。それくらいみんなが知っていて、クラブに定着しているキラーチューンなんです」

  プロデューサー/ミュージシャンとして日本と韓国を行き来し、クラブDJとして日本と韓国のシティ・ポップを中心にプレイする長谷川陽平氏は、アジア各国で目の当たりにした松原みき「真夜中のドア~stay with me」をそう語ってくれた。

  近年、アジアやヨーロッパ、アメリカ西海岸を中心に盛り上がりを見せてきた日本のシティ・ポップ。70年代や80年代に海外に憧れ、都会的なライフスタイルを求めた若者たちの生活や趣味を背景としてさまざまな名曲が生まれた。山下達郎、竹内まりや、大貫妙子、角松敏生といったアーティストたちの名前やダンサブルな楽曲がいまや世界の音楽ファンの共通言語として語られるようになっている。

  この“日本生まれの洋楽”ともいうべきシティ・ポップの名曲群のなかにあって、この秋に突然注目を集めて話題を呼んでいるのが、松原みきの「真夜中のドア~stay with me」だ。世界92か国のApple MusicのJ-Popランキング入りしたのをはじめ、Spotifyのグローバルバイラルチャートでは2位(2020年12月7日現在)、アメリカ、インドネシアなど26か国のローカルバイラルチャートにもランクインした。

  「真夜中のドア~stay with me」は1979年11月、松原みきが20歳の誕生日を迎える直前にリリースされた歌手デビュー曲だ。作詞は三浦徳子、作曲と編曲は林哲司。若くしてジャズクラブでも歌うなど本格的な歌唱力を持つ彼女は、アイドルとは一線を画した新世代の女性シンガーとして登場した。この曲は当時のチャートで最高28位を記録した。彼女には他にも、5枚目のシングルであり、資生堂の春のキャンペーンソングに起用された大ヒット「ニートな午後3時」(1981年)や、90年代に歌ったアニメ『機動戦士ガンダム 0083 STARDUST MEMORY』のオープニングテーマ「THE WINNER」(1991年)といったヒットがあるが、「真夜中のドア~stay with me」は当時のヒットの記憶だけでなく、いわゆる“和物”の定番としてもクラブDJたちに長く愛されてきた。

  その「真夜中のドア~stay with me」が、発売から40年経ったいま、まるで突然のように世界的にチャートを駆け上がった。このブレイクの一端を担ったのは、インドネシアで世界的な人気を誇る女性ユーチューバー、Rainychの存在だろう。イスラム系としてヒジャブをつけた彼女が美しい歌声で歌う英米のヒットやJ-POPを歌う動画は多くの人を魅了し、現在130万人近い登録者数を誇る。そのRainychが流暢な日本語で歌った「真夜中のドア~stay with me」が10月末にアップされるやいなや、まずはインドネシアが起点となり、その後、原曲である松原みきヴァージョンが世界中に発見されていった過程が、Apple MusicやSpotifyの再生回数としてそのまま反映されていったようだ。

  そして、そこにはもちろんRainychがカバーするに至る、数年前から続くアジア各国での人気の高まりがあった。その起点には、日本のシティ・ポップに注目する海外のDJたちがこの曲を再発見、いや“新発見”していった事実があるだろう。長谷川氏は、同じく海外で人気の高い竹内まりやの「Plastic Love」(1984年)を「太陽」とすれば、「真夜中のドア~stay with me」は「月」のような存在で、「ジャブを打ち続けて相手をKOしたボクサーのように」じわじわとDJの現場で熱い支持を広げていったのではないかと語った。そして、「Plastic Love」が2020年現在の時点でサブスクリプション上に存在しない“見えないヒット曲”だったことと対照的に(※2020年12月11日に各種サブスクリプション解禁)、「真夜中のドア~stay with me」への支持が北米のプレイリストキュレーターたちの選曲により着火、その後Rainychのカバーをきっかけに爆発したことが、サブスクリプション・チャートに直接的に反映されて、“目に見えるヒット曲”となったのだった。

  長谷川はこの曲がアジアを中心に人気を集める要因として、70年代の洋楽的な要素と、楽曲の構成としてひとつ重要なポイントを挙げた。「大サビで“Stay With Me”という英語のフレーズがくる。ここで聴かせたい、というところで直接的な英語のフレーズがあるのは海外の人の心をつかむにはやっぱり必要なんです。そして、日本語の意味はわからなくても下敷きとして見える洋楽へのオマージュがパズルのようにつながっていって、海外の人も高揚させる大きなドラマができているんです」

  Rainychがそうであるように、J-POPやシティ・ポップをカバーする海外のシンガーが、日本語の歌詞もそのままに歌うのはいまでは当然のことになりつつある。楽曲の心地よさと切り離せない要素として、メロディやリズムにしっかりハマった言葉はそれが何語であれ魅力のひとつとなるし、歌詞の意味をさらに深掘りすることでより好きになれる。「真夜中のドア~stay with me」は、まさにその最高の証明のひとつだ。

  残念なのは、彼女自身がこの世界的な人気を見届けることなく、2004年に44歳の若さで早世したことだ。いまはコロナ禍にあって国内外のクラブも営業が制限された状態だが、いつの日か再びひと晩中踊り明かせる日が来たら、DJがかけるこの曲に合わせ、これまで以上に大きな声で“Stay With Me”が歌われるだろう。

 
Text:松永良平


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