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『ポジションズ』アリアナ・グランデ(Album Review)

 「今月中」と公言していた通り、新作『ポジションズ』を2020年10月30日に発表したアリアナ・グランデ。本作は、2曲の全米No.1ヒットを輩出した前作『thank u, next』(2019年)から約1年半ぶり、6枚目のスタジオ・アルバムで、4th『スウィートナー』(2018年)からは3年連続のリリースとなる。デビュー作『ユアーズ・トゥルーリー』(2013年)から7年間で6枚。厳しいアメリカの音楽業界でコンスタントに新作をリリースしてこれたということは、彼女の順調なキャリアを物語る。
 
 発売1週間前に発表したタイトル曲「ポジションズ」は、50を超える国のiTunesチャートで1位を獲得し、UKチャートではアルバムに先立ってNo.1デビューを果たしたばかり。今年は、ジャスティン・ビーバーとコラボした「スタック・ウィズ・ユー」と、日本ではパロディ・ビデオが話題を呼んだレディー・ガガとの「レイン・オン・ミー」がいずれも米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”で初登場1位を記録し、4曲の初登場1位獲得タイトルをもつ唯一のアーティストとして歴代トップに立った。本作は、まさに“脂の乗りきった”タイミングでリリースされたというワケだ。
 
 その「ポジションズ」は、「歴史を繰り返さないことを願ってる」というフレーズではじまる政治的内容を絡めた意欲作。言わずとも来たるアメリカ大統領選挙に言及した内容で、女性大統領に扮したミュージック・ビデオも公開1週間で5,000万再生を超える大ヒットを記録している。タイミング的に少々あざとさが過ぎる気もするが、話題性に事欠かないという点ではアッパレと言わざるを得ない。最大の武器である歌唱力を存分に活かした……とは言い難いが、流行りのトラップ・ビートに乗せたライトなボーカルが心地よく、張り上げずとも余裕を感じさせる。プロデュースは前作で大活躍を遂げたトミー・ブラウンと、米アトランタのヒット・メイカー=ロンドン・オン・ダ・トラック。トミー・ブラウンは、本作でも7曲のプロデュースを担当している。
 
 アルバムは、透明感あるハイトーンと弦の音をフィーチャーしたオーケストラ風のイントロ「シャット・アップ」から、「thank u, next」の制作・ビデオにも参加したテイラー・パークスとの共作曲「34+35」で始まる。「34+35」は、「thank u, next」を下敷きにした心地よいミディアム&早口で畳みかけるボーカル・ワークが見事な傑作で、同日30日には次のシングルとしてカットされた。「34+35」とは体位を表す69に繋がる意味合いで、その内容もダイレクトな性的アプローチが満載。表現の仕方に賛否はあるだろうが、“ポップなアリアナちゃん”から一皮むけた感はある。
 
 同様に、早朝6時30分まで燃える、もしくは目覚めた時も同じ情熱で……という表現を含んだ「シックス・サーティ」や、上から相手を挑発する「ナスティ」など、セックス絡みの曲がいくつかある。中毒性高いキュートなミディアム・チューン「シックス・サーティ」は、「ポジションズ」のMVに映る時計が「6:30」と表示されていたこともファンの間で話題となっていた。こういうカタチで繋がるのも(良い意味で?)策略的というか、テイラーにも匹敵する策士っぷりに感心してしまう。「ナスティ」も歌詞の内容はさておき、冒頭から放たれるマライア直結のホイッスル・ボイスには脱帽。
 
 今年「セイ・ソー」で自身初の全米首位を獲得したフィーメール・ラッパー=ドージャ・キャットとのコラボ曲「モーティヴ」は、マーダー・ビーツがプロデュースしたハウスとトラップを交互に組み合わせたユニークな構成で、ドージャのガサついたラップも程よくアクセントになっている。「セーフティ・ネット」は、ラッパーのタイ・ダラー・サインをフィーチャーしたドリーミーな彩りのオルタナティブR&B。プロデュースは、デビュー作以来7年ぶりの参加となるプロダクション・デュオ=ラスカルズが担当した。ラスカルズは、前述の「ナスティ」も手掛けている。
 
 2014年の大ヒットナンバー「ラヴ・ミー・ハーダー」以来の共演となるザ・ウィークエンドとのデュエット「オフ・ザ・テーブル」も、同路線のミディアム。「ラヴ・ミー・ハーダー」ではアリアナに寄せていたが、この浮遊感ある黒いトラックはウィークエンドの特色を基としている。同曲には、米ロサンゼルスを拠点に活動するプロデューサー/DJの“Shintaro Yasuda”というアーティストが制作陣にクレジットされている。ザ・ウィークエンドは、今年の春リリースしたアルバム『アフター・アワーズ』が4週連続のNo.1をマークし、収録曲「ブラインディング・ライツ」も2020年最大のロング・ヒットを記録。デュエットした6年前に、両者がここまでブレイクするとは誰が予想できただろう。
 
 前作で味をしめたか、ラップを絡めたボーカルでヒップホップ・アプローチを強めた「ジャスト・ライク・マジック」、故アリーヤの「ワン・イン・ア・ミリオン」(1996年)をサンプリングした「ウェスト・サイド」、自慢のロングヘアをテーマにした スコット・ストーチによるプロデュース曲「マイ・ヘアー」あたりは90年代R&Bの面影もあり、ポップ・シンガーからの脱却を伺わせる。 初期のファレルを彷彿させる風通しの良いディスコ・フレイバー「ラヴ・ランゲージ」、ワンリパブリックのライアン・テダーが参加した「オブヴィアス」といったキャッチーな曲もあるが、全体はディアム~スロウが中心の落ち着いたトーンで統一されている。
 
 浄化されるようなメロディー・ライン、美しいパーカッションと弦の音、ゴスペルにも通ずるコーラス・ワーク、そして持ち前の歌唱力を存分に発揮した壮大なバラード「pov」でアルバムは幕を閉じる。本来の武器である歌のアプローチも控えめに、「プロブレム」(2014年)や「7 rings」(2019年)のようなインパクトに優れた曲はないが、これまでのイメージから解き放たれた今の彼女の在り方を明確に表現したアルバム、とはいえるだろう。本作からまた何曲のヒットが生まれるか、チャート・アクションもたのしみなところ。

Text: 本家 一成

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