もっと笑っていられますように、力を抜く準備運動をするための5曲

2020年10月26日 / 18:00

もっと笑っていられますように、力を抜く準備運動をするための5曲 (okmusic UP's)

歳を重ねると悩みの濃度と硬度が増して、ただその場で霧散させたいがために宵闇に紛れても「うっせえ、分かってんだよそんなこと!」と怒声をあげたくなる的外れの説教がこめかみをかすめ、しかし自分の人生は所詮誰かにとって暇つぶしのコンテンツにすぎず、涙を拭けるのは自身の腕だけだという孤独感が唇をがたがた震えさせる今日この頃。今回は未曾有の天災と底冷えの景気と恐怖のウイルスから逃げ惑う体を少しだけ解してくれるような、毛玉みたく雁字搦めになった神経をほどいてくれるような音楽を集めました。自己肯定感には到底辿り着けないけれど、ひとまず今夜も捨て鉢にならず踏み止まれたことに乾杯。
「虎」(’10) /ハンバート ハンバート

「ハンバート ハンバートほどの音楽家ですら日々これほどの葛藤を抱えているのか」という衝撃と、表現の懊悩をこんなにも美しい作品として練り上げるふたりはやはり特別な存在であるという畏怖と、それよりももっとずっと早く涙が頬の体温を奪う名曲。中島敦の『山月記』の李徴のように虎と化すこともなく、納得できる創作物を完成させることもなく、ただ酒を煽って寝入る怠惰と、押韻の心地よさでポップスに落とし込まれた腹の内の仄暗い感情が、シンプルなスローテンポのピアノと直線的で力強いハーモニーで純化されるカタルシス。普遍的で個人的な箱庭サイズの事象が光る曲に結晶する現実が、どれほどのか細くもきらめいた希望を放っていることか。
「今更」(’13)/赤い公園

このコラムの連載開始位以来、何度か触れてきた赤い公園。「今更」はライターとして駆け出しの頃、初めて原稿料をいただけるレビューを執筆した楽曲だった。鼻歌のようにふわりとファルセットに転化する複雑巧緻でしなやかな歌唱と、弦楽のカッティングの隙間を縫うように硬質で乾いたドラミングがぴたりと重なる小気味良さが血を沸きたせ、ヴォーカルを際立たせる静とエフェクターの爆風が吹き荒れるギターの動の抑揚。そこかしこにあふれる遊び心に金属の上をすばしっこく滑る光芒にも似た才覚が走っていた。だから、この今日の歌詞のようにあんまり生き急がないでくださいよ、寂しいじゃないですか。
「AH!」(’20) /ラブリーサマーちゃん

映画『ファイト・クラブ』に触発されたという「AH!」は、アルバム『THE THIRD SUMMER OF LOVE』に収録。無味乾燥な日常に亀裂を生じさせる冒頭のゴツゴツしたベース音とキャッチーなギターのリフ、「かくあらねばならぬ」虚飾の拘束から解き放たれるハレ感を加速させるクラップハンド、キュートネスとシニカルさが絡み合うヴォーカルには、ハードコアな曲想とポップ質感が静脈と動脈のように共生する。1990年代のUSインディーロックとその系譜に連なる2000年代のJ-POPシーンを彷彿させながらも、2020年代をサバイブしなければならない不安を払拭させる新しさに満ちたパワフルな一曲。
「横になっちゃお」(’18) /田島ハルコ

“ニューウェイブギャル”田島ハルコのキラーチューンは秒単位でアップデートを繰り返しているのでどの曲を紹介すべきか迷いに迷ったのだが、「横になっちゃお」の究極の許しのようなタイトルに根負け。スティールパンがどこにもない夏と頭の中にしか存在しない浮遊感を誘発し、トラックの遠い鳴りが張り詰めた自意識を融解するレゲエナンバーは、どこを掬い上げてもパンチラインしかない、美しく強いリリックの宝箱。スマートフォンの明かりだけが自身の輪郭を鮮明にする闇の中で《「外国に行けば」とかいうけれど、ここまで逃げてきたそれで十分》《インターネット/インナースペース/紛れもなく私こそが宇宙》は特に響く。
「ガス抜き記念の日」(’19)/カイ

9月に開催されたワンマンライヴをもって活動休止したカイのEP『ペーパー・ダイヤモンド』から、鈴木慶一が作詞と作曲を手掛けた「ガス抜き記念の日」を。BELLRING少女ハート時代から異質という表現すら飄々と突き放すほど“カイ”という存在そのものであった彼女のキャラクターがそのまま落とし込まれたようなヘタウマで愛くるしい歌唱が、1980年代のアイドルシーンの幻影が揺らぐエレクトロサウンドに刹那的な立体感を生じさせる。《ガス抜けちゃって 抜けちゃって 抜いちゃって/ダウン 空を 抜け落ちる方がマシよ》という脱力感の皮をかぶった諦観の先で祝杯をあげるかの如くアウトロが、きっと明るいものでありますように。
TEXT:町田ノイズ

町田ノイズ プロフィール:VV magazine、ねとらぼ、M-ON!MUSIC、T-SITE等に寄稿し、東高円寺U.F.O.CLUB、新宿LOFT、下北沢THREE等に通い、末廣亭の桟敷席でおにぎりを頬張り、ホラー漫画と「パタリロ!」を読む。サイケデリックロック、ノーウェーブが好き。


音楽ニュースMUSIC NEWS

鈴木愛理、THE FIRST TAKEバージョン「恋におちたら」配信開始&『バズリズム02』で地上波初披露へ

J-POP2024年4月26日

 鈴木愛理の「恋におちたら feat. 空音 & ☆Taku Takahashi(m-flo)- From THE FIRST TAKE」が本日4月26日に配信リリースされた。  本楽曲は、2005年にリリースされたCrystal … 続きを読む

リンキン・パーク、2006年日本公演で初披露された「クワーティ」が音源と映像で公開

J-POP2024年4月26日

 本日26日に、リンキン・パーク2006年の来日公演で初めて披露された「クワーティ」のライブ音源がリリースとなり、ライブ映像もバンド公式YouTubeチャンネルで公開された。  2006年、彼らにとって重要な作品となる3作目の『ミニッツ・ト … 続きを読む

【FUJI ROCK FESTIVAL ’24】ラインナップ第5弾発表、レイ/ジーザス&メリー・チェインら9組の出演決定

洋楽2024年4月26日

 2024年7月26日~28日にかけて新潟県・苗場スキー場にて行われる【FUJI ROCK FESTIVAL ’24】のラインナップ第5弾が発表された。  今回出演が決定したのは、【ブリット・アワード2024】史上最多の6部門を … 続きを読む

菅田将暉、3rdアルバム『SPIN』7月リリース決定&予約受付スタート

J-POP2024年4月26日

 菅田将暉が、3枚目となるオリジナルアルバム『SPIN』を7月3日にリリースすることが決定した。  2017年から本格的に音楽活動を開始した菅田将暉。2019年リリースの「まちがいさがし」は、ストリーミング3億回再生を突破し、その年には『第 … 続きを読む

ハンバート ハンバート、秋のツアー【ハンバート家の秋の三夜】開催決定

J-POP2024年4月26日

  ハンバート ハンバートが、次回ツアーとなる【ハンバート家の秋の三夜】の開催を発表した。   “東京は空調の効いたホールで、名古屋は距離の近いライブハウスで、大阪はスズムシの鳴く野音で”をテーマとし、三所三様のツアーを楽しめる内容となって … 続きを読む

Willfriends

page top