『クラブ・フューチャー・ノスタルジア』デュア・リパ(Album Review)

2020年9月2日 / 18:00

 昨今では、原盤にリミックスや新曲を追加したデラックス・エディションの再リリースがブームとなっているが、リミックス曲のみで構成された新作はある種珍しく、こうして大々的にプロモーションされることも滅多にない。
 
 今年4月にリリースされたデュア・リパの2ndアルバム『フューチャー・ノスタルジア』は、米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”で2位をマークした「Don’t Start Now」をはじめ、ニュー・ディスコやハウス、シンセ・ポップなど80’sテイスト満載の傑作だった。クラブシーンでも人気を博し、こうしてリミックス盤がリリースされるのも必然だったといえる。
 
 本作からは、コンセプトである80年代を代表するポップ・クイーン=マドンナと、同時期の音楽に触発されたフィーメール・ラッパーのミッシー・エリオットという異色のコラボレーションを実現させた「Levitating」が先行シングルとしてリリースされている。
 
 「Levitating」はオリジナルの軸となった重要な曲で、本人も「最もお気に入り」だと自画自賛していた。原曲はミドル・テンポのブギー・ファンクだったが、リミックスは速度を上げたフューチャー・ベース風のダンス・トラックに焼き直している。マドンナが主導を握った感じも否めないが、そこは敬愛する先輩への配慮ということでご愛敬。両者の高低差あるボーカル、ミッシーのラップ・ヴァースもいいアクセントになっていて、レトロ&フューチャリスティックなMVとのマッチングも抜群だった。
 
 「Levitating」のリミックスを担当したのは、英ロンドンのDJ/プロデューサー=ザ・ブレスド・マドンナ。同曲の他、「Love Is Religion」のリミックスとアルバムのキュレーションも手掛けている。80年代と2000年代のダンス・トラックを軸に、過去から現在までのテイストを随所に盛り込み、アルバムをひとつにまとめ上げたのだそう。新型コロナウイルスによる自粛期間も、本作を完成させるのには最適だったとのことで、デュア・リパも「自宅に居ながらみんなとクラブにいるような感覚だった!」と制作期間を振り返っている。
 
 本作は、まさに「自宅に居ながらクラブにいるような感覚」をたのしめる内容で、マドンナの大ヒット作『コンフェッションズ・オン・ア・ダンスフロア』(2005年)を彷彿させる、フロアを再現した音を途切れさせない構成。原曲の良さを際立てた編集~曲の切り替わりも絶妙で、さすがは名だたるミュージシャンたちが集結しただけはある。
 
 オープニングはオリジナル盤同様タイトル曲の「Future Nostalgia」で、英ロンドンのエレポップ・バンド=ホット・チップのジョー・ゴッダードがリミックスを担当。次曲「Cool」も、トーヴ・ローが制作したオリジナルと温度差のあるエレクトロ・ハウスにリメイクされた。「Cool」を手掛けたのは、昨年初の来日を果たしたカナダの女性DJ=ジェイダ・G。終盤スロウダウンし、次の「Good in Bed」へ繋ぐ。
 
 リリース前から話題となっていたが、「Good in Bed」のリミックスには星野源がクレジットされている。自身の楽曲にも類似するレトロ感覚の原曲から、デュア・リパの本国制作チームが直接オファーしたのも納得。他アーティストのリミックスを手掛けるのは初の試みとのことだが、持ち前のセンスが最大限に発揮されたクオリティといえよう。星野氏のアイデアかは定かでないが、ネナ・チェリーの「Buffalo Stance」(1988年)が使用されているのも面白い。同リミックスには、エリカ・バドゥのミックステープ『バット・ユー・キャント・ユーズ・マイ・フォン』(2015年)で注目を浴びたザック・ウィットネスも参加。ザック・ウィットネスは、単体で6曲目の「Boys Will Be Boys」も担当している。「Boys Will Be Boys」は、リン・コリンズのファンク・クラシック「Think (About It)」 (1972年)を下敷きにしたブレイクビーツっぽい仕上がりに。
 
 原曲がチャート上昇中の「Break My Heart」は、ジャミロクワイのクラシック・ナンバー「Cosmic Girl」(1996年)とブレンドしたジェイ・ケイ流スペイシー・ディスコに、フロア色を強めた。なお、「Cosmic Girl」はベテランDJ/プロデューサーのディミトリ・フロム・パリによるリミックス・バージョンが使われている(ややこしい)。90年代のクラブ・シーンに詳しい方はニンマリしてしまうカモ?アルバムの最後には、米デトロイトを代表するDJ・ムーディーマンによるディープ・ハウス風味のリミックスも収録されている。
 
 ハウス・シーンでも人気の「Hallucinate」は、グウェン・ステファニーのNo.1ヒット「Hollaback Girl」(2005年)をサンプリングした<Mr Fingers deep stripped mix>と、ポール・ウールフォードがリミックスしたユーロ・ハウスの2パターンを別曲のように繋いだ。そのグウェン・ステファニーがゲストに、マーク・ロンソンがリミックスを手掛けた「Physical」は、前曲までの勢いを減速させたミディアム・テンポのニュー・ディスコにアレンジされていて、マーク・ロンソンが公言していた通り、グウェンのボーカルがなかなかの存在感を放っている。
 
 アメリカでも高い人気を誇る韓国のガールズ・グループ=BLACKPINKとコラボレーションした「Kiss and Make Up」も「Physical」路線のミディアムで、野太いスラップベースが80年代のヘヴィー・ファンクを彷彿させる。スティーヴィー・ニックスのヒットチューン「Stand Back」 (1983年) を冒頭に用いたジャック・ル・コントによるリミックス「That Kind of Woman」も、エイティーズ感満載。韓国系アメリカ人の女性DJ/プロデューサー=イェジが手掛けた「Don’t Start Now」は、原曲のポップさを取っ払った魅惑的な雰囲気のトラックに。
 
 原盤の本質はそのままに、名手たちが曲の潜在的な可能性を掘り起こした本作『クラブ・フューチャー・ノスタルジア』。リミックス・アルバムというよりはミックステープに近い感覚で、コロナ禍でフロアに出向けないクラバーたちにも愛聴されることが予想される。

 今年は『フューチャー・ノスタルジア』の他にも、ジェシー・ウェアの『ホワッツ・ユア・プレジャー?』やカイリー・ミノーグの『ディスコ』、そして米ビルボード・アルバム・チャート”Billboard 200″でNo.1デビューしたレディー・ガガの『クロマティカ』など、80年代に回帰したアルバムが続出し、ザ・ウィークエンドの「Blinding Lights」やセイント・ジョンの「Roses」など、シングルも同系統の曲がヒットしている。本作は、まさに流行の最先端にあるワケだ。

 Text: 本家 一成


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