ピーター・グリーン、ジェレミー・スペンサー、ダニー・カーワン、それぞれの個性が楽しめるフリートウッド・マックのアメリカ編集盤『英吉利の薔薇』

2020年8月28日 / 18:00

60歳過ぎのロックファンなら必ず記憶に残っているのが、キング・クリムゾンの『クリムゾン・キングの宮殿(原題:In the Court of the Crimson King)』(’69)とキャプテン・ビーフハートの『トラウト・マスク・レプリカ』(’70)のジャケット。これらの印象深い作品と並んで、大きなインパクトだったのが本作『英吉利の薔薇(原題:English Rose)』のジャケットだろう。面白いのはクリムゾンもビーフハートもジャケットが中身の音楽を想起させるイメージであったのに対して、フリートウッド・マックはその音楽(超ストイックな“どブルース”)とはまったく関係がないところ。今回はピーター・グリーンが7月に亡くなったこともあって、オヤジたちには思い出深い『英吉利の薔薇』を取り上げる。
ブリティッシュブルース全盛期

60年代中頃、ブリティッシュブルースは全英を席巻しており、ヤードバーズやジョン・メイオール&ブルースブレイカーズなどが力作を次々とリリースしていた。ヤードバーズにはクラプトン→ジェフ・ベック→ジミー・ペイジという三大ギタリストが入れ替わりで在籍しており、ヤードバーズを辞めたクラプトンはブルースブレイカーズに移籍、その後のロックの進む道を決定付けた名盤『ジョン・メイオール&ザ・ブルースブレイカーズ・ウィズ・エリック・クラプトン』(’66)をリリースし、イギリスで最高のギタリストと賞賛されることになる。そして、今度はクリームを結成するためにブルースブレイカーズを抜けたクラプトンの後任に選ばれたのが、フリートウッド・マックの看板ギタリストとなるピーター・グリーンである。クラプトンの後釜ということでのプレッシャーは大きかったと思うが、情感に満ちたグリーンのギタープレイは大いに注目され、イギリス全土にその名を知られることになる。しかし、グリーンはその地位にあぐらをかくことなく、ブルースを極めるためにブルースブレイカーズを脱退する。ブルースブレイカーズよりも泥臭い本物のブルースを目指して、ブルースブレイカーズの主要メンバーを引き抜く格好でピーター・グリーンズ・フリートウッド・マックを結成するのである。
フリートウッド・マック

67年、ピーター・グリーン、ミック・フリートウッド、ジョン・マクヴィー(彼はブルースブレイカーズとの契約が残っていたので、少し後に加入)、グリーンにスカウトされたスライドの名手ジェレミー・スペンサーからなるブルースバンドがここに誕生する。グリーンとスペンサーというタイプの違う最高のギタリストふたりをセンターに据えたパワフルなサウンドは、イギリスの若者たちのブルース熱をますます熱くさせるきっかけとなった。

デビューアルバム『ピーター・グリーンズ・フリートウッド・マック』(’68)は、ポップな要素のない本格的なブルース作品にもかかわらず全英4位まで上昇し、世界的にもその名が知られることになる。同年、2ndアルバムの『ミスター・ワンダフル』(このアルバムのジャケットも意味不明)をリリース後、3人目のギタリストとなるダニー・カーワン(18歳!)が加入する。グリーンはカーワンの才能を大いに認め、加入直後にもかかわらずシングル「アルバトロス」のB面「ジグソー・パズル・ブルース」(2曲とも『英吉利の薔薇』に収録)では彼のオリジナル曲を取り上げリードギターも彼に弾かせている。そして、翌年の69年に、アメリカで独自に編集されたコンピレーションアルバム『英吉利の薔薇』がリリースされる。
本作『英吉利の薔薇』について

本作『英吉利の薔薇』は日本でもリリースされ、このアルバムが彼らの日本デビュー作となる。当時はサンタナの「ブラック・マジック・ウーマン」が大ヒットしていたこともあって、最初に出た日本盤はAB面が逆(オリジナル盤は「ブラック〜」がB面1曲目のため)での発売であった。

収録曲は12曲。彼らの2ndアルバム『ミスター・ワンダフル』から1、3、5、6、8、11の6曲が選ばれ、2、7、12の3曲はシングルリリース作、4、9、10の3曲は新録という構成。一部の曲(2ndの6曲)にはホーンセクションとピアノ(クリスティン・パーフェクト。のちにジョン・マクヴィーと結婚しマクヴィー姓となる)が加わっている。

明らかにカルロス・サンタナが模倣したと思われる「ブラック・マジック・ウーマン」をはじめとするマイナーブルースでのグリーンの情感豊かな指弾き、エルモア・ジェイムズに影響されたスペンサーの本格派のスライド、そして当時まだ10代のカーワンによるジプシージャズ風プレイなど、オリジナル盤ではなかなか味わえなかった3人の個性的なプレイが聴けるところが本作の肝である。全英1位を獲得したインストの「アルバトロス」は、グリーン作にしてはブルース色が感じられないナンバーであるが、エイモス・ギャレットやダニー・ガットンなど多くのギタリストがカバーした「スリープウォーク」のオマージュとして、カーワンとの共演を楽しむべきだろう。

ピーター・グリーンの前向きな姿勢が見受けられるこの頃のフリートウッド・マックは良質のブルースバンドであった。曲によっては、シカゴブルースのコンピに収録されていても気づかないぐらいの本物感すら漂っている。

この後、グリーンはダニー・カーワンに音楽的リーダーを任せるが、彼のポップな感性と合わず、3rdアルバム『ゼン・プレイ・オン』(’69)を最後にグループから脱退する。これは、70年代を前にブルースバンドでは食えないというグループの決断であり、薬物の問題があったとはいえ、グリーン自身もそのことを分かった上で脱退したのではないだろうか。いずれにしてもグリーンはブリティッシュブルースを牽引した最も優れたギタリストのひとりであったことは確かで、彼に哀悼の意を表したい。
TEXT:河崎直人
アルバム『English Rose』
1969年発表作品

<収録曲>

1. ストップ・メッシン・ラウンド/Stop Messin’ Round

2. ジグソー・パズル・ブルース/Jigsaw Puzzle Blues

3. ドクター・ブラウン/Doctor Brown

4. サムシング・インサイド・オブ・ミー/Something Inside of Me

5. イヴニン・ブギ/Evenin’ Boogie

6. ラヴ・ザット・バーンズ/Love That Burns

7. ブラック・マジック・ウーマン/Black Magic Woman

8. アイヴ・ロスト・マイ・ベイビー/I’ve Lost My Baby

9. ワン・サニー・デイ/One Sunny Day

10. ウィズアウト・ユー/Without You

11. カミング・ホーム/Coming Home

12. アルバトロス/Albatross


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