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『ジーザス・イズ・キング』カニエ・ウェスト(Album Review)

 カニエ・ウェストは、歳を重ねる毎に独自のキャラクター・スキルを上げていく。とてもじゃないが、ひと言で「アメリカのラッパー」では片づけられない。何しろ、イージーブーストの大成功から政治的(問題?)発言・活動、そして今や「キリストに仕える」人になって、ゴスペルを世に広める使命として、本作『ジーザス・イズ・キング / JESUS IS KING』を完成させたというのだから。

 神の子となり、本当の自由を手に入れ解放された……と、公言するカニエ。「遂にそこまでイったか……」と呆れ声も飛び交っているが、彼の信者はじめ、その思想を割と好意的に受け入れている人も少なくはない。本人の思想は偏っているが、聖書や歴史もきちんと勉強しているし、セレブを巻き込んだ【サンデー・サービス】(日曜礼拝)を主催したりと、話題作りやおフザけ的ノリではないことは確か。

 現に、本作には<ペアレンタル・アドヴァイザリー>の表記もないし、全ての楽曲に神への畏敬の念が含まれている。逆にいうと、ラッパー=カニエの新作を期待していたファンは、お茶を濁されたといえなくもないが、ゴスペル・アルバムというコンセプトは固めつつ、カニエらしさも随所に現れたサウンド・プロダクションは、ヒップホップ・フォロワーにも納得できる仕上がりにはなっている(ラップもしてるし)。

 本作は、2018年6月にリリースした『Ye(イェー)』から約1年ぶり、9枚目となるスタジオ・アルバム。その前作は、当時患っていた鬱っぽさをあえて前面に出した(ある意味)快作だったが、本作ではその迷いが“神によって”払拭された、そんな印象を受ける。そう考えると、カニエ(このアルバム)を通じて宗教の偉大さを実感できるし、とても笑い話にはできない。まあ、諸々の問題発言や延期に延期を重ねた迷走っぷりは、相変わらずといえなくもないけど。

 アルバムのオープニングを飾るのは、カニエ率いるゴスペル・グループ=サンデー・サービス・クワイアがフィーチャーされた「Every Hour」。なお、メンバーには含まれているが、同曲にカニエのボーカルは含まれていない。「神の力が降るまで歌い続ける」という壮大なコーラスをバックに、女性シンガーが力強く祈りを届ける、ゴスペル・ソングの真骨頂ともいえるナンバーで、曲冒頭にはカニエお得意の“早回し”っぽいフレーズも登場する。

 続く「Selah」もそう。宗教思想を綴ったカニエのラップから、ハレルヤを連呼するゴスペル・コーラスに移行する、ヒップホップ的要素も含んだトラックは、まさにカニエの業。同曲には、ベニー・ブランコとフランシス・アンド・ザ・ライツがプロデューサーとして参加し、プシャ・Tもソングライターにクレジットされている。なお、タイトルの「Selah」とは、神への賛美の詩である『詩編』に登場するヘブライ語なのだそう。

 まさにカニエの業といえば、3曲目の「Follow God」だ。初っ端に流れるレトロなボーカルは、ホール・トゥルースというアーティストの「Can You Lose By God God」(1974年)という曲で、マニアックなネタを下敷きにラップするスタイルは、これまでの作品と何ら変わりない。ティンバランドが制作/プロデューサーとして参加した「Closed on Sunday」も、歌詞こそ宗教的だが、ゴスペル・ソングにはカテゴライズし難い。この曲では、チキンで有名な米ファーストフード店のChick-fil-A(チックフィレ)を用いて、(日曜は)休むことの重要性を述べている。これも、キリスト教の日曜礼拝に通ずるもの。

 ピエール・ボーンが手掛けた「On God」は、ひと昔前のエレクトロ・ヒップホップを焼き直したような曲。サウンド的には『808s&ハートブレイク』(2008年)に近いものがある。グラミーの基準をディスったり、奴隷制の禁止を示した憲法修正第13条も用いたりと、カニエらしい訴えも散りばめつつ、家族愛や神への感謝を歌っている。

 タイ・ダラー・サインがコーラスで参加した「Everything We Need」は、ヒップホップとゴスペルをブレンドした優しい旋律のミディアム。リリース前に故XXXテンタシオンも加わったバージョンがリークされたが、歌詞の問題点等からゲスト・クレジットが外され、内容も書き換えたものとして収録されている。同曲には、マイク・ディーンも制作/プロデューサーとして参加した。

 本作の完成に至るまでの経緯を歌っているようにもとれる「Hands On」には、ゴスペル・シンガーのフレッド・ハモンドがゲストとしてクレジットされているが、エフェクト効果を含め、彼の良さがイマイチ引き出せていないようにも思える。一方、ラップ・デュオのクリプスと、ケニー・Gという異色コンビによる「Use This Gospel」は、いずれのパートもアーティストの主張がしっかりされていていい。

 これまで犯した過ちを洗浄し、新しい自分に生まれ変わる“洗礼の儀式”を意味した「Water」は、美しいコーラスを響かせるカニエ流メロウネス。同名のゴスペル・ソングをサンプリングした「God Is」も、ピアノの伴奏と壮大なコーラスをバックに従えた甘美なバラード曲で、個人的にはこのテの曲がもう少し欲しかったが(アルバムのコンセプトとして)、カニエらしいゴスペル・アルバムという視点では上手い具合にまとまったのではないか、と思う。

 先日米LAではドキュメンタリー映画『ジーザス・イズ・キング』のプレミアも開催され、来たるクリスマスに同ゴスペル・アルバムである『ジーザス・イズ・ボーン』をリリースすると話していたカニエ。傾向からみると延期は必須だが、ホリデー・アルバムは時期をズラすと1年温めなければいけないワケで、予定通り発表される可能性もないとはいえない……?

Text: 本家 一成

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