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『Map of the Soul: Persona』BTS (防弾少年団)(Album Review)

 アメリカの音楽シーンにおいて、アジア系のアーティストがここまで人気を博したことが、過去にあっただろうか。たとえば、同韓国出身のシンガー=PSY(サイ)は、2012年に「江南スタイル」が米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”で2位を記録する大ヒットを放ち、翌2013年の「ジェントルマン」も最高5位をマーク。2曲連続のTOP10入りという大快挙を達成したが、どうにも“色モノ”的扱い否めず、あっさりシーンから姿を消した。

 日本人では、1963年に「上を向いて歩こう(SUKIYAKI)」でアジア人初の全米No.1獲得を果たした坂本九がいる。この成功は、「日本人もアメリカで成功できるんだ!」と、のちのアーティストたちに大きな影響と希望を与え、その後、松田聖子や宇多田ヒカル、ここ最近ではピコ太郎が「PPAP」(2016年)でランクインを果たしたが、いずれも「上を向いて歩こうに続く大ヒット」と呼ぶには届かず、大衆に名前を刻んだアーティストはいない、に等しい。

 対して、BTS (防弾少年団)はどうだろう。2018年は、『LOVE YOURSELF 轉 ‘Tear’』がK-POPアーティストとしては初の米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard 200”1位に輝き、そのわずか3か月後には『LOVE YOURSELF 結 ‘Answer’』も同チャート1位を獲得。1年間で2枚のアルバムを首位に送り込むことは、本国で活躍するトップ・アーティストでも、なかなか成し得ないことだ。前者からは「Fake Love」がシングル曲としても初のTOP10入りし、後者からもニッキー・ミナージュをフィーチャーした「Idol」が、11位まで上り詰めるヒットを記録した。彼らの存在は「大衆に知られている」といっていいだろう。

 ミニ・アルバム『O!RUL8,2?』をリリースした2013年時点で、BTSがここまでのスーパースターになると、誰が予想していただろうか。いや、その時点で彼らの才能を確たるものだと信じたファンは、この展開を6年前から予想していたのかもしれない。

 アメリカでも当然のように名前が出てくるようになった、唯一のアジア系アーティスト=BTS。大ブレイクした昨年に続く、2019年初のアルバム『Map of the Soul: Persona』(マップ・オブ・ザ・ソウル:ペルソナ)は、さらに多くの“全世界のファンに率直な思いを伝えたい”という意味とストーリーが込められた意欲作。タイトルは、ユング心理学の入門書であるマレイ・スタインの『ユング 心の地図』からつけられたのだそう。

 RMのカムバック・トレイラーが公開されたオープニング・ナンバー「Intro: Persona」では、ギターリフ唸るロックとヒップホップが融合したトラックに、RMが韓国語と英語を交えながら巧みなラップを炸裂させる。彼らの人気が女性ファンだけにとどまらないのは、こういったパフォーマンスも余裕でカマせちゃうからだろう。中盤に登場する、スーパーマリオのコイン獲得音も遊びゴコロがあって◎。

 2曲目の「Boy with Luv」は、アルバム発売日にシングル・カットされた、本作の“目玉”ともいえる1曲で、ザ・チェインスモーカーズの「クローサー」(2016年)でボーカルを担当したシンガーソングライターのホールジーが、ゲスト・ミュージシャンとしてクレジットされている。

 ホールジーといえば、今年初頭に「Without Me」がリード曲としては初のNo.1を獲得したばかりで、現在もチャート上位にランクインし続けている。上半期大ブレイクした彼女の起用は、本作への大きなプロモーション効果を果たしたといえるだろう。テーマ、ビジュアル、サウンド全ての要素が重たい「Without Me」とは対照的に、「Boy with Luv」は突き抜けるほど明るい、ポップでフロアライクなダンス・トラック。ホールジーも、まるで別人かのようなボーカルワークを披露した。歌詞の中に「既読スルー」が登場するのも、今っぽくてイイ。インスタ映えする鮮やかな色彩が印象的なミュージック・ビデオは、公開1週間経たずして再生回数1億回を突破している。

 “小宇宙”という意味をもつ次曲 「Mikrokosmos」のタイトルは、古典や哲学から着想を得ているとのことで、ジェイ・Z&ビヨンセ夫妻等トップ・アーティストを手掛ける、カナダ出身のDJスウィベルが制作陣に加わった、カラフルなエレクトロ・ポップ。歌詞も、“輝く星の光”や“人々の明かり”など、宇宙を連想させる内容になっている。

 エド・シーランが、ソングライターに加わった4曲目の「Make It Right」は、独特な間切りが“エド節”全開のブリティッシュ・ポップ。ジョングクのファルセットとRMのラップ・パートが、曲の持ち味を引き出している。次曲「Home」も、ボーカルとラップ・パートが見事に調和された傑作。この曲はファンに向けられたメッセージ・ソングで、タイトルの“ホーム”とは「ファンの待つ場所」を指しているのだそう。ライブでのパフォーマンスが盛り上がりそうな一曲だ。

 フランス語で「見たことがない」という意味をもつ「Jamais Vu」は、歌唱力に定評のあるジョングクとジン、ジェイホープの3人からなるユニット・ソング。解決策を見出そうともがく様を描いた、本作唯一のメロウ・チューンだ。BTSは、ダンス系を得意とする印象があるが、スロウ・ジャムも文句なしの出来栄え。ラストの「Dionysus」は、冒頭のタイトル曲にも通ずる、ロックとヒップホップを通過した斬新なサウンド・プロダクション。日本でいう“第一次K-POPブーム”が巻き起こった、2000年代後期のサウンドも彷彿させるクールなトラックだ。

 7曲と小粒ながらも、1曲1曲の質が高く、2枚のアルバムが全米首位獲得を果たしたにもかかわらず、プレッシャーというよりは、今までの作品以上に余裕と自信に満ちている作品に仕上がった。

 本作は、発売前日の時点で累計300万枚を超える予約販売枚数を記録し、リリース翌日には『サタデー・ナイト・ライブ』(SNL)にゲストとして出演し、「Boy with Luv」のパフォーマンスも披露した。反響も絶大で、3作目となる米ビルボード・アルバム・チャート1位獲得も濃厚ではないだろうか。今作を経て、今年中に『LOVE YOURSELF 轉 ‘Tear’』に続くフル・アルバムがリリースされることも期待したい。

Text:本家一成

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