『フリー・スピリット』カリード(Album Review)

2019年4月8日 / 18:00

 2010年代にも多くの男性R&Bシンガーが誕生したが、カリードは間違いなくその主要メンバーとして選出されるだろう。デビューからわずか3年という短い期間ながら、2017年のデビュー・アルバム『アメリカン・ティーン』1枚だけで、絶大なインパクトをリスナーに植え付けた。その『アメリカン・ティーン』からは、デビュー曲「ロケーション」が米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”で最高16位、R&Bチャートでは2位をマーク。続く2ndシングル「ヤング・ダム&ブローク」も同チャート18位を記録し、R&Bチャートでは自身初のNo.1獲得を果たした。

 同2017年には、ラッパーのロジック、ポップ・シンガーのアレッシア・カーラとコラボした「1-800-273-8255」が、Hot 100チャートで初のTOP10入り(最高3位)し、翌2018年には、映画『ラブ・サイモン』のために書き下ろしたフィフス・ハーモニーのノーマニ・コーディとのデュエット曲「ラヴ・ライズ」が最高9位を記録。同年10月に発表したばかりのEP盤『サンシティ』もアルバム・チャート8位、R&Bチャートでは1位に輝き、本作からのシングル「ベター」が現在チャートを上昇中。Hot 100では16位まで浮上し、R&Bチャートでは自身3曲目のNo.1をマークした。また、年始にはベニー・ブランコ&ホールジーとのコラボ曲「イーストサイド」も、9位に送り込んでいる。

 こうしてチャートの功績を振り返るだけでも、カリードが今いかに“ノって”いるアーティストかがわかる。そのタイミングで発表した本作『フリー・スピリット』が高い注目を集めているということは、言うまでもない。アルバムからは、英イングランドの兄弟デュオ=ディスクロージャーが制作・プロデュースを手掛けた「トーク」がヒット中。彼らが得意とするシンセポップやフューチャー・ガラージといったサウンドを基に、リズム(テンポ)はあくまで横ノリ。最先端のようで、どこか懐かしい感じもするのは、カリードの温かみあるボーカルにある。

 EP盤『サンシティ』からのシングル「ベター」も、本作に収録されている。この曲は、米NYの売れっ子音楽プロダクションチーム=スターゲイトによるプロデュースで、下地のキいたドラム・ベースが特徴的な、オルタナティブR&Bの真骨頂ともいえるナンバー。カリードのキャラクターにもぴったりハマっていて、ヒットも納得の出来栄え。2億回視聴を突破したミュージック・ビデオでは、昨年10月の来日公演でみせた、軽いステップも披露している。この風貌でダンスも軽やかという意外性……。

 ミュージック・ビデオといえば、本作に収録された全楽曲のリリックと、アーティスト性を展開したショートフィルムが、アルバムの発売に合わせて公開されている。46分超えの大作で、その内容は“フリー・スピリット”というタイトルにちなんだ、若者たちが自分探しの旅に出るストーリーになっている。カリード自身も所々に登場し、ドキュメンタリーのような仕上がりに。制作したのは、ネオンカラーがインスタ映えしそうな「トーク」のミュージック・ビデオを手掛けた、英ロンドンのディレクター=エミル・ナヴァ。ポスト・マローンの「ロックスター」や、カルヴィン・ハリス&デュア・リパの「ワン・キス」など、ヒット作を連発している売れっ子だ。

 アルバムからは、3曲目に収録された「マイ・バッド」が先行トラックとして公開されている。タイ・ダラー・サインやトレイ・ソングスといったライバル・シンガー等も手がける、米ブルックリンの音楽プロデューサー=Dマイルが手掛けたナンバーで、90年代のネオ・ソウルを彷彿させる、アーバン・テイスト漂う傑作。この曲から「ベター」の流れも最高だ。 マーダー・ビーツ(ドレイク、ミーゴス等)がプロデュースした「ドント・プリテンド」や、ドレイクやドクター・ドレ―などをプロデュースする、米カリフォルニアのヒットメイカー=DJダヒによる「パラダイス」も、都会的な雰囲気を醸す好曲。

 その「パラダイス」から次曲「ハンドレッド」で、ソウルからポップへ唐突展開が変わる。「ハンドレッド」は、トロイ・シヴァンとのコラボが話題の、米ニューヨーク出身の若手シンガーソングライター=ラウヴがクレジットされたナンバーで、彼らしい煌びやかなエレクトロ・ポップを、カリードが見事に調和させ、歌いこなしている。ジョン・メイヤーとのデュエット曲「アウタ・マイ・ヘッド」も、ジョン・メイヤー“らしい”旋律が特徴のポップ・チューン。カリードが幅広い層に支持されているのは、R&Bというジャンルに捕らわれず、アルバム・トータルのバランス感覚も絶妙だから、だろう。タイトル曲やラストの「ヘヴン」では、その全てを網羅しているような壮大さも感じられる。

 ゲスト・クレジットは少ないが、制作陣は豪華。オープニング曲の「バッド・ラック」には、昨年ケンドリック・ラマーが大ヒットさせた『ブラックパンサー:ザ・アルバム』収録の、「オール・ザ・スターズfeat.シザ」を手掛けたアル・シャックスが、ディスティニーズ・チャイルドのミシェル・ウィリアムズも参加した「ライト・バック」には、R&B界を代表する名プロデューサー=ロドニー・ジャーキンスが、ヒップホップへのアプローチも感じられる「セルフ」は、ジェイ・Zやカニエ・ウェスト、エミネムなどの大物を多数手がけるヒット・ボーイが、触ったら崩れてしまいそうなアコースティック・メロウ「アライヴ」には、ここ最近目覚ましい活躍をみせる、女性シンガーソングライターのエミリー・ウォーレンが、それぞれ参加した。

 国内盤には、ボーナス・トラックとしてカントリー・シンガーのケーン・ブラウンとコラボした「サタデー・ナイツ」のリミックスも収録。

 米ジョージア州フォートスチュワート生まれ。米ケンタッキー州~ニューヨーク州に移住し、ドイツのハイデルベルクでは6年間を過ごしたという、カリード。幼少期は軍の合唱団に入り、高校時代には歌とミュージカルを勉強していたそうで、あのバリトン・ボイスはその経験が活かされた賜物なのだと納得させられる。低音で丁寧に歌う印象があるが、実は2オクターブの音域をもっているそうで、本作でも何曲か、曲の終盤でそのハイトーンをお披露目している。

 デビュー曲「ロケーション」は、Twitterでシェアされた新人アーティストから選定される“エマージング・アーティスト”で2位を記録。前述にもあるように、最終的にはHot 100チャートでTOP20入りする大ヒットを記録した。これまで6曲のR&BチャートTOP10入りを果たし、2018年1月28日に開催された【第60回グラミー賞】では5部門にノミネートされ、まさに順風満帆なキャリアを歩んでいる。本作『フリー・スピリット』では、自身初の全米アルバム・チャートNo.1も期待できるかもしれない。

 しかし、今年の2月に若干“21歳”のバースデーを迎えたばかりという事実には、いろんな意味で驚かされる。

Text:本家一成


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