Every Little Thingが時代に即した要素を過不足なく楽曲に詰め込んだ大ヒット作『Time to Destination』

2019年2月27日 / 18:00

3月15日(金)より持田香織のソロ活動10周年を記念した全国ツアー『KRASYS presents 持田香織10周年記念コンサートツアー2019「てんとてん」』が開催される。というわけで、今週はEvery Little Thingの2ndアルバム『Time to Destination』をご紹介。アルバムセールス歴代第10位。邦楽史にその名を残す大ヒット作である。
1998年に最も売れたオリジナルアルバム

冒頭から個人的な話で申し訳ないが、まずEvery Little Thing(以下ELT)で思い出したことをひとつ。あれは1999年か、その前後だったと思う。確かヴォーカルコンテストだったと記憶しているが、筆者がその審査員のひとりに招かれたことがあった。公開イベントではあったが、ライヴハウスを運営する会社の主催イベントで、自社のレーベルからデビューさせる新人発掘の意味合いもあったのだろう。出場者のほとんどが10代女子だったようにも記憶している。今となっては誰が優勝したとかまったく思い出せないが(当時そんなコンテストはいっぱいあって、審査員を任されることも多かったし、その中で記憶に残るような強烈な個性に出会うことがなかったのは残念でもあるのだが)、そのヴォーカルコンテストではとにかくELTのナンバーを歌う出場者が多かった。出場者が次から次へと「Time goes by」や「fragile」を歌うので(曲目ははっきり覚えてないので適当です)、かなり食傷気味だったほどだ。司会を務めた人物も同じように感じたのか、“さすがにEveryだけありますねぇ”みたいなことを言っていた。若干半笑いだったような気もする。まぁ、だからこそ余計に記憶に残っているのだけれど、ELTにさほど興味のなかった自分ですら、このグループが10代を中心に絶大な人気を誇っていることを実感させられた出来事ではあった。

ELTは1998年の年間売上金額第3位のアーティスト。同年に発表された2ndアルバム『Time to Destination』は、これまた年間売上第3位であったが、第1位と第2位はB’zのベスト盤『B’z The Best “Pleasure”』『B’z The Best “Treasure”』であったのだから、この年のオリジナルアルバムで最も売れたのがELT『Time to Destination』であった。気になって少し調べてみたら、『Time to Destination』の売上は歴代でもトップ10に入る作品(歴代11位という説もある。いずれにせよ、相当に売り上げたアルバムであることは間違いない)。ELT自体のアルバム、シングルを合わせた売上も、邦楽アーティストの歴代ベスト25には入るほどなので、そんなグループを指して“10代を中心に絶大な人気を誇っていることを実感”とは、読者に皆さんにとってはそれこそ笑い話だろうが、あくまでも前世紀における個人的な感想だったことをご理解いただきたい。

アルバム『Time to Destination』収録曲は、M1「For the moment」(4thシングル)、M3「Face the change」(7th)、M8「出逢った頃のように」(5th)、M9「Shapes Of Love」(6th)、M11「Time goes by」(8th)と、全11曲中5曲がシングル。M4「Old Dreams (Instrumental)」は短いインストなので、実質は半分が既発曲で、M3とM11はシングルとはアレンジが異なっているものの、準ベスト盤といった容姿ではある。M1がELTの初のチャート1位獲得シングルで、M11が初のミリオン作品であり、アルバム『Time to Destination』はそのELT最大売上を記録したシングル「Time goes by」のわずか2カ月後に発売されたものだ。なるほど。その概要だけでも売れる要素は揃っている。

もっと言えば、本作が発売された1998年はCD販売枚数がピークを迎えた年でもある。この年は実に25作ものアルバムがミリオンセールスを記録している。所謂“CDバブル”の絶頂期であったことも本作の売上を後押ししたのであろう。もちろん、それだけで300万枚を軽く超えるような奇跡が起こるわけではなく、『Time to Destination』にはそれだけ多くの人を魅了するだけの成分が入っていることは疑うべきもない。そんなわけで、今回初めて『Time to Destination』を聴いた。1998年当時、ELTに対する認識が“10代を中心に絶大な人気を誇るグループ”くらいだったので、能動的に聴いたのはもちろんこれが初めてだ。…なるほど。確かにこれは当時の若い子たちに支持されただろうなぁとは思う。半可通ながら辛うじてそれは理解できた。以下、その理由を記す。
親しみやすく、聴きやすいサウンド

とにかくメロディーが分かりやすい。いい意味でアクが強くないと言えばいいだろうか。平板でもないが、コンテンポラリーR&Bのように抑揚が強調されたものもない。収録曲は全てそうだ。もう少し突っ込んで言えば、耳に残るキャッチーなメロディーではあるのだが、歌い上げるようなレンジの広さはないということになると思う。また、若干語弊があると思われるので具体的にどの曲が…とは指摘しないが、当時のJ-POPの最大公約数とでも言うべき、作曲の巧みさも感じられる。『Time to Destination』を聴いていて、“このコンポーザーは○○○○では?”とか、“これは△△△△のカバーか?”と思うような瞬間がいくつかあった。

そのメロディーを極めて個性的な声の持ち主というわけではない持田香織(Vo)が歌う。彼女の声は個性的ではないが、かわいらしい声であることは間違いなく、そのナンバーは多くの人にとって親しみやすいものになることもこれまた間違いない。その上、彼女は幼い頃から芸能活動をしていただけあってルックスも良く、その辺でも好意的に受け入れたリスナーが多かったことだろう(『Time to Destination』のジャケ写に今も残るワンピース姿はとてもキュートであるし、もしかすると彼女は一時期ファッションリーダー的な存在のひとりだったのかもしれない)。

親しみやすさを備えたシンガーが歌う分かりやすいメロディー。これがウケないわけはなく、特に10代の女子には見事にフィットしたのだろう。おそらくカラオケでもよく歌われていたのだろうし、ヴォーカルコンテストでELTのナンバーを歌う人が続出したことも納得である。20年を経て腑に落ちた。

一方、そのサウンドは…と言うと、これもまた個性が突出しすぎず、かと言って無個性ではない、面白いバランスの仕上がりだと思う。ヴォーカル+ギター+キーボードという当時のELTのスタイルの意義とでも言うべきものがしっかりと感じられる。ドンシャリ感は仕方がないだろうし、随所に登場するオーケストラルヒットもこの時代ならではのご愛敬と理解して、そこは差っ引いて考えると、バンドアレンジはなかなか巧みだ。当たり前のことだが、それぞれの楽器がそれぞれ別の演奏をしながら、それが合わさってひとつの楽曲となっていることが分かる。オープニングのM1「For the moment」からしてそうなので(しかも、これはシングル曲)、ミキシングのバランスはある程度、意識したものかもしれない。

伊藤一朗(Gu)というギタリストを擁しているだけあって、M2「今でも・・・あなたが好きだから」、M6「All along」、M9「Shapes Of Love」辺りでは、エレキギターが比較的前に出たハードロック風味がある他、多くの曲でしっかりと間奏のギターソロがあるのは、何とも律儀というか、几帳面な印象だ。ギターソロは突き抜けるような音階で、所謂鳴きのタイプも少なくないが、この辺は、前述した通り、ヴォーカルのメロディーのキーが高くないので、それを補うような意味合いがあったのかもしれない。

M6「All along」は重めの弦や管楽器が入って若干サイケデリックロックの匂いがするし、マイナー調のM10「True colors」は間奏で3拍子に変化したり、サビもややファンキーだったり、アルバムならではの変化球もあるにはある。だが、全11曲中の2曲という割合。しかも楽曲全体を支配するほど個性的なサウンドやアレンジでもないというのが面白いところだ。これは想像でしかないが、変化球がこれ以上に増えていたり、楽曲内でその成分が濃くなっていたりしたら、少なくともあの頃のELTの見え方は別のものになっていたと思われる。その意味ではその均衡は絶妙だったと言えるのかもしれない。
女心をリアルに描写した歌詞が魅了

歌詞にも偏った印象がない。全て恋愛をモチーフとしており、おそらくそこに思想はないだろうし、メッセージ性は皆無だろう。

《これほどに相手を好きになること/今までなかったから/潤してほしい この熱い身体/ずっと抱きしめていて》《友達から聞いたあなたの噂話/信じたくないけど…》《今 誰かのそばにいるの?/なんて変な想像して/不安だけが駆けめぐるよ/かなり嫉妬してる》(M1「For the moment」)。

《黒いベロアのワンピース/欲しくておねだりよくしたね/「お前が着ても似合わない」と/ひやかすばかりで…》(M3「Face the change (Album Mix)」)。

《My Love is Forever/あなたと出逢った頃のように/季節が変わっても/きっと色褪せないはずだよ》《ダイアリー会える日しるしつけてる/なんだか不思議ね/今まで以上に夢中になれるのは/夏の恋の魔法のせいかしら》《どれくらい電話で話したのかな/足りないくらいね/明日のデートの服は何にしよう/おかしいほどまじめに悩んでる》(M8「出逢った頃のように」)。

《内気な自分直せば/デートの約束も/照れずに言い出せるのに》《受話器握りしめて/彼にダイヤルした/友達以上になれるかな?》《形のないものだから/いつも行方知れずの恋/このままチャンス逃さない/二度と無い青春だから》(M9「Shapes Of Love」)。

特筆全ては所謂、女心を綴ったと思しきフレーズが散見できるところだろう(筆者は女心がよく分からないので“思しき”と書かせてもらう)。《かなり嫉妬してる》とか《ダイアリー会える日しるし》とか《受話器握りしめて/彼にダイヤルした》とかはまだしも、《黒いベロアのワンピース》辺りは、たぶん普通の男なら簡単には出てこないフレーズではなかろうか。こうした描写のリアルさに惹き付けられたリスナーは少なくなかったと思われる。

『Time to Destination』のメロディー、サウンド、そして歌詞の特徴を振り返ると、そのほとんどを手掛けていた五十嵐充(Key)の手腕の確かさとすごさをまざまざと見せられる思いだ(M6「All along」の歌詞が唯一、持田香織との共作)。時代に即していたであろう要素を過不足なく、その楽曲に搭載。これをほぼひとりでやっていたとなると、これはもうほとんど職人技だったと言える。もしかすると、本作は一見“吊るしの背広”的な、パターン化された工業製品のように思えるかもしれないが、その制作背景から考えると、優れたオーダーメイド作品であったことは言うまでもないだろう。

また、五十嵐充の才能だけでは『Time to Destination』は完成しなかったであろうし、ひいてはELT自体が成り立つことはなかったであろう。最後にそこを強調しておきたい。改めて言うまでもないが、持田&伊藤両名のポテンシャルを忘れてはならない。音楽的主柱とも言える人物が抜けたら普通そのグループはなかなか続かないものだ。比べることでもないかとは思うが、五十嵐はELT脱退後、いくつかのグループのプロデューサーを務めているものの、そのグループはいずれも活動休止している。そんな中でELTが今も継続しているのは彼女らの才能が開花したことに他ならない。テレビのバラエティー番組でも活躍するようになった伊藤のキャラクターもすごいが、ライヴで凛々しく立ち回る持田の逞しさも特筆すべきだろう。いつだったか、野外ライヴイベント『a-nation』でELTを観た時、彼女の力強いパフォーマンスに正直言って面食らった記憶がある。300万枚を超えるセールスを記録するアーティストの性根みたいなものを見せつけられた気がして、正直言って、その日出演していたどのアーティストよりもカッコ良く思えたことを覚えている。
TEXT:帆苅智之
アルバム『Time to Destination』
1998年発表作品

<収録曲>

1.For the moment

2.今でも・・・あなたが好きだから

3.Face the change (Album Mix)

4.Old Dreams (Instrumental)

5.モノクローム

6.All along

7.Hometown

8.出逢った頃のように

9.Shapes Of Love

10.True colors

11.Time goes by (Orchestra Version)


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