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2月6日、YUKIの通算9枚目のオリジナルアルバム『forme』が発売された。そして、一週間後の2月13日にはChara×BASI(韻シスト)のコラボ楽曲を収録した7インチアナログ「Sweet Night Fever」がリリースと、YUKI とChara 、奇しくも“chara+yuki”のふたりから音源が届いたわけで、当コーナーでは、その1999年の“chara+yuki”を経て、2001年にそのベールを脱いだMean Machineをピックアップしてみたいと思う。
多様性を増すガールズバンド
見るともなしに『第61回グラミー賞授賞式』のニュースを見ていたのだが、今年のグラミー賞のキーワードは“女性躍進”や“女性活躍”だったとか。それというのも昨年、主要な賞を男性歌手が独占したことに対して批判があり、その反省があったからだったという。Alicia Keys が女性として14年振りの司会を務め、主要4部門ではKacey Musgravesが最優秀アルバム賞を、Dua Lipaが最優秀新人賞を受賞。最優秀ポップデュオ賞など3部門を受賞したLady Gagaら多くの女性アーティストがパフォーマンスを披露した他、前大統領夫人、Michelle Obamaも登場してオーディエンスにアピールしたとも聞く。
文化の多様性があったほうがいいのは間違いないが、女性蔑視の批判から一転、今度はほとんどの登壇者が女性ばかりという辺りは、良くも悪くもU.S.A.っぽい力技を感じる一方、だとしても、これだけの面子が選ばれるのだから、当たり前のことだが米国エンタメ界の裾野は広い。しかも、前職とはいえ、ファーストレディまで担ぎ出すというのはさすがの底力とも言える。
翻って日本。上記米国の例を鑑みるに、年末の国営放送の歌番組で“赤勝て、白勝て”とやっているのは、少なくとも出演アーティストは男女ほぼ同数だったりするわけで、あの年末の風物詩は世界標準で見たら正しい…とは言わないまでも、そう間違っていないのかもしれない。そんなふうにも思ったりもした。ただ、各種賞レースや番組、イベントにおいて男女比がどうあるのが正しいのかよく分からないし、そもそもそれはここで論じることでもないと思うのでこの辺にさせてもらうとして、その男女比率のことで言うと、その昔に比べて、男女混成バンドやガールズバンドが増えたなぁと個人的には思う。よって、そちらへ話を移してみたい。とは言っても、もちろん正確な数字の推移みたいなものはないので、予めご了承願う。
1980年代から、PRINCESS PRINCESSを筆頭にZELDA、SHOW-YA、GO-BANG’Sら人気と実力を兼ね備えたガールズバンドがいるにはいたが、2000年以降、その数は以前の比ではないことはみなさん、よくご承知だろう。2000年代のTHE★SCANTY、Whiteberry、ZONE、中ノ森BAND。2010年代のチャットモンチー、SCANDAL、赤い公園、ねごと、SILENT SIREN、SHISHAMO等々。最近ではガールズバンドの中でもカテゴリーを分けることができるくらい多彩なバンドがシーンを賑わせている。
特筆すべきは全員女性ではない、所謂男女混成バンドも増え、バンド内での構成比も変わってきたことではなかろうか。過去の男女混成バンドというと、だいたいはヴォーカルが女性で他は男性というのが相場で、ドラムスが女性だったJITTERIN’JINNとか、ベースが女性だったGO!GO!7188とか、他にもSUPERCARやNUMBER GIRLなど、こちらもいるにはいたが少数派であった。いや、珍しいスタイルだったと言ってもいいだろうか。それが今や男女混成バンドは当たり前という勢いである。ゲスの極み乙女。、サカナクションがその代表格で、3ピースバンドで言えばそのうちの1名か2名が女性というバンドは数多すぎてここに記すのも憚られるくらいだ。…ていうか、そのバンド名をここにコピペするのも面倒くさい。それほど数が多くなったのである。無論まだまだ道半ばではあろうし、その進行度合いは決して目を見張るほどに速いものではないのだろうが、こと日本のロック界においては着実に女性進出が進んでいるのは間違いない。文化の多様性が増しているとは言える。
一線級の女性アーティストが集結
さて、文化の多様性を示していると言えるガールズバンドの躍進。その歴史上、重要なバンドはいくつもあるが、その特異さにおいてMean Machineの右に出る存在はないと断言していいと思う。2001年10月にデビュー。シングル2枚とアルバム1枚を発表しているものの、同年12月に行なった1stライヴで活動休止と、実質、ほぼ2カ月間しか表に出ていないバンドなので、その名前を見聞きしても、楽曲はおろか、メンバーの顔すら思い浮かばない人も多いかもしれない。2001年5月、BARKSに“ウワサのギャルバン<Mean Machine>、ついに活動スタートか?!”という記事があった()。この記事がMean Machineを端的に表しているので、バンドの説明に変えて、以下、引用させていただく。
2000年末頃から水面下での活動が噂されていた Mean Machine (ミーン・マシーン)。そのメンバーはというと、岩井俊二監督作品『スワロウテイル』のアゲハ役で女優として本格デビューした伊藤歩(Vo)、妖艶なヴィジュアルとキレのあるトークで音楽活動以外にDJとしても活躍しているちわきまゆみ(Gu)、THE THRILLのメンバーであり、ソロのサックス奏者としてもコラボレート経験が豊富なYUKARIE(Ba)、元JUDY AND MARYのYUKI(Dr)、そしてChara(Dr)という5人編成。
この編成から見てもわかるように、バンドコンセプトのひとつとなっているのは“自分がやったことのない楽器を担当する”ということ。そして、“楽しくやる”“かわいい&フェロモン”。
’98年に、ちわきとCharaが「なんかギャルバンやりたいね」と意気投合したことをきっかけにスタートしたMean Machine。今年秋頃のデビューを目指し、5人それぞれのスケジュールを調整しながらリハーサルを行なっているという。
今でも邦楽シーンを代表すると言って女性アーティストたちが組んだバンド、それがMean Machineである。所謂スーパーバンドとして紹介されてもおかしくないほどの面子が揃っているが、このバンドの何がすごいかと言えば、5人のうち3名は本業がヴォーカリストであるにもかかわらず、その彼女たちはメインで歌わず、全員がそれまで経験のないパートを担当したことだろう。しかも、今も珍しいツインドラムというスタイルだ。このメンバーなら4人ヴォーカル+サックスでも文句を言うリスナーはいなかっただろうし、YUKIがギターを弾き、Charaがピアノという編成だってあり得ただろう。しかし、そうしなかったことは本当にすごいと思う。とにかく、そのバンドのコンセプトが素晴らしいのである。
Mean Machineをスタートした時の各人のキャリアは、最年長のちわきがデビューから10数年目、その他のミュージシャンたちが5~10年弱の時期。CharaもJUDY AND MARYもすでにミリオンセールスを記録していたので、変な話、別バンドを組む必要などなかったと思える。ドラマーの2名に関して言えば、本業に専念したほうがビジネス的には良かったのかも…と邪推もできよう。しかし、それでもやったというのは、Mean Machineは彼女たちの純粋なバンド活動への欲求が反映されたものだと言うことができると思う。
技術うんぬんを凌駕したロックサウンド
実際、アルバム『CREAM』に収められた音はどこをどう切ってもロックバンドの音そのもので、情熱があふれ出ているかのようだ。いや、ほとんどあふれ出ている。ド頭から超狂暴なオルタナサウンドを爆裂させているM1「スーハー」。そのタイトルからしてシューゲイザーサウンドを意識したと思しきM4「甘いキャンディ」。ソリッドでキレのいいR&RナンバーであるM5「マイ・リトル・バッグ」。サーフロックをサイケデリックたっぷりに味付けしたM6「Love Mission “M”」。さらには、M10「Oue? D’accord?」ではスカ、M12「そばにいれば」のレゲエ、M13「Knock On You」のブルースと、1990年代までのさまざまなロックの要素をバラエティー豊かに取り込んでいる。
はっきり言って、演奏は下手だ。ここまで明らかにテクニック不足が分かる音源は、少なくともメジャーでは珍しいと言わざるを得ないと思う。ドラムスはもたれている箇所が多々あり、速いビートでのハイハットの刻みはしんどい様子。ギターはおそらく指運びの困難さからだろうが単音弾きが少なかったりもする。だが、その音のひとつひとつに、確実に迸る何かがあるし、それが技術うんぬんを完全に凌駕していると思う。“いんだよ、細けぇことは”と言わんばかりである。1990年代後半だと、おそらく、すでにどこでも誰でもPro Toolsを使っていたであろうから、リズムのズレは簡単に修正できただろう。が、(たぶん)そうしていないところに潔さも感じる。
誤解のないように補足すると、演奏が下手で、テクニック不足だと言っても、楽曲そのものが未完成だということではない。M12「そばにいれば」は特にそれがよく分かるテイクだろう。フィードバックノイズを強調したノイジーなギター。リズムもかなり歪み、籠った音だ。だが、それがいい。荒れた感じの音像が、《Can I, Can I get love?/I really want to be there》《Can I, Can I get love?/I don’t want to be here》と揺れる気持ちを綴った歌詞と相俟って、そこにある情念を強く感じさせるようでもある。もし各パートがテクニカルだったら、また別の味わいになったと思われる。
“楽しくやる”。Mean Machine、そして、そのアルバム『CREAM』の肝は、まさにそこにあったと思う。“バンドやりたいね”と意気投合して、四の五の言わず、まずやってみる。口にするのは簡単だが、中堅以上のキャリアを持つとなかなか実行できないこと。そこをやり切ったこともまた彼女たちの素晴らしさであろう。ここまでグラミー賞の話に始まり、文化の多様性、日本のガールズバンド、男女混成バンドの変遷と、さも意味ありげな話をしてきたけれども、それらは蛇足とは言わないまでも、正直に白状すればここまでの完全なるつなぎである。バンドメンバー5人の瑞々しいまでの情熱が宿った作品──Mean Machineの『CREAM』の説明は凡そこれで十分ではないかと思う。
若干補足するならば、伊藤歩のヴォーカルに付いて最後に少し記したい。メンバーの中ではミュージシャンとしてのキャリアが最も浅い伊藤だが、さすがに女優だけあって表現力は多彩だ。やや気怠い感じの歌い方で迫るM2「Johnny Back」。ポップなラップを聴かせるM3「ラッキー☆スター」。ウイスパーボイスのM10「Oue? D’accord?」。歌は概ね上手く、素人っぽい印象も薄い。実に堂々とした感じだ。14曲中8曲の作詞にも参加しており(前述のM12「そばにいれば」が伊藤単独での作詞)、さすがにメインヴォーカル、まさしくバンドの中心人物といった面持ちだ。そんなふうに考えると、Mean Machineはシンガー、伊藤歩を世に出すためのプロジェクトだったのではないかとも思えてくる。実際のところはどうだったのだろう?
TEXT:帆苅智之
アルバム『CREAM』
2001年発表作品
<収録曲>
1. スーハー
2. Johnny Back
3. ラッキー☆スター
4. 甘いキャンディ
5. マイ・リトル・バッグ
6. Love Mission “M”
7. 手にのれ
8. ペーパームーン
9. あんたの気持ちのままで
10. Oue? D’accord?
11. JUST ONE DAY
12. そばにいれば
13. Knock On You
14. 愛の手
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