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鮮やかなヴィジュアルとシックなサウンドが織りなすスウィング・アウト・シスターのステージ。深まりゆく秋の空気とシンクロする歌に酔い痴れる宵

 「いろいろなところでフェスに出演すると、奇妙な気分になったり、寂しくなったり、ときには心が砕けそうな思いもするけど、日本はいつもワンダフル! 大好きよ」――数曲歌ったあとにコリーンが満面の笑みで、そう話し始めた。実に4年ぶりの来日。きっと、日本は2人にとっての“ホーム・グラウンド”なのだろう。

 コスモポリタンな雰囲気を湛えたバンド・メンバーと一緒に、綺麗に切り揃えられたボブ・スタイルの髪を揺らしながら、コリーンがステージに登ってきた。そのエレガントな佇まい。意外にもシックなオープニングに観客は釘付けになる。初夏には10年ぶりに新しいアルバムもドロップし、マンネリとは対極にある瑞々しいポップ・ソングを聴かせてくれたスウィング・アウト・シスターが、ようやく“贔屓の日本”にやって来た。

 もちろん、詰めかけた誰もが「Breakout」(1987年)や「Now You’re Not Here」(96年/あなたにいてほしい)は聴きたいけれど。でも、それだけがスウィング・アウト・シスターじゃない――そんな思いを強くしたのは、新作『Almost Persuaded』に予想以上の手応えがあったから。30年以上のキャリアの賜物とも言えそうな洗練の度合いを高めたサウンドは、UK独特のきめ細かい肌ざわりにこだわりながらも、小粋なメロディと躍動的なリズム、そして洒脱な歌が絶妙なバランスで聴こえてきたからだ。今回のステージを控え、期待を膨らませてくれる充実したアルバムを聴きたからには、前のめりにならずにはいられない。そんな気分で会場に向かった僕の期待を、コリーン・ドリューリーとアンディ・コーネルの2人は完璧に満たしてくれた。

 レッド&ブラックの印象的なコスチュームに身を包んだコリーンが、キレのいいサウンドに合わせて身体をスウィングさせながら、たっぷり情感を込めた声を発する。時折、口にするスキャットもスタイリッシュ。久しぶりに戻って来てくれた彼女は優雅さを纏い、真に美しい女性として圧倒的な存在感を放っていた。

 そんなコリーンが親密な表情で歌うと、詰めかけたオーディエンスの肩が揺れ始める。ステージと客席が完全に繋がり、1つになって高揚していく。パンパンに膨らんだ超満員の会場が上気していくのが、手に取るように伝わってくるのだ。

 ジャズの洗練、ラテンの躍動、ソウルのエモーション、映画音楽の抒情性などをバツグンのセンスでクロスオーバーさせたスウィング・アウト・シスター。ビルボードライブのホームページにアップされたプレイリストでも解説されているように、幅広い音を楽しんでいる彼女たちは、レトロな音楽要素をスタイリッシュに蘇生させる技に長けている。もちろん、そこにはハイ・レヴェルな美学が敷き詰められていて。多くの人を魅了するポップな耳ざわりでありながらも、2人が発信する音楽は頑固なほどの美意識に貫かれている。

 それにしても、今回はバンドの充実ぶりも特筆モノだ。ドラムスとパーカッションが紡ぐポリリズミックなグルーヴは躍動的なだけでなく、深いコクも備えている。また、爽やかなリズムを奏でるギターのカッティングも歌心に溢れ、限りなく心地好い。そんな“完璧”なサウンドの上を自由に泳ぎまわり、親しげなメロディを口ずさむコリーン。そんな彼女を、鍵盤を弾きながら優しげに見守るアンディの眼差し、そして的確なプレイも素敵だ。

 シャーデーやマット・ビアンコ、ワーキング・ウィークといった、同時代にUK音楽シーンから次々と出てきた“ジャジィ”な音楽性を持ったグループ/ユニットの最高峰とも言えるスウィング・アウト・シスター。2人が繰り出すナンバーは、思わず口ずさみたくなるような明快なメロディが溢れ、気持ちが軽くなっていく爽やかな快感に満ちている。

 曲によってシックなムードとワクワクする高揚感を使い分けた、洗練のポップ・ソング。中盤からは演奏された大半の曲を観客も一緒に――。まさに“Breakout!”。そしてアンコールも、もちろん……。ステージの後ろに広がるトゥインクル・タイムの摩天楼に、みんなで歌うスウィング・アウト・シスターの曲が溶け込んでいった。

 シックでありながらも軽快な躍動感に溢れたスウィング・アウト・シスターのライブは、東京で今日(12日)、その後は神奈川でのアクトを挟んで、15日と17~18日に大阪でも繰り広げられる。フレンドリーな歌とサウンドを知り尽くしたスタイリッシュなポップ・デュオのステージを、深まりつつある秋の宵にぜひとも満喫してみて。

◎公演情報
【スウィング・アウト・シスター】
2018年10月11日(木)※終了・12日(金)
ビルボードライブ東京
1stステージ 開場17:30 開演18:30
2ndステージ 開場20:30 開演21:30
詳細:http://www.billboard-live.com/

2018年10月13日(土)
横浜関内ホール
18:00開演(17:00開場)
詳細:http://www.kannaihall.jp/

2018年10月15日(月)・17日(水)・18日(木)
ビルボードライブ大阪
1stステージ 開場17:30 開演18:30
2ndステージ 開場20:30 開演21:30
詳細:http://www.billboard-live.com/

Photo:Masanori Naruse

Text:安斎明定(あんざい・あきさだ) 編集者/ライター
東京生まれ、東京育ちの音楽フリーク。気温の上下を幾度か繰り返しながら、着実に深まってきた秋。これからの季節に楽しみなのが、8月15日~3月15日の期間だけ造られるウォッシュ・チーズ=モン・ドール。ジュラ山脈周辺のフランスとスイスで手造りされた、独特のとろけ方をするこのチーズと絶妙なマリアージュを実現してくれるのが“黄色いワイン”と呼ばれるヴァン・ジョーヌ。6年3か月もの熟成が義務付けられている濃厚な白ワインで、辛口のシェリーに似た味わい。モン・ドール以外にはハード・チーズのコンテやクルミなどがベストマッチ。吹く風が素肌に冷たく感じられるようになったら、濃厚なワインとチーズの組み合わせの1つとして、ぜひ試してみて。

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