“男女バディ”のボーカリゼーションが光る5曲

2018年5月28日 / 18:00

ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲 (okmusic UP's)

「白だ黒だとけんかはおよし 白という字も墨で書く」なんて都々逸がありますけれども、先日講談師・神田蘭師匠と噺家・桂夏丸師の真打披露興行に行ってきました。片や淀みなくまくりたてる口跡に反し、絢爛豪華な美貌を惜しげも無く時に崩して全身全霊で笑いを取りにいく蘭師匠、片や枝垂れ柳のごとし面立ちと佇まいそのままの飄飄とした語り口が時が経つにつれて段々とほどけ、それに釣られてこちらも口角を上げてしまう夏丸師匠。一見正反対のように思えてふとした瞬間線描が重なる芸のかたちに目いっぱい笑うと同時に、板の上では男だの女だのなんて些細な違いにすぎないのかもしれないと羨ましくなったりもしました。そういうわけで今回は、男女“バディ”の美しくも逞しいヴォーカリゼーションが印象的な5曲を紹介します。
「夏の天才」(’18)/SPANK HAPPY

何は無くともSPANK HAPPY再始動というだけで2018年は生きる価値があります。首謀者・菊地成孔が咀嚼した渋谷系のポップなフェイク感の綴れ織りをシアトリカルに具現化した原ミドリ、不健全な夜への憧憬と安堵感を綻ばせるドーリーなモチーフの岩澤瞳らを経て、約12年の沈黙を破るための相棒に選ばれたのはO.D.こと小田朋美。復活の報とあわせて発表された「夏の天才」は、三越伊勢丹『2018グローバル・グリーン キャンペーン』のテーマソング。肌の上を滑り落ちる汗と鋭利な日差しをするりとかわすように風通しのいいふたりの声、清涼感あふれるエレクトリカルなサウンドに乗せられる歪んだギターやシンセ、スクラッチの音色のひとつ時縄ではいかないスマートさが露わになっています。
「灰色の瞳」(’02) /椎名林檎、草野マサムネ

椎名林檎トリビュートアルバム『アダムとイブの林檎』の幕開けを飾る「正しい街」でヴォーカルを担う草野マサムネですが、2002年のアルバム『唄ひ手冥利〜其ノ壱〜』では長谷川きよしと加藤登紀子のデュエット曲「灰色の瞳」をふたりでカバーしています。アルゼンチン発祥のフォルクローレである原曲に倣って燠火のような哀愁を封じ込めた重厚な歌唱と物悲しい笛の音で表現した長谷川・加藤版と異なり、こちらは亀田誠治によって剥き出しの情動が爪を立てるハードロックにアレンジ。エフェクトで放散されるむせび泣くようなギターのトレモロ、噛み付かんばかりと激情を演じる椎名林檎とじっと押し黙って悲しみを紡ぐ草野マサムネ。同じ曲の中で展開される、彩度の異なる悲哀の数々に滅多打ちにされます。
「さよならサブカルチャー」(’12) /アーバンギャルド

声を押し殺して泣き濡れる孤独に耐えきれず、ハッシュタグで病み垢とつながりたがる人に聴いてほしいこの曲。少女性をテーマにした楽曲は数多あれど、成長によって必然的に“少女”というカテゴライズから排斥される元少女の未来への諦観と過去の埋葬を詩情を交えながらも容赦なく綴った曲があったでしょうか。鈴の音色のような浜崎容子のヴォーカルに詩人であり男性である松永天馬の血の管が脈動するかの如き声が交差し、両翼たるふたりを支える背骨である演奏チームは散弾銃が如く飛散する絶望のリリックと目まぐるしい転調で、リスナーの不安を掬い上げながらも負荷のかからないキュートなテクノポップの体裁を厳粛に保つ。こんな楽曲やアーティストがエンターテイメントにデコレートされたまま画面の向こうから届く幸福感は他にありません。
「ハモンハモン」(’17) /ハルコとフランシス

小里誠(ex. THE COLLECTORS)とシンガーソングライター田島ハルコによるユニット、ハルコとフランシス。こと壮年男性と若い女性のコラボレーションというと、男性が築いたフォーマットに女性を通して男性のホログラムが投影されて終わってしまう不完全燃焼感が沈殿することも少なくないのですが、ふたりは背中を預けられる対等な関係性を作品のみで伝えてくるのが痛快です。歪さとエレガンスが混在した「ハモンハモン」は、シリアスでありつつもユーモアを孕んだEBMで、Cabaret Voltaireミーツ第2期SPANK HAPPYといった風合いの楽曲ですが、ライヴではダウナーな曲調と打って変わってフィジカルなパフォーマンスや明度の高いビジュアルの健全さが混合したマーブル模様のステージングに鼓舞されます。
「ニュータウンの亡霊」(’13) /やまのいゆずる

今や売れっ子の吉岡里帆が『MOOSIC LAB 2014』女優賞を受賞した映画『イルカ少女ダ、私ハ』。カルトムービーさながらのチーブさでもって人の頭がバンバン破裂する内容ですが、監督は『セブンティウイザン』で話題の漫画家・タイム涼介、音楽は又吉直樹(ピース)もその感性を賞賛するやまのいゆずるが担当しています。劇中ではアルバム『ニューミュージック』の収録曲がふんだんに使用されており、予告編では「ニュータウンの亡霊」を起用。ブレイクビーツとサンプリングの通り雨が過ぎ去った後のような爽快さと浮揚感がみなぎったエレクトロミュージックの曼荼羅に織り込まれた、山野井譲と川上恵理がポーカーフェイスに繰り広げる声と声の闘いは、DNAの螺旋を想起させる様式美で構築されています。
TEXT:町田ノイズ
町田ノイズ プロフィール:VV magazine、ねとらぼ、M-ON!MUSIC、T-SITE等に寄稿し、東高円寺U.F.O.CLUB、新宿LOFT、下北沢THREE等に通い、末廣亭の桟敷席でおにぎりを頬張り、ホラー漫画と「パタリロ!」を読む。サイケデリックロック、ノーウェーブが好き。


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