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爆発的なセールスを記録したイーグルスの『ホテル・カリフォルニア』

アメリカのポピュラー音楽史上、最も売れたアルバムはマイケル・ジャクソンの『スリラー』(‘82)だが、70年代のロックグループで最も売れたのはイーグルスだ。彼らが76年にリリースした『グレーテスト・ヒット1971〜1975』と今回紹介する『ホテル・カリフォルニア』の2枚は世界中で高セールスを記録し、特に『グレーテスト〜』はマイケル・ジャクソンが亡くなったために再ヒットした『スリラー』がトップに躍り出るまで、何年もの間1位であり続けたのである。それはなぜか? 話は単純で、イーグルスには素晴らしい曲が多いからである。ただ、75年にリリースされた4thアルバム『呪われた夜』が大ヒットするまでは、多くのリスナーがイーグルスのことを知らなかっただけである。だから『呪われた夜』の後にリリースされた『グレーテスト〜』を聴いて、良い曲が多いことにみんな気付いたのである。
ウエストコーストロック誕生

イーグルスはロサンジェルスという場所に非常にこだわったグループだ。彼らが最初に日本に来た時(1976年2月)、コンサートの冒頭で故グレン・フライが「We are Eagles from Los Angels」と言ったのだが(ロス以外での公演時は必ず言うセリフ)、来日公演に来ていた多くの若者たち(僕も含め)にとっては、鳥肌が立つぐらい感動した台詞である。それだけ当時の日本の若者はロサンジェルスに憧れていたし、イーグルスもまたアメリカの各地方から西海岸へ集まってきただけに、ロスという場所に思い入れがあったのだろう。それは、ちょうどカナダ出身(5人中4人)のザ・バンドがアメリカを意識したのと同じぐらい強かったかもしれない。

その頃のロックの中心は間違いなく、カリフォルニアにあったのだ。60年代からロサンジェルスやサンフランシスコでは、独特のロックが生まれていた。バーズ、ディラーズ、CSN&Y、ポコ、ディラード&クラーク、フライング・ブリトー・ブラザーズらが切り開いたサウンドで、フォークやカントリーをベースにしたロックであった。これらは当初フォークロックやカントリーロックと呼ばれていたのだが、イーグルスはそれら先人たちの音楽を咀嚼し、彼らが考える最も洗練されたかたちで表現することになる。

フォークロック、カントリーロックとひと言に言っても、広いアメリカでは地域によって大きくサウンドは異なる。南部では泥臭いテイストになるし、東部ではフォークの要素が強くなる。その地域性みたいなものが本物のアーティストの証だと言っても過言ではないが、イーグルスはロサンジェルスならではのカントリーロックをジャクソン・ブラウンやジョン・デビッド・サウザーらと共に作り上げる。それが、デビュー曲「テイク・イット・イージー」(‘72)である。そして、これがロスのカントリーロックの原型となり、いつしかウエストコーストロックと呼ばれるようになるのである。「テイク・イット・イージー」をリリースしてからは、さわやかなコーラス、キャッチーでカントリー風味のあるメロディー、泥臭くはないが土臭い音を売りにしたイーグルスのフォロワーがあっと言う間に増え、ウエストコーストロックという新しい音楽の輪郭は徐々に明確になっていく。
地域限定から世界のロックグループへ

イーグルスの編み出した70年代初頭のウエストコーストロックは、75年あたりにはアメリカンロックの主流になるのだが、60年代からロックを聴き続けてきた若者が社会人になっていくことで、それなりに方向転換が求められていた。そういった時代の要請のような空気を、彼らも敏感に受け止めていたのだろう。3rdアルバム『オン・ザ・ボーダー』(‘74)制作時には、デビュー時からプロデュースを担当していたグリン・ジョンズのやり方(ウエストコーストロック継続路線)に反旗を翻し、ハードロックが得意なビル・シムジクをプロデューサーに据える。また、名ギタリストのドン・フェルダーを新たなメンバーとして迎え、サウンドの転換を図るのである。そして、新体制でリリースしたのが75年の『呪われた夜』で、このアルバムは洗練されたAOR的ロックとウエストコーストロックの折衷的な作品ではあったが、名曲が数多く収録され、新たな次元へと舵を切ったのである。
ウエストコーストロックとしてのイーグルスが好きだったファンは、『呪われた夜』がどうしても好きになれず、他のウエストコーストロックのグループやシンガーへと移っていった。今でもイーグルスは『オン・ザ・ボーダー』までだと思っているウエストコーストロックのファンは数多い。しかし、『呪われた夜』には「いつわりの瞳」や「ハリウッド・ワルツ」など定番ウエストコーストロックも収録されており、満足した古くからのファンもいるのである。どちらにしても、この時点でのイーグルスの新機軸は当たり、『呪われた夜』は全米チャートで彼ら初の1位を獲得するなど、ロスのローカルバンドから世界的ロックバンドへとステップアップしている。
本作『ホテル・カリフォルニア』 について

1976年2月2日、先に述べたようにイーグルスが来日する。僕はその頃大学受験の時期で、この日は入試が終わってから大阪のフェスティバルホールに向かったのであるが、ジョー・ウォルシュが参加してすぐのコンサートであったからか、ジョー・ウォルシュの長い曲がやたら多かった。『呪われた夜』での変貌をもっと推し進めようとしていることは明白だったが、18歳の不安定な受験生からすれば、イーグルスがどこへ向かうのか不安なコンサートでもあった。

その来日コンサートから1年経たないうちに、本作『ホテル・カリフォルニア』はリリースされた。収録曲は全部で9曲。想像した通り、ウエストコーストロックは1曲もなく、世界的ロックグループとなったイーグルスが君臨している。よく練られた楽曲群と、演奏も歌も恐ろしいほど巧くなった新生イーグルスは、ドン・ヘンリー中心のヴォーカル、ドン・フェルダーとジョー・ウォルシュのギターワークなど、どこを取っても非の打ち所のない存在になっている。キーボード、シンセ、スライドギター、そしてウォルシュの楽曲と歌など、これまでになかった要素が前面に出てきているが、押し付けがましさはなく、見事なまでの統一感を醸し出している。ただ、「ホテル・カリフォルニア」の完成度が高すぎて、他の曲がかすんでしまっている部分は残念なところ…かといって、どうしようもないんだけどね。ランディ・マイズナーの「トライ・アンド・ラブ・アゲイン」ではオールマンブラザーズ的なギタープレイを披露するなど、アルバムで唯一、遊びが感じられる仕上がりとなっている。本作は全体的に重苦しい雰囲気が漂っているので、この軽さは良い。

結局、これだけの完成度を持ったアルバムを創り上げてしまったがゆえに、以降は創作やメンバー間の軋轢に苦しみ失速していくのであるが、彼らがアメリカのポピュラー音楽界に残したものは大きい。特に、カントリー音楽はイーグルスのサウンドプロデュースを手本にして90年代を生き抜き、21世紀に入ってからもウエストコーストロック的なスタンスで数多くのスターを輩出しているのである。

最後に…

たぶん、イーグルスを聴いたことのない人は少ないと思うが、ヒットした曲ばかりでなく、シングルカットされていない曲も聴いてみてほしい。「ピースフル・イージー・フィーリング」(デビューアルバムに収録)「マイ・マン」(オン・ザ・ボーダーに収録)「アイ・ウィッシュ・ア・ピース」(呪われた夜に収録)など、隠れた名曲がたくさんあるのです。
TEXT:河崎直人
アルバム『Hotel California』
1976年発表作品

<収録曲>

01. HOTEL CALIFORNIA / ホテル・カリフォルニア

02. NEW KID IN TOWN / ニュー・キッド・イン・タウン

03. LIFE IN THE FAST LANE / 駆け足の人生

04. WASTED TIME / 時は流れて

05. WASTED TIME(Reprise) / 時は流れて(リプライズ)

06. VICTIM OF LOVE / 暗黙の日々

07. PRETTY MAIDS ALL IN A ROW / お前を夢みて

08. TRY AND LOVE AGAIN / 素晴らしい愛をもう一度

09. THE LAST RESORT / ラスト・リゾート

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