70sロック最高のアルバムと言っても過言ではないニール・ヤングの『ハーヴェスト』

2018年2月16日 / 18:00

1970年、ソロ第3作『アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ』とクロスビー・スティルス・ナッシュ&ヤング名義の第1作『デジャ・ヴ』、ロック史上に残る名作を同じ年に2枚もリリースしていたニール・ヤング。それだけでもすごいことなのに、4枚目となる本作『ハーヴェスト』はそれら2枚の名作を上回るほどの完璧な仕上がりで、まさに完全無欠の作品と言ってもいいのではないだろうか。これまでに通算40枚以上のアルバムをリリースしている彼の長いキャリアと才能は人間離れしているが、特に70年代の作品の完成度は、凡人はただただひれ伏すしかない恐るべきものである。
グループ活動に向かない ヤングとスティルス

ニール・ヤングが最初に所属したバッファロー・スプリングフィールドは、スーパーグループであった。リッチー・フューレイ(後にポコを結成)、スティーブ・スティルス(後にCSNを結成)、ニール・ヤングの3人のリードヴォーカリストを擁したものの、グループにはまとめ役がおらず、いざこざが絶えなかった。ヤングとスティルスはお互いの才能を認めてはいたが、方向性や音楽性の違いで会えば喧嘩していた。ふたりとも我が強く、そもそもグループ活動には向かないタイプであったことは間違いない。ヤングはソロ活動が好きだったので、グループを離れたり戻ったりしていたのだが、他のメンバーも人間関係のストレスに嫌気がさし、2年足らずでグループは解散することになる。

スティルスは脱退後、アル・クーパーの『スーパーセッション』に参加したり、バーズを抜けたばかりのデヴィッド・クロスビーと合流、イギリスの人気グループであったホリーズのアメリカツアーで渡米したグレアム・ナッシュとも出会い、クロスビー・スティルス&ナッシュを結成するためにリハーサルを繰り返していた。そして69年、彼ら3人のデビュー作『CS&N』をリリースすると大きなセールスを記録、全米チャートでも6位となる。独特のコーラスワークを武器に、彼らはまったく新しいタイプのフォークロックグループとして、ウエストコーストロックの原型を作ったパイオニアである。彼らの存在がなければイーグルスもドゥービー・ブラザーズも登場していなかったかもしれない。それぐらい大きな存在なのである。
クロスビー・スティルス・ナッシュ &ヤングとソロ活動の両立

CS&Nは、ギター、ベース、キーボードなどをスティルスがひとりで担当しており、サポートメンバーがいなければライヴ活動が難しいため、新たなメンバーを探すことにしたのだが、結果的にはニール・ヤングに参加を依頼することになる。スティルスもヤングも、ふたりが揃えば絶対うまくいかないことは分かっていたはずなのだが、お互いのアーティストとしての才能は認めていただけに、こういう結果となった。ただ、ヤングはCSN&Yと並行してソロ活動も行なうことをグループ加入の条件としていて、彼自身、いつかグループを脱退することになるのではと予期していたのかもしれない。

そして、クロスビー・スティルス・ナッシュ&ヤング名義でリリースされた『デジャ・ヴ』(‘70)は4人の個性が最大限に引き出された傑作中の傑作となったわけだが、同時進行で進められていたヤングのソロ第3作『アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ』もまた、ロック史に残る稀有な名作となっている。ここにきて、ヤングの天才ぶりが一般のリスナーの知るところとなり『デジャ・ヴ』と『アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ』の2枚が相乗効果となって、ヤングの名前は全米どころか世界中に轟くこととなる。しかし、『デジャ・ヴ』をリリース後、スティルスの薬物問題やバックメンバーの解雇などが重なり、CSN&Yは空中分解してしまう。ヤングの予言が的中したのかどうかは分からないが、結果的にライヴ公演の模様を収めた『4ウェイ・ストリート』(’71)が彼らの最後のアルバムとなった。
翌71年のヤングは、ツアーや映画制作とサントラのレコーディング(『過去への旅路』(‘72)としてリリース)、そして次のソロアルバムの曲作りとレコーディングなどに費やしている。
本作『ハーヴェスト』について

中学3年生の夏休み、ひどい風邪に罹り4〜5日寝込んでいた僕は枕元にラジカセ(これって死語? ラジオとカセットテープを聴くための機器)を置いてラジオをずっと聴いていた。寝ている間だけで数十回オンエアされていたのが、ニール・ヤングの自身最大のヒット曲「孤独の旅路(原題:Heart Of Gold)」。こんなに良い曲がこの世にあるのか…と思っていた僕は、風邪が治るとすぐ、この曲が収録されたリリースされたばかりの本作『ハーヴェスト』を近所のレコード店に買いに行った。

帰宅するや否や本作を聴いたのだが、こんなに良いアルバムだとは思わなかったというのが本音であった。なぜって、『デジャ・ヴ』も『アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ』も聴いていて、どちらも素晴らしかっただけに、そんなに良いアルバムが続けて出せるはずはないだろうと、子供のくせにそう思っていたからだ。しかし、本当にその2枚よりも本作のほうが良かったのである。『アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ』はもちろん良かったけれど、アルバムの空気が重かったし暗かった。パワーに満ちた思春期の若者はもっとパワフルなエネルギーを感じたかったのかもしれない。その点、『ハーヴェスト』には前作にはないそこそこのキャッチーさがあった。とはいっても、売れ線のヒット狙いではなく、リスナーに媚びない頑固さが感じられる作品である。

名曲「孤独の旅路」(アルバムもシングルも全米1位となった)をはじめ、前作収録の「サザンマン」的テイストのハードな「アラバマ」や「歌う言葉」が入っている。カントリーロックの「週末に」「ハーヴェスト」「オールドマン」もいいし、ビートルズの「ロング・アンド・ワインディング・ロード」っぽいドラマティックな「男は女が必要」や映画音楽のような「世界がある」も、スワンプロック仕立ての「国のために用意はいいか?」、静かなフォークの「ダメージ・ダン」から切れ目なく「歌う言葉」へと繋がる部分は何度聴いてもしびれる。

本作のバックを務めるのはストレイ・ゲイターズ。ナッシュビルの名セッションマンばかりで構成されている。ドラムはエリアコード615のケニー・バットレー、ベースはジェームス・ブラウンのバックを務めたこともあるマザー・アースのティム・ドラモンド、ペダルスティールにはハングリー・チャックでもお馴染みのベン・キースが担当している。彼らを使うには相当なギャラが発生したと思うが、その甲斐あって全編文句なしの演奏である。ニール・ヤングの歌とギターもエモーションにあふれる名演揃いで、何度聴いても非の打ちどころのない作品だ。“名盤”という言葉は本作のようなアルバムにこそ相応しい。

余談だが、「孤独の旅路」のバックヴォーカルにはリンダ・ロンスタットとジェイムス・テイラーが参加していて、彼らの声がしっかり判別できるので、それを聴き分けるのも楽しい作業である。カーリー・サイモンの大ヒット曲「うつろな愛」のバックでミック・ジャガーの声が聴けて嬉しかった覚えのある人は、こちらも楽しめるはず。

もし、これまでニール・ヤングを聴いたことがないのなら、とりあえずは『ハーヴェスト』か『アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ』のどちらかを聴いてもらいたい。この2枚はニール・ヤングの入門編であり上級編でもあるので、50年ぐらいは楽しめると思います♪ これを機会にぜひ!
TEXT:河崎直人
アルバム『HARVEST』
1972年発表作品

<収録曲>

01. OUT ON THE WEEKEND / 週末に

02. HARVEST / ハーヴェスト

03. A MAN NEEDS A MAID / 男は女が必要

04. HEART OF GOLD / 孤独の旅路

05. ARE YOU READY FOR THE COUNTRY? / 国のために用意はいいか?

06. OLD MAN / オールド・マン

07. THERE’S A WORLD / 世界がある

08. ALABAMA / アラバマ

09. THE NEEDLE AND THE DAMAGE DONE / ダメージ・ダン

10. WORDS (Between The Lines Of Age) / 歌う言葉


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