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木村カエラの『10years』はロックな音像をより鮮明に!【ハイレゾ聴き比べ vol.6】

『10years』/木村カエラ (okmusic UP's)

前回は“過去作のハイレゾ音源を聴くことで、そのアーティストの音楽的変遷や指向をよりリアルに捉えることができるのでは?”という仮説のもと、山崎まさよしのベストアルバム『ROSE PERIOD ~the BEST 2005-2015~』を取り上げた。

彼の場合、旧音源では若干こもり気味だった音像がハイレゾ化でシャープになることで、収録された最古曲と最新曲とでは、そのアレンジにさほど差異がないことも分かり、そこから山崎まさよしという人がもっとも理想的なかたちで歌を聴いてもらうことに腐心しているアーティストであることも分かった。

ハイレゾ音源は単に音が良くなるだけではない。そこからさまざまなものが見えてくるのだ。今回は、2014年6月に発売された木村カエラのベストアルバム『10years』を題材に彼女の音楽性を探ってみようと思う。

国内外、多くの有名ミュージシャンが支えてきたサウンドの本質、名うて音楽家たちを惹きつけて止まないアーティスト、木村カエラの魅力がこれまで以上に露わになるのか──。

時代に愛された女性シンガー
小学校の時から続けていたファッションモデルの傍ら音楽活動を展開して、2004年にソロシンガーとしてメジャーデビュー。早々にブレイクを果たしてシーンを席巻し、06年には再結成された伝説のロックバンド、サディスティック・ミカ・バンドにヴォーカルとして参加。09年にNHK紅白歌合戦に出場し、その翌年に俳優の瑛太と結婚して第一子を出産。13年にはレコード会社移籍を機に、アパレル等の商品開発など音楽以外のプロデュースも行なうプライベートレーベル“ELA(エラ)”を設立し、その代表にも就任。そして、同じ年の10月7日に第二子を出産。

…こうしてザッとプロフィールを振り返っただけでも、木村カエラが、スーパー・ガールというか、ワンダー・ウーマンというか、如何にすごいアーティストであることが分かろうというもの。彼女はこの10年間、日本でもっとも時代に寵愛された女性のひとりと言っても過言ではなかろう。

有名音楽家が彼女のもとに集結
制作してきた音楽だけに話を絞ってみても、彼女のすごさは確認できる。過去、木村カエラ作品を手掛けた作曲陣を、これまたザッと挙げてみよう。

會田茂一(HiGE)、高桑圭(Curly Giraffe)、堀江博久(NEIL&IRAIZA、the HIATUS)、奥田民生(ユニコーン)、渡邊忍(ASPARAGUS)、吉村秀樹(bloodthirsty butchers)、岸田繁(くるり)、ミト(クラムボン)、田渕ひさ子(bloodthirsty butchers)、AxSxE(NATSUMEN)、BEAT CRUSADERS、亀田誠治、toe、蔦谷好位置(NATSUMEN)、根岸孝旨(Dr.StrangeLove)、石野卓球(電気グルーヴ)、藤田勇(MO’SOME TONEBENDER)、末光篤(SUEMITSU & THE SUEMITH)、avengers in sci-fi。

どうだろう? まぁ、有名アーティストが手掛けたからと言って必ずしもその作品が優れたものであるとは限らないという考え方もあるだろうが、さすがにこれだけのメンバーが参加しているのだから、確率論から言っても秀作が多いことは聴くまでもなく分かるはずだ。実際、今まで発表したシングル、アルバム共に常にチャート上位を賑わせてきた。

ファン選曲による大作ベスト盤
『10years』はそのタイトル通り、デビュー10周年を記念して14年に発売された木村カエラ、2枚目のベストアルバム。ファン投票によって選ばれた17曲に加えて(アルバムの1~3曲目はファン投票の1~3位。1位「happiness!!!」、2位「Magic Music」、3位「リルラ リルハ」)、未発表曲と書き下ろし曲を各1曲ずつボーナストラックとして収録しており、全19曲、収録時間1時間20分弱の大作である。

ストリングスやシンセが強調された「Sun shower」や「Butterfly」、「Ring a Ding Dong」を除いて、ほとんどの楽曲が所謂バンドサウンドで構成されたパンクチューン、ロックチューンで、この辺から彼女の指向、資質が分かると同時に、これがファン投票で選出されたということはファンを含めて木村カエラらしさを作り上げてきたとも言える。長尺ではあるが、木村カエラ入門編としてもベストな作品であろう。

ラウドな音作りではあるが…
さて、その聴き応えである。まず、既存のCD音源からいってみよう。とは言っても19曲を1曲ずつすべて解説していくのはお読みになられる方もしんどいだろうから、今回は総論から入ろうと思う。これはハイレゾとの差異を探そうと傾聴した結果かもしれないし、“個人の感想です”と前置きしていた方がいいかもしれないが、全体的に音が甲高い印象がある。

M8「ワニと小鳥」、M9「STARs」、M10「You」、M13「Yellow」、M15「マスタッシュ」、M17「Ring a Ding Dong」、M18「LOVELY」辺りがそうで、それがロックの音像だと言ってしまえばそれまでなのかもしれないが、中には音量を上げると耳にやさしくない感じのナンバーもあった(これも個人の感想です)。

また、詰め込みすぎの印象があるナンバーがあることも気になった。音数が多いという意味ではない。M4「Sun shower」は音数が多いナンバーだが、比較的テンポが緩いこともあってか、そのわりに詰め込み感は薄い。

詰め込み過ぎなのは──誤解を恐れずに言えば、ごちゃごちゃしている印象なのは、M11「dolphin」、M14「リリアン」辺りだ。さらに言えば、M16「Whatever are you looking for?」は音数こそ多くないので変な密集感こそないものの、こもり気味というか、全体にベタッとした聴き応えは否めないと思う。

CDの難点を覆すハイレゾ音源
それがハイレゾではどう聴こえるか? これまた結論から言えば、ほぼ解消されていると言っていいと思う。よく分かる具体例を挙げるとするなら、「Yellow」と「マスタッシュ」だろうか。ともにエッジの立ったギターサウンドが特徴だが、CDにおいてはそれが仇になった…という言い方は変かもしれないが、前者ではアコギが、後者ではシンセがエレキギターに紛れてしまっているような聴き応えがある。

ところが、ハイレゾでは音がマイルドになっていると言おうか、少なくともキンキンとした響きがない。そればかりか、「Yellow」はグルーブが増した感すらあるし、「マスタッシュ」は間奏のニューウェイブっぽさが際立ち、大袈裟に言うなら本来の楽曲の姿が見えてくるようでもある。ごちゃごちゃ感は確実に薄くなった印象だ。「dolphin」は密集感が強すぎるためか、“これ、何の音?”と考えてしまうような音がなくもなかったが(あくまでも個人の感想です)、各音がシャープになり、定位がはっきりとすることで立体感とダイナミズムが出ている。圧迫感もない。

本来の音像を露わにする
そして、これはハイレゾを聴いた後で、再びCDを聴いてみての感想だが──これもまた誤解を恐れずに言えば、CD版は全体に音が平板であり、極めて大袈裟に言うとラジオ風エフェクトがかかっているというか、モノラル録音を聴いているような印象があった。

最初にCDを聴いた時はまったくそんなことを感じなかったから、正直言って、これには自分でも驚いた。ここまで今回の『10years』を含めて6作品のハイレゾ音源を聴いてきたので、耳がハイレゾに慣れてきているからなのかもしれない。一旦デジタル放送を見てしまった後でアナログを見た時の“今までこんなにぼんやりとした映像を見ていたのか?”という感じ──もはや実感としてもすっかり失ってしまった気もするが、あの時の感覚に近い。

ただ、誤解のないように改めて言っておくが、これはあくまでもハイレゾ音源がCD以上に情報量があるから感じたことであって、決してもともとの音源が劣化していたわけではない。ハイレゾで本来の音像が露わになったのだ。

ファンならずとも一度はお試しを
『10years』収録曲はファン投票で選ばれたということだから、多くのファンが好きな楽曲であることは間違いない。好きな楽曲だからこそ何度も繰り返し聴いていることだろう。それがハイレゾ版では音像が異なることを体験できるのだから、当然コアなファンには聴いてほしいところだし、“「Butterfly」は好きだけど、パンクはあまり好きじゃない”なんて人にもぜひ触れてほしいものだ。

聴き応えは明らかに変わるので、ラウドさが苦手な人でも聴きやすいかもしれない。何よりも彼女を支えてきたアーティスト、ミュージシャンたちの丁寧な仕事ぶりを確認できることで、これまで以上に木村カエラというアーティストの核心に触れられるはずである。

(当たり前のことだが)ロックだからと言って、単にラウドであったり、激しかったりするのではない。ギター、ベース、ドラムス、キーボード等、各音が重なり合ってこそのロックなのだ。改めてそれが分かるという意味では、大袈裟に言えば、ハイレゾ化されたライブで演奏を目の当たりにすることに近いのかもしれない。ベタな惹句だが、聴き逃す手はないと思う。

TEXT:帆苅智之

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