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Album Review:デヴィッド・ボウイ『★』 自身初の全米1位となった遺作/傑作が映し出す、人間の姿と愛

 最新アルバム『★』(ブラックスター)を69歳の誕生日である1月8日に発表し、その2日後となる1月10日、デヴィッド・ボウイはこの地上から去った。大方の予想どおり、『★』はUKチャートに続いて米ビルボードでも初登場1位を記録。その他各国のナショナル・チャート上でもトップに輝いている。ボウイのソロ名義スタジオ・アルバム全25作で、ビルボード1位に上り詰めたのは今回が初めてのこと。前作『The Next Day』(2013年)は最高2位であった。

 長らく病気療養中とされ、引退説までが囁かれていた中、2013年の誕生日に何の前触れもなくシングル「Where Are We Now?」リリースと『The Next Day』告知を行い、ファンを狂喜させながら第一線へと復帰したボウイ。『“Heroes”』(1977年)のアートワークを加工したジャケットを持つ『The Next Day』は、年齢と記憶を重ねる経験が織り込まれた力強いロック・アルバムで、その後は新曲含むオールタイム・ベスト『Nothing Has Changed』(2014年)や、初期キャリアを最新リマスター音源で追うボックス・セット『Five Year 1969-1973』(2015年)をリリースするなど、ボウイ再考の機運が高まっていたところだった。

 『Nothing Has Changed』時のシングル「’Tis a Pity She Was a Whore」と「Sue (Or in a Season of Crime)」の作風を契機とするように、ボウイは米国のジャズ・ミュージシャンと新作製作に取り組むことになる。キャリア総括の機運を巧みに裏切りながら、ポスト・ジャズ/エレクトロニカの急進的な作風により『★』は生み出された。そのトーンは極めてシリアスであり、前述のシングル2曲含む計7曲からは、後悔と堕落、暴力と死といった、人間の負の面のメタファーが立ち上ってくる。上空から地上を俯瞰するような、浮世離れするほど斬新なサウンドスケープの中で、ボウイは《我々は逆さまに/間違いとともに生まれたのだ》(歌詞は日本盤対訳より抜粋)と歌うのである。

 再生時間が10分近くにも及ぶこのオープニング曲「★」は、暗澹とした前半から、急激に晴れやかで美麗な後半へとムードが反転する構成だ。アルバム『★』の楽曲群で歌われる人間の愚かしさには、すべて愛というテーマが通底している。とめどない背徳的な愛と破滅。衝動的な愛が引き起こす暴力。愛ゆえの後悔。愛ゆえの孤独。人間の愚かしさは、いつでも愛の反転であるというメッセージだ。それは、ロックスターとしてのボウイが一貫して描き続けてきたものに他ならないのだが、2016年に鳴り響くべき斬新なサウンドのおかげで、人間はなにも変わってはいない=Nothing Has Changedということの切実さが鋭く突き刺さる。

 ボウイの初主演映画『地球に落ちてきた男』(1976年)が昨年、舞台化されたのを受け、異星人の主人公トーマス・ジェローム・ニュートンの後日談として製作されたのが「Lazarus」だ。米ビルボードが報じたところによると、ストリーミング再生数が軒並み上昇しているボウイ楽曲の中でも、この最新シングル曲「Lazarus」は、クイーンとの「Under Pressure」や、「Space Oddity」、「Let’s Dance」、「Life on Mars?」、「Changes」といった名曲群を遥かに凌ぐ再生数を記録しているという。

 そして、アルバムの最終トラック「I Can’t Give Everything Away」である。ラヴ・ソングとして捉えると痛烈な告白だが、ならばなぜ、この曲は温かみに満ち、宙に舞い上がるようなサウンドで届けられたのか。ここで、《私はすべてを与えることはできない》というフレーズは、与えられていないものはまだ残されている、という可能性へと反転する。『★』というアルバムは、我々がただ悲嘆に暮れることを許さない。この傑作を、ただ感傷的に語るわけにはいかない。地上の我々と同じように、まだ与えられていない何かを、ボウイは遥か空の彼方で探し求めているのではないか。そんな気がして止まないのだ。

[Text:小池宏和]

◎リリース情報
『★』(読み:ブラックスター)
2016/01/08 RELEASE
SICP-30918(CD) 2,500円(tax out.)
※デジパック仕様/日本盤のみ高品質Blu-Spec CD2/歌詞・対訳・解説付
iTunes:http://apple.co/1l8CLCl

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