CD全盛期を真っ直ぐに闊歩した、相川七瀬の『crimson』に隠された謎!?

2015年7月22日 / 18:00

相川七瀬『crimson』のジャケット写真 (okmusic UP's)

昨年末、Silent Siren 、中川翔子、赤い公園らが参加した初トリビュートアルバム『A-Rock Nation -NANASE AIKAWA TRIBUTE-』がリリースされた相川七瀬。今年6月には、このトリビュート盤にも参加した藍井エイルの全国ツアー・ファイナルに相川本人も出演し、一緒に代表曲のひとつである「BREAK OUT!」を熱唱したことも記憶に新しい。デビュー20周年の2015年、再評価の声も高まりつつある女性ロッカーだ。

 CDセールスの落ち込みは毎年々々伝えられており、今や売上高はピーク時の半分以下とのことである。音楽をダウンロードで入手できるようになったこと、しかもそれが楽曲単位で可能になったことで、わざわざパッケージソフトを入手する必要がなくなったというのがその最大の理由だろうが、CD以外の音楽ソフト自体も年々売上を落としていて、もはやデジタル配信ですら頭打ちという状況だとか。「何と嘆かわしきことよ」とお思いも読者も少なくないかもしれないが、その因果関係には諸説あるので、この辺の話はどなたかにお譲りして、ここではむしろそのCDセールスピーク時のアーティスト、作品を取り上げ、振り返ってみたいと思う。1996年に発表した1stアルバム『Red』がチャート初登場で1位を記録。翌年リリースの2ndアルバム『paraDOX』も同様にチャート初登場1位し、さらには1998年の3rdアルバム『crimson』もチャート初登場1位という偉業を成し遂げた相川七瀬は、CD全盛期のミュージックシーンのド真ん中を堂々と闊歩したアーティストのひとりだ(女性ソロアーティストでデビューアルバムから3作連続で初登場1位を獲得したのは当時としては初の快挙であったという)。本コラムではCDセールスのピークであったと言われる1998年発売の3rd『crimson』を検証してみる。
 『crimson』はM1「○○○○?」で幕を開ける。ギターリフとパーカッシブなリズム、そして何よりサビメロにザ・ローリング・ストーンズへのオマージュをいかんなく感じさせる王道R&Rナンバーだ。電子音の被せがちょっと気にならないでもないが、一時“和製ジョーン・ジェット”との異名を取っただけのことはある(筆者はそう呼ばれていたことは知らなかったけど、この呼び名は微妙ですね/苦笑)。オープニングから景気はいいし、カッコ良い。ロックアルバムとしては上出来である。M2は通算10枚目のシングルナンバー「Nostalgia」。シングル曲はやはり2曲目が収まりがいい。今聴いてもキャッチーなメロディーが心地良いし、炸裂するギターリフもスリリングだ。ミディアムの8thシングルカップリングM3「さよならを聴かせて」~スローバラードのM4「眠れない夜」でテンポを落ち着かせて、M5「Night Wave」というインストにつなぐという2ndアルバム『paraDOX』でも見せた手法は、“相川七瀬=アルバムアーティスト”を印象付けている。M6「Bad Girls」はシングルバージョンとは異なるディスコティックな弦楽器をお気に召さないファンもいたようだが、これはこれで実にダンサブルで気持ちいい。筆者は圧倒的に支持したい。
 M7「fragile」は、個人的にはシングルでもイケたんじゃないかと思う佳曲。メロディーの持つ日本的な叙情性が琴線を刺激する。ここからM10「彼女と私の事情」までは曲間なく続いていく。と言っても、今のJポップ・ノンストップ・ミックスほどの妙味は薄いが、20年近く前のこととなれば好意的に捉えたいものだ。M8「Velvet moon」はハウス的なサウンドメイキング&リズムが基本だが、Aメロは変拍子的なビートも見せる興味深いナンバー。M9「たまんない瞬間」はプログレ的なギターリフが途中ロカビリー調に転調する、これまた一風変わったナンバーで、転調する瞬間に被さるサックス以下諸々の音が鼓膜をキリキリと刺激するような高音で、ややもするとノイズの域に入るほどだが、これも実に面白い。本アルバムの聴きどころのひとつであろう。そして、9thシングルであるM10「彼女と私の事情」。シングル曲だけあってさすがにサビメロはキャッチーだが、高音のシャウトする様子は極めてロック的だと思う。また、M2「Nostalgia」もそうだったが、これもそうで、相川七瀬のナンバーはサーフロック的な匂いがする。まぁ、そもそもデビュー曲「夢見る少女じゃいられない」もそうであったが、とはいえ、ギターの音が分厚く、懐古的な雰囲気は皆無ではあるのが相川流である。そして、スローバラードM11「優しいうた」で本作は幕を閉じる。
 結論から言えば、よく出来たアルバムである。おそらくアルバムの流れまで意識して制作されたわけでないと思われるシングル3作品をしっかりと並べ、(当たり前のことだが)1st~2ndで紡いできた相川七瀬という女性ロッカーのキャラクターをキープした作品作りはお見事。ご存知の方も多かろうが、相川七瀬は織田哲郎氏のトータルプロデュースによってデビューしたアーティスト。それまでの主流だった「“前向きなガール・ポップ”に対して“前向きじゃないダークなロック”を全面に打ち出した」というが(「」内はウィキペディアより引用)、『crimson』では依然織田氏のプロデュースワークが冴えわたっていたことが今も確認できる。1st、2ndに比べるとパンチ不足…との指摘もあるようだが、それは初出の印象と、2枚のアルバムを経てからの印象の違いによるところが大きいと思われるので、作品の本質に大きな変化はないと見るのが正しいのではなかろうか。
 最後に、邪推にも近い補足をひとつ。個人的にはこの『crimson』はややミステリアスなアルバムだと思う。冒頭でも述べた通り、1stアルバムから3作品連続チャート初登場1位、しかも当時はCDの全盛期で、すべてミリオンセールスを記録。さらに紅白歌合戦にも出場し、全国ツアーは各地で瞬間的にソールドアウトと、まさにシーンの頂点を極めていたといってもいいはずだが、オープニングナンバー「○○○○?」にこんな歌詞がある。《何となく今日をこうしてまたぬりつぶす そんな事ばっか繰り返して年とっていくの? それ悲しすぎない?》。まあ、これはプロデューサーの織田氏作詞による倦怠期にも近い馴れ合いの恋愛へのカウンターであるわけだが、ルーティンワークの揶揄と受け取れなくもない。アルバムのジャケットを見るとさらに深読みしてしまう。文字通りの“籠の鳥”である。中ジャケには赤い血の涙を流す彼女の写真もあるし、はがされたのか羽だけのショットもある。ルーティンワークの忌避。籠の鳥。血の涙。はがされた羽。ちなみに、本作発表後、全国ツアーが終って髪の毛をばっさりと切り、ひとりで約2カ月間、ドイツに旅行したという。そこに作品との因果関係はなかったのか──。まぁ、おそらくなかったと思うが、そんなふうにアートワークも含めていろいろと想像して楽しめるのはパッケージソフトの良さだと思う。この辺がデジタル配信にはない利点じゃなかろうか。


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