20年経った今もSUPER JUNKY MONKEYのスピリッツを感じられる『キャベツ』

2015年7月15日 / 18:00

SUPER JUNKY MONKEY『キャベツ』のジャケット写真 (okmusic UP's)

祝! 5年半振りのライヴ決定! というわけで、今回はまさに独断と偏見でSUPER JUNKY MONKEYを取り上げる。メンバー全員が女性ながらパワフルなサウンドとアグレッシブなライヴパフォーマンスで、国内のみならず海外でも高い評価を得たラウドロックバンドである。ロックファン…いや、音楽ファンで彼女たちを知らない人がいるとしたら、それは実にもったいないことだ。未体験のリスナーにとって本コラムがSUPER JUNKY MONKEYを知る一助になれば本望である。

先に謝っておきます。今回のこのコラムが単なる自慢話に聞こえたらすみません。後になって「あれは観ておいて良かったな」と語りたくなるライヴ体験というものがある。(自分は観てないけど)「1966年のビートルズ日本公演を観た!」なんてのはその最たる例であろうし、そうしたチケット争奪戦の末に観ることができたもの以外にも、今となっては見ることが叶わないアーティストのライヴを観ることができたという体験はどこか誇らしく感じるものではなかろうか。筆者にとっては尾崎豊最後のツアー『TOUR 1991 BIRTH』を観ることができたのがそれだし、メジャーデビュー前のTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTのライヴ…MCのほとんどがチバユウスケなんて光景を観たこともそれに当たる。他にもいろいろあるが、中でも4人のSUPER JUNKY MONKEY(以下SJM)を観ることができたことは今も忘れられない。
正式な年月日は完全に失念しているが、調べてみたらどうやら1995年の春か秋のようだ。とある地方の今はなきライヴハウス。その広報担当者からSJMのライヴ告知を依頼されて、記事掲載後、「当日のライヴも観に来てください」と言われ、「それじゃあ、お言葉に甘えまして…」てな具合に足を運んだのだと思われる。もしかすると対バンがいくつかあったのかもしれないが、そんなことは一切覚えていない。とにかくSJMのステージが鮮烈だったのである。確か観客は100人に満たず、物理的に派手にモッシュ&ダイブができる状況ではなかったが、アンコールではオーディエンスがステージに上がり(MUTSUMI623(Vo)が観客の手を引いて上げていたような記憶もある)、ものすごく盛り上がった。演奏が素晴らしかったことを強烈に覚えている。ラウドでファンキーでポップで、何よりもロックだった。
当時のSJMは各地でそういうライヴステージを展開していたのだろうが、そんな90年代前半のSJMの雄姿を見事に音源化した作品が、彼女たちの1stアルバム『キャベツ』である。メジャー進出後の2nd『SCREW UP』、3rd『PARASITIC PEOPLE/地球寄生人』、あるいはミニアルバムながらも『Super Junky Alien』辺りも名盤と呼ぶに相応しい作品だが、鮮烈なライヴ体験と相俟って、筆者はSJMの最高傑作にはこの『キャベツ』を推したい。
このアルバム、とにかく生々しい。演奏以前に会場の空気感を閉じこめているところが何と言っても素晴らしい。イントロ前、アウトロ後のMCや観客の声も冗長にならない程度にしっかりと収録している。OPのシャウト…というよりもほとんど嗚咽にも近いデスヴォイスの「こんばんはっ!」で始まり、M9「Bedside session」終わり、最後の最後で「アルバム出たら買ってね♡」というメンバーの言葉で締められているのは実にSJMらしい。SJMはラウドで可愛いし、ハードでか弱いのだ。M4「Find yourself」の曲終わりでの観客のやり取りも楽しいし、M5「シャワー」終わりの「(この曲が終わってライヴ全体の)まだ半分くらいだからね(笑)」とのMCもいい。この会場の熱量が手に取るように分かる。ここにいた人たちはメンバーを含めて全員が楽しくて仕方がなかったのだと思う。何と羨ましいことだろう。
楽曲の秀逸さは言うまでもない。後に日本を席巻するラウド、ミクスチャーの先駆けは彼女たちだったと言っても過言ではないのではないかと思う楽曲ばかりである(もちろん、決してそればかりじゃないことは後述する)。M1「Matador」はブルージーなギターから軽快なドラミングと、たおやかなベースラインがファンキーに展開。ギターは時に浮遊感もありつつ、いい意味での粘りがありつつ、小気味のいいカッティングで楽曲を引っ張る。ともにあっと言う間に終わるが、強い存在感を示すM2「SUPER JUNKY MONKEYのテーマ」とM3「REVENGE」は彼女らの根底にあるポップさと無縁ではないし、M4「Find yourself」で響かせるミディアムのファンクロックチューンは超絶カッコ良いのひと言に尽きる。これは所謂ミクスチャーそのものだ。M8「you are not the one」でセカンドラインを取り入れている点も聴きどころ。ハード&ラウドだが、全体的に一本調子になっておらず、バラエティーに富んだアルバムにしているのはこの辺にも要因があると思われる。M6「FASTER」もそう。後半アップに転調するスリリングさが絶妙な抑揚を生んでいる。
注目はM5「シャワー」、M7「POPO BAR」、M9「Bedside session」の3曲。まず、「私みたいな不器用な女が、多重人格な女が、ひとりの人格を作り出そうとして悩むという、そういう曲をみなさん、まったりしながら聴いてください」とのMCの後に演奏されるM5「シャワー」。これはキング・クリムゾンばりのプログレナンバーである。M7「POPO BAR」はラップ調のループパートがあるものの、このテンションはやはりプログレと呼びたいものだし、10分を超える大作M9「Bedside session」はタイトル通り途中にジャムセッションを挟んだような楽曲で、とにかくグルーブ感が凄まじく、「これこそロックバンド!」と言いたくなるほどの秀曲だ。ライヴアルバムである。もちろんミキシングもしていないし、オーバーダビングもない。この瞬間でしか録れなかった究極の一発録りである。それでいて、この演奏のハイテンションは尋常ならざるものだ(「もしかしてPro Toolsを使っているのかも?」と思い調べてみたが、Pro Tools 自体、90年代初頭はそこまで汎用性が高いわけではなかったようで、おそらくここでは使われてないだろう)。M7「POPO BAR」は歌詞もいい。POPO BARとは、“己の意思”という意味だそうだ。《You can dance your dance. you can talk hard loud./you can live your own life with your POPO…/you can walk your way. you can scream in this way.“I can live my own life! with my POPO BAR”》。己の意思で踊り、騒ぎ、人生を進む…突っ込みどころがない。ホント真っ当なロックバンドであると今も思う。
SJMは早くから海外進出を果たし、北米でも高い評価を受けたが、99年にMUTSUMI623が急逝。2001年に未発表曲集『E・KISS・O』、ベスト盤『Songs Are Our Universe』を発売後、活動を停止していたが、09年に開催されたMUTSUMI623のメモリアルライヴにてKEIKO(Gu)、かわいしのぶ(Ba)、まつだっっ!!(Dr)のオリジナルメンバーでシーンに復帰。翌年には『FUJI ROCK FESTIVAL』にも出演した。そこからまたしばらく音沙汰がなかったが、先ごろ、2015年12月25日に東京・LIQUIDROOMにてライヴイベントを開催するとの発表があった! 今、原稿を作成している段階では日時、会場以外の詳細は発表されていないが、これはもう四の五の言わずに行くのが正解。と言われても、音源すら聴いたことがない人にとっては何が何やら…だろうから、『キャベツ』以外でもいいからまずはアルバムを聴いてみてほしい…と締め括ろうと思ったら、残念なことにどうやらベスト盤以外は廃盤となっているようである。中古盤は高騰していないようだし、若干手間はかかるが、探して購入するのも悪くない。中古店でもたまに見かける。
最後に…この拙文でどれだけ彼女たちの素晴らしさが伝わったのか、心許ないことこの上ないので、SJMをよく知る上での文献をひとつ紹介したい。それはベスト盤『Songs Are Our Universe』リリースにあたって鈴木祥子から寄せられたコメントである。“WHY’D SHE SCREAM?~SUPER JUNKY MONKEY、彼女達はなにと闘い、勝利し、傷つき、そして倒れていったのか?~”とタイトルの付けられたメッセージが的確にSJMを語っている。さすがにここに全文を掲載できないので、「鈴木祥子 Super Junky Monkey」辺りでググってぜひ読んでほしい。才女は才女を知る。見事な論評である。


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