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「金継ぎ」とは、日本の伝統的な修復技術だ。陶磁器の破損箇所を漆で接着し、その上に金を撒く。金を使用するのは、見栄えの美しさもさることながら、人体に無害であるために食器として使い続けることが可能だからである。装飾法の金蒔絵と同じ理屈だ。骨董品を鑑賞物ではなく日用の道具として捉える、「モッタイナイ」の価値観を代表する技術と言えるだろうか。金継ぎを施された器は、一層の愛着と趣を楽しむことが出来るという。それも、昔読んだ漫画の受け売りだが。
1997年に米ワシントン州で結成され、メジャー・デビュー作『Plans』(2005)から10年を数えるデス・キャブ・フォー・キューティーは、ナイーヴな歌詞とどこまでも情緒的なメロディ、知的なアレンジメントによって熱狂的な支持を獲得し、先の『Plans』以降アルバム4作をすべてBillboard 200のトップ10圏内に送り込んできたバンドだ。今春リリースされた最新作『Kintsugi』は8位をマーク。フロントマンにしてソングライターのベン・ギバードは、別動バンドのザ・ポスタル・サーヴィスにおいても高い評価を得ている。
4年ぶりの新作『Kintsugi』は、バンド史上初めて、外部プロデューサー(リッチ・コスティ/これまでにはミューズやフランツ・フェルディナンド、フォスター・ザ・ピープルらを手掛けた)を迎えている。デスキャブ初期からギタリスト兼プロデューサーとして携わっていたメンバーのクリス・ウォラは、昨年9月に脱退。とはいえ、外部プロデューサーとの共同作業はそれ以前から進んでおり、クリスも新作完成を見届けるまでは製作に携わっていたという。
嫌が応にもバンドの新章を受け止めさせる『Kintsugi』だが、研ぎ澄まされたバンド・サウンドと淡く効果的なエレクトロニカの折衷、そこからとめどなく溢れるエモーションは、デスキャブ印そのものである。傷つきやすい魂に寄り添う歌の数々は、これまでの彼らに寄せられて来たファンの支持に応えるものであり、一方で長い道程に思いを馳せるような「Black Sun」は、長年連れ添って来たクリスの存在を感じさせる。また、<君は東京の窓から写真を送ってくれたんだね/元気にしてるって>と歌い出される「Little Wanderer」は、もしかすると日本在住のファンに宛てられた歌だろうか。
静謐なラヴ・ソングの「Hold No Guns」で折り返すように、アルバム後半はダイナミックな高揚感が描き出されてゆく。痛めた心やメンバーの離別を美しいメロディで埋め、新しい価値観を導き出してやろうとするデスキャブの現在地が浮かび上がるようだ。キャリアを重ね、傷つくほどに美しく、味わい深いものになる。『Kintsugi』は、そんな人生の理想を掲げたアルバムなのだ。
text:小池宏和
◎リリース情報
『金継ぎ』
デス・キャブ・フォー・キューティー
2015/4/1 RELEASE
2,457円 (plus tax)
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