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くるりによる初のフルオーケストラコンサート【billboard classics QURULI Premium Symphonic Concert 2026】が9月5日に京都コンサートホールにて開催された。
本公演は、高井優希の指揮で、日本センチュリー交響楽団との初共演だ。ゲストに畳野彩加(Vo.)、石若駿(Dr.)、松本大樹(Gt.)を迎え、先立つ8月30日には、東京フィルハーモニー交響楽団とオーチャードホールでの東京公演も開催されていた。今回はくるりの故郷で行われた京都公演の模様を振り返る。
くるりの30年、驚きに満ちた音楽の旅
植物園まわりの遊歩道を抜けて、京都コンサートホールへ。クラシックの音楽会では幾度も訪ねたこのホールで、きょうはくるりを聴く。くるり結成30周年の贅沢な秋である。北山のこのホールでは、岸田繁の交響曲第二番の京都初演を2018年12月に聴き、翌年10月には第一番と第二番の連続演奏会も愉しんだ。広上淳一が指揮する京都市交響楽団の演奏を走馬灯のように思い出しながら、ホールへのくるりとしたスロープを上がっていく。
くるりの30年は、驚きに満ちた音楽の旅である。ロック・バンドの様式をぎりぎりまで拡張するように、さまざまな響きの情景を拓いてきたことは、ここでくり返すまでもないだろう。しかし考えてみれば、多様な創意と実験を凝らしてきた彼らの長年の冒険には、まだまだ未踏の領域があった。そのひとつが、オーケストラとの本格的な融合というものだ。フルオーケストラとの共演は実際的にそう簡単でないという現実的な要件だけでなく、より音楽的にみるならば、クラシックのオーケストラ音楽を敬愛するからこそ、また自由に編成を旅しつつもロック・バンドの矜持を高く掲げてきたからこそ、くるりとフルオーケストラとの邂逅は留保されてきたとも言えるだろう。ハーモニーや構成の面ではクラシカルな書法に親近性を持つくるりだが、リズムやビートの凝った魅力はオーケストラの諸楽器生来の発語ではそうそう適えることは難しい。それがこうして、ビルボードクラシックスのステージで叶えられることになった。壮大にして冒険的な試みの瑞々しいはじまりだ。
くるりのふたり、岸田繁と佐藤征史、指揮者の高井優希のプレトークが開演30分前からあり、まずは軽快に緊張が解されていった。京都との関わりや指揮者の出自などをたずねつつ、今回のコンサートのためのオーケストラ編曲が数人のアレンジャーによってなされたことが告げられた。もともと複雑で綿密なバンド編曲がなされたオリジナルをオーケストラで活かしきるのは、弦楽四重奏をオーケストラにたんに拡大するよりも余程骨が折れる試みではないか。ビルボードクラシックスの屋台骨をなす山下康介と萩森英明のほか、酒井麻由佳、森田花央里、三浦秀秋、そして岸田繁が編曲を新たに手がけていた。それぞれに意匠と工夫、色彩やスパイスを凝らし、くるりの名曲に新しい風景をもたらそうとしたことが、コンサートの光景を聴き進む愉しみに繋がったのである。
岸田繁の交響曲によるシンフォニックな幕開け
コンサート本篇は、初演から間もなく10年となる岸田繁の交響曲第一番の終楽章、第五楽章のオーケストラ演奏で幕開け。オーケストラの編成こそ小さくなっているが、岸田らしい意外な音の繋がりのなかで、いろいろな楽器のおいしいところが、まずはここで聴きとれる。指揮者とオーケストラの紹介という意味あいもあろう。心にくい選曲と言えるし、またエンディングの一曲のアコースティックな響きの美しさと相まって、このオーケストラコンサート全体をシンフォニックに包み込むものともなった。
そして、くるりがステージに姿をみせる。きょうのくるりは岸田繁と佐藤征史、ギターの松本大樹、ドラムの石若駿というバンド編成。指揮者の向かって右手、舞台上手にこの順番で並ぶポジションをとった。岸田と佐藤はエレクトリックとアコースティックの楽器を巧みに使い分けていく。
“そう 行かなくちゃ”と歌い出す「JUBILEE」で“新しい場所を探して”、“雲のように 自由になれるはず”と謳うのはじつに象徴的だ。ウィーン録音の『ワルツを踊れ』の弦楽オーケストラの記憶も重なってくるところだが、ここでは管楽器の細やかなハーモニーが新しい色彩を絡めている。オーケストラの音像を縫うように、松本大樹のギター・ソロが引き立つ。もともと交響曲の季節にも近く、岸田繁と徳澤青弦ストリングスの管弦楽アレンジでシングルになった「How Can I Do?」がこれに続き、さらに大きなオーケストラのボディを弾ませる。でも、まだ「How Can I Do?」といった手探りの感じだ。 「魔法のじゅうたん」で、ピアノをはじめ楽器の色彩がくっきりと立ってくる。岸田のアコースティック・ギターがきれいに鳴って、弦や管を導き、「Remember me」が歌われると、ゆったりと構えた響きのなかで岸田の歌の魅力が引き立つように伝わった。今回選ばれた曲の多くが、ファンファンが在籍したくるりの言わば「管弦楽団」時代の作品だけに、トランペットはソロが美しい場面が印象的なだけでなく、全篇を通じて大活躍した。前篇を結ぶ「ブレーメン」は、息の長いハーモニーに灯されていくような序奏から水際立っていた。大きく情景を色づけつつ、それぞれの楽器声部の分離もよい編曲で、ヴォーカルに専念した岸田の歌の望みと力が朗々とよく響いてきた。
ロック・バンドとオーケストラの融合
20分の休憩をあけてはまたもインストゥルメンタルで、しかし今度はバンドとオーケストラが織りなす「大阪万博」。なのだが、不穏で神妙なハーモニーから起ち上がる岸田のナレーションがまずは異界への入り口をなす。もともと自律したパートが絡む器楽曲でもあり、ロック・バンドとオーケストラの融合が明確なかたちで果たされた熱演となった。 「ソングライン」で一杯、といきたいところで、これは全体にも言えることだが、指揮とオーケストラがタイトなだけでなく、もう少し澄んだ音や開放感がある息づかいをもってくれてもよかった。せっかくの生楽器だから、天井のない空も見晴らしたいのが心情だ。ラヴェルの「ボレロ」のおしゃれなトランスフォームは、このアレンジでも光っていた。
ここで初めてトークをはさみ、「これだけ大勢の素晴らしい音楽家たちといっしょにくるりの曲を演奏できるなんて、ほんとうに30年前の自分たちに教えても、たぶん信じないと思います……。こんな機会を与えていただいて、ほんとうにありがとうございます」と岸田が述べた。
ゲスト・ヴォーカルに畳野彩加を呼び込み、「琥珀色の街、上海蟹の朝」。管も弦も多彩に飛び交って、石若駿が抑制されたドラミングを利かすなか、賑やかな街のようにオーケストラの色彩が広がる。それから「かんがえがあるカンガルー」が、オーケストラとともに色濃く闊歩する。てんこ盛りの編曲から一転し、「男の子と女の子」では、弦を首席の四重奏に絞る引き算的な工夫も含みつつ、岸田と畳野のヴォーカルを繊細に支えた。本曲と前半の「How Can I Do?」で佐藤はコントラバスを弾いたが、エレクトリックでの拡声音響よりも、オーケストラとの相性もよく、またタイトな芯を響かせてきた。
「oh my baby」は、岸田繁自身がオーケストラ編曲を手がけた当夜唯一の作品で、これがなにより出色の出来映えだった。原曲者だから必ずしも編曲も上手という話にはならないのがオーケストレーションの難しいところだが、ここではバンドもオーケストラもすべての楽器が、岸田の歌を大らかに広げていくように自然に響いていた。歌の心が澄みやかに大らかで、どこをとっても岸田の歌の生理に適っているからだ。そうしてみれば、くるりが編成や意匠を変化させてきたのは、楽曲のありようを正確に見据えるためでもあった。
「ハヴェルカ」で闇鍋風の賑わいが祝祭的な高揚感を彩り、「Liberty & Gravity」では畳野のヴォーカルに客席の手拍子も加わって、コンサートは熱を帯びた終盤を築いていく。メンバー紹介でひと息入れると、「La Palummella」。憂愁を帯びた行進曲調のオーケストラのなかで、岸田がナポリを連れてくる朗々たる歌唱を聴かせた。応答する佐藤のヴォーカルの伸びやかさも素晴らしかった。そうして、懐かしく見知らぬ故郷へ帰り着くような心持ちになってきたところで、「宿はなし」。岸田の歌とギターと佐藤のベースが、オーケストラのシンプルだが繊細なアレンジで際立ってくる。美しい余韻が静けさとともに残り、やわらかな拍手がそっとそれを包んでいった。誰からともなく自然と湧き起こるようなオール・スタンディングで。
大きなくるりの「気」の下で
岸田繁がいて、佐藤征史がいて、いっしょに演奏するプレイヤーがいる。それがくるりという果敢で自由なバンドのありようだとすれば、指揮者と交響楽団を迎えたこの編成では、数十人もの大きなくるりの体現が目指されたのだろう。つまり、ヴォーカリストとバッキング・オーケストラではもちろんなく、ロック・バンドのための協奏曲でもなく、全体が“大きなくるりのためのコンチェルト”であるような室内楽的対話感が求められる。書き下ろしの編曲、初対面のオーケストラ奏者との共演であっても、である。
こうした志の高さと、ひとりひとりの演奏家への敬意は、くるりのアンサンブルの核心だろう。それはある局面では魅力的に叶えられ、ときにはまだまだ先があるはずだという予感を告げていた。残響の豊かなコンサートホールで、オーケストラの生楽器とバンドの電子楽器の音の生理を調和させるのが難しかったということも大きい。オーケストラの細部に濃やかに編み込まれた旋律が、全体の響きの飽和のなかで、くっきりと鮮明には伝わらなかったもったいなさも感じた。くるりの原曲のバンド・アレンジでは、細部にいたる創意がいつも繊細に小気味よく聴きとれていたからだ。近作の「La Palummella」で、ナポリ生まれの偉才ダニエレ・セーペにアレンジを託したのは親しく通じ合うなにかがあったからだ。それがこのコンサートでは、ほぼ全曲が他のプロフェッショナルに委ねられた。そこには30年を経てのくるり自身の寛容さだけでなく、なにより個々の楽曲への信頼というものがあったのだろう。どんな服を着ても、どの街角に立っても、メロディーやハーモニーはくるりなのである。さまざまな時節の作から、旋律と歌がとくに活きる曲だけでなく、多種多様なスタイルの曲が集められ、ひとつひとつがア・ラ・カルトとして、ていねいに料理された。しかもプログラム構成は、休憩をはさむ前後半の流れにライブの高揚と鎮静を含めて、きれいに織りなされていったのだ。
なにが起こったかということだけではなく、なにがここで試みられ探求されていたか、ということが大事な聴き手にとって、このコンサートはほんとうに興味の尽きないものとなった。このたびの意欲的なチャレンジがくるり、そしてビルボードクラシックスになにをもたらしていくのか、ということも今後大いに気になるところだ。次なる機会が待ち遠しくてならない。「宿はなし」の後、静かに湧き上がった拍手の響きに包まれながら、初めての面白さだけでは終わりようがないなにかを、私もまたつよく感じていた。
text:青澤隆明
photo:垂水佳菜(東京公演)、井上嘉和・岡安いつ美(京都公演)
◎公演情報
【billboard classics QURULI Premium Symphonic Concert 2026】
2026年8月30日(日) ※終演
東京・Bunkamura オーチャードホール
2026年9月5日(土) ※終演
京都・京都コンサートホール 大ホール
<セットリスト>
第1部
M1. 交響曲第一番 第五楽章
M2. JUBILEE
M3. How Can I Do?
M4. 魔法のじゅうたん
M5. Remember me
M6. ブレーメン
第2部
M7. 大阪万博
M8. ソングライン
M9. 琥珀色の街、上海蟹の朝
M10. かんがえがあるカンガルー
M11. 男の子と女の子
M12. oh my baby
M13. ハヴェルカ
M14. Liberty & Gravity
M15. La Palummella
M16. 宿はなし
出演:くるり
指揮:高井優希
管弦楽:
【東京】東京フィルハーモニー交響楽団
【京都】日本センチュリー交響楽団
バンドメンバー:畳野彩加(Vo.)、石若駿(Dr.)、松本大樹(Gt.)
編曲監修:山下康介
編曲:岸田繁、酒井麻由佳、萩森英明、三浦秀秋、森田花央里、山下康介
<公演公式サイト>
https://billboard-cc.com/quruli2026
主催:ビルボードジャパン(阪神コンテンツリンク)
企画制作:ビルボードジャパン、ノイズ・マッカートニー
後援:米国ビルボード、【東京】J-WAVE
<公演に関するお問合せ>
【東京】HANDS ON ENTERTAINMENT info@handson.gr.jp(10:00~18:00/土日祝休)
【京都】キョードーインフォーメーション 0570-200-888(12:00~17:00/土日祝休)
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