ザ・ウィークエンド、史上最大級かつ極めて異例なカタログ提携契約が成立

2025年12月26日 / 15:45

 ザ・ウィークエンドを巡って長らく噂され、報じられてきたカタログ提携契約の成立は、評価額が10億ドル(約1,562億円)規模に達した数少ないアーティスト案件の一つであるという点だけでなく、アーティストの音楽資産取引の歴史において、極めて大きな負債比率を伴う取引の一つとみられる点でも異例だ。

 関係者の話を踏まえると、この取引はザ・ウィークエンドの音楽資産について総額10億ドルを調達するもので、75%が負債による資金調達、残る25%についてはリリック・キャピタル・パートナーズがカタログの持分を保有する構造だという。対象には、関係者の話では、ワシム・“サル”・スレイビーと共同で所有するマスター音源と、共同出版契約およびソングライター持分を通じて75%を保有する出版権が含まれるという。残る25%の出版権は本取引には含まれず、現在はコード・ミュージック・パートナーズが所有している。

 これまでに評価額10億ドル規模に達したことが知られているアーティスト取引は、クイーンがマスターをソニーに売却した際の12億7,000万ドル(1,982億円)と、ソニーが故マイケル・ジャクソンのエステート資産の50%を取得し、6億2,500万ドル(975億5,500万円)が動いた取引で示された、録音マスターおよび音楽出版カタログ全体の12億5,000万ドル(1,951億円)評価のみだ。

 評価額の観点では、ザ・ウィークエンドの取引はまさに別格だが、それ以上に特異なのは、資金調達における借入の比重が極めて大きい点だ。買い手が借入を用いて音楽資産を取得する場合、銀行融資が関与すると、資金構成に占める負債の割合は多くても55%程度が上限とされる。一方、資産担保型証券化では、カタログの評価額に対して最大で約65%までの融資が一般的で、その場合でも資産の所有権は手放さず、評価額の65%相当の資金を受け取る形となる。ただし、投資家が音楽資産に慣れてきた今年は、負債比率の上限が徐々に引き上げられているとの見方もある。

 一方で、借入比率が高い取引は通常、複数のアーティストやソングライターから成る資産ポートフォリオ、あるいは企業全体の資産を対象に行われることが多い。負債比率が75%に達する今回の取引は、米ビルボードの推計では、単一アーティストの音楽資産を対象とした案件としては前例のない水準となる可能性がある。ただしこれは同時に、ザ・ウィークエンドとスレイビーが、マスター音源および出版資産の75%の持分を引き続き保有し、資産全体のコントロールを維持していることも意味する。

 金融アドバイザリー会社アーティザンの創業者兼マネージング・パートナーであるブライアン・リチャーズが、本取引でリリック・キャピタルに助言を行い、同社とともに債務投資家に案件を持ち込んだ。現時点ではどの貸し手が参加したのかは明らかになっていない。

 もっとも、単純には「負債75%/持分25%」と説明されることもあるが、関係者によれば、実際の仕組みはそれほど単純ではないという。負債の割合はさらに高い可能性があり、リリック側の持分の中に転換社債の一部が含まれているのではないかとの見方も出ている。一方で、この取引が全体として10億ドル規模の評価額を伴うものであったとしても、ザ・ウィークエンドとスレイビーがその全額を受け取っているかどうかは明らかではない。過去には、ザ・ウィークエンドが2012年以降、リパブリック・レーベルを通じて作品をリリースしてきたユニバーサル・ミュージック・グループとの関係を拡大し、出版管理をユニバーサル・ミュージック・パブリッシング・グループへ切り替えた際に、多額の前払い金が設定され、現在も一部が未回収のままだと示唆されてきた。今回の資金の一部は、その前払い金の返済に充てられる可能性があるとされている。

 関係者が米ビルボードに語ったところによれば、ザ・ウィークエンドのマスター音源と出版の合算で、レーベルおよび出版社の純取り分は年間5,500万~6,000万ドル(86億~94億円)とされる。ただし、リリック・キャピタルの取引がそれらの資産に限定されているのか、マーチャンダイズやツアー収益など、他のアーティスト資産も含まれているのかは明らかになっていない。

 仮に他の資産が含まれていなかったとしても、直近3年間でザ・ウィークエンドのカタログが生み出してきた数字は非常に大きい。2021年12月31日から2025年1月2日までの期間、米国では平均で年間370万アルバム換算ユニットを記録。今年に入ってからもその3年平均を上回り、12月11日時点で約422万ユニットに達している。一方、世界のストリーミング再生数は過去3年間で平均176億3,000万回だが、今年は現時点で165億回とやや下回っている。

 リリック・キャピタル、アーティザン、そしてザ・ウィークエンド陣営の代表者はいずれもコメント要請に応じなかったが、週末に取引完了を最初に報じた米バラエティに対し、匿名のアーティスト関係者は、「ミーティングが始まった時から、リリックの全員が、エイベル(ザ・ウィークエンド)が自分のカタログを売るつもりはないことを理解していました。彼は提携の築き方においてより革新的でクリエイティブな方法を求めていたのです。その結果、この事業を通じて、エイベルと彼の象徴的なカタログとともに新しいビジネス・モデルを構築し、立ち上げました。出版とマスターのすべての権利において、エイベルと彼のチームが創造的ビジョンを自由に実行できる。この独自のカタログ取引は、アーティストの権利持分とコントロールの在り方に新たな基準を打ち立てています」と語っている。

 どの角度から見ても、ザ・ウィークエンドの資産を対象としたリリック・キャピタル・パートナーズ主導のこの取引は、すべての関係者にとって画期的な合意だ。ただし、借入への依存度が高い取引である以上、リスクも伴う。通常、この種の取引には、債務の存続期間中に満たすべき財務比率に関する条項が盛り込まれており、条件を満たせなくなった場合、貸付は契約違反と判断される可能性がある。また、資産が現在の水準でのパフォーマンスを維持できず、元利金の支払い、最終的な返済に必要な資金を生み出せなければ、この取引を通じて保持しようとしたザ・ウィークエンドの資産コントロールが、将来的に貸し手の手に渡る可能性も否定できない。


音楽ニュースMUSIC NEWS

サブリナ・カーペンター、年末年始に渋谷で最新作『マンズ・ベスト・フレンド』広告が一括配信

洋楽2025年12月26日

 サブリナ・カーペンターの最新アルバム『マンズ・ベスト・フレンド』の広告が1週間にわたって渋谷エリアの90スクリーンにて一括配信されることが決定した。放映される期間とスクリーンの一覧は以下の通りだ。 <期間>2025年12月29日(月)~2 … 続きを読む

幾田りら、ピアニストまらしぃを迎えてABEMA『今日好き』の主題歌「恋風」披露 <THE FIRST TAKE>

J-POP2025年12月26日

 幾田りらの一発撮りパフォーマンス映像『幾田りら×まらしぃ – 恋風 / THE FIRST TAKE』が、2025年12月26日22時にYouTubeプレミア公開される。  一発撮りのパフォーマンスを鮮明に切り取り、アーティス … 続きを読む

AA=、「30 YEARS, STILL GOOD GIRL」リリックビデオ公開

J-POP2025年12月26日

 AA=が、5月にリリースしたアルバム『#7』に収録されている「30 YEARS, STILL GOOD GIRL」のリリックビデオを公開した。  今年「#」シリーズ最新作となるアルバム『#7』をリリースし、その後のツアーも盛況のうちに幕を … 続きを読む

TenTwenty、ビルボードライブ初登場 東阪ツアー開催決定

J-POP2025年12月26日

 斎藤宏介(Vo/Gt)と須藤優(Ba)によるバンド、TenTwentyが2026年4月に東京・ビルボードライブ東京と大阪・ビルボードライブ大阪に初登場する。  UNISON SQUARE GARDENのフロントマンとして活躍する斎藤と人気 … 続きを読む

ドージャ・キャット 独自の世界観で日本のファンを刺激 6年ぶり来日公演レポート到着

洋楽2025年12月26日

 ドージャ・キャットが12月15日に神奈川・Kアリーナ横浜で行った、6年ぶりの来日公演【Doja Cat Ma Vie World Tour Japan Show 2025】のオフィシャル・ライブレポートが公開された。  「深夜ドライブ向き … 続きを読む

Willfriends

page top