「グローカル」な時代で音楽を海外に輸出するためには?スウェーデンの事例から学ぶ

2025年7月2日 / 20:00

 音楽の「純輸出国」、すなわち他国から得るロイヤリティ収入が自国から支払う額を上回る国がある。その中で、スウェーデンはストリーミング・プラットフォームやソーシャル・メディアが音楽の国際的な流通に及ぼす影響を最も早く分析し、対応してきた“ペイシェント・ゼロ”である。そして、スウェーデンがこの新しい環境にどう対処するかは、他国のソングライターやプロデューサーにとっても参考になる道筋となりうる。

 かつてないほど音楽はグローバル化している。今では、ミュージシャンは1曲をアップロードするだけで世界中のどこにでもリスナーを届けることができる。しかし同時に、音楽はかつてないほどローカル化もしている。ストリーミング・サービスやSNSの登場により、アーティストは自国語の楽曲でローカルなファン層を築きやすくなり、これまで支配的だった英語圏(米英)のポップ音楽の画一性から解放されつつある。アルゴリズム主導のストリーミング・プラットフォームは地域ごとの嗜好を強調し、TikTokのようなSNSはローカル・アーティストに近隣リスナーへ訴求する強力な手段を与えている。このような「グローカリゼーション(グローバル+ローカル)」の結果、各国で自国語の楽曲を歌うローカル・アーティストがチャート上位を占めるようになった。

 この変化は著しい。米ビルボードの2023年の分析によれば、2012年にはポーランド、フランス、オランダ、ドイツでのトップ10のうちローカル・アーティストの割合は2割未満だったが、2022年にはポーランド、イタリア、スウェーデンで7割、フランスで6割、オランダとスペインで3割、ドイツでも2割に上昇した。Deezerのラテン・アメリカ部門責任者ペドロ・カーツは2024年、「人々が自国文化を重視し始めており、チャートはその鏡なのです」と語った。

 グローカリゼーションはローカルな音楽コミュニティにとって大きな恩恵をもたらしているが、一方で、国際的な市場を目指すソングライターにとっては新たな課題を生んでいる。これは経済学者ウィル・ペイジによるレポート「スウェーデン音楽産業の分岐点」でも指摘されている。ペイジは、ローカル音楽の消費が増えることで、外国人ソングライターの機会が減少し、グローバル・ヒットが生まれにくくなると警告している。つまり、フランスやドイツなどの市場でローカル楽曲が増えるということは、グローバルな楽曲がチャートに上がる機会が減るということであり、国外でのヒット作に強みを持つスウェーデンの作家陣にとっては新たな挑戦を意味する。

 ABBAやマックス・マーティンを生んだスウェーデンは、人口規模に対して世界音楽市場で圧倒的な存在感を示している。ペイジによれば、スウェーデンの人口あたりソングライター数は、英国の4倍となっている。また、米国、英国、韓国と並び、国外からのロイヤリティ収入が支出を上回るわずか4か国のひとつである。中でもスウェーデンは輸出入比率(スウェーデンの著作権管理団体=STIMへの国際収入と国外団体への分配の比率)が2.8で世界最高を誇る。

 スウェーデンのソングライターが国外で成功してきた背景には複数の要因がある。音楽教育や芸術への政府支援、国民の高い英語力に加え、エンタメ業界のデジタル化とともに、スウェーデンは高速インターネット普及率が高く、Spotify(合法)やThe Pirate Bay(違法)などのプラットフォーム導入にも積極的だった。

 その成果は明白だ。四半世紀前、スウェーデンのソングライター・プロデューサーたちはバックストリート・ボーイズ、イン・シンク、ブリトニー・スピアーズら米アーティストのヒット曲を多数手がけ、CD時代の爆発的な売上の恩恵を受けていた。近年では、K-POPの作詞作曲にも多くのスウェーデン人が関与しており、それらの楽曲は韓国のみならず世界中でヒットしている。ペイジは「韓国で1クローナ稼ぐごとに、世界の他地域からさらに2クローナ分のK-POP収入がある」と指摘。また、スウェーデン人アーティストは、ラテン・アメリカから北欧の2倍のストリーミング再生回数を記録しており、アジアから獲得したロイヤリティ収入もアジア人アーティストへの支払額を上回っているという。

 スウェーデンのソングライターたちは依然として成功を収めているが、レポートのタイトル通り、今後ローカル・ヒットが増え、グローバル・ヒットが減るとすれば、彼らはこれまで以上に戦略的な海外展開が必要になる。ペイジは「スウェーデンは作詞・制作において稀有な比較優位を持つが、グローカリゼーションが従来の取引関係を揺るがす中で、それに甘んじていてはならない」と述べている。

 この変化に対応するために、ソングライター、音楽出版社、著作権管理団体は具体的な施策を講じる必要がある。ペイジはスウェーデンに対して、すでに成果を上げている韓国のように「外国市場をマイクロ・ターゲティング」することを勧めている。たとえば、韓国の大手K-POP企業HYBE傘下のBELIFT LABは、北欧で作詞作曲キャンプを開催し、リモートでの共同制作も行っている。レポートによれば、「北欧の作家たちは、美しいメロディを通じてノスタルジーと感情を表現する独自の能力を持ち、それが世界中のK-POPファンに響いている」とのこと。

 また、成熟市場におけるストリーミングやサブスク収益の伸び鈍化から脱却するためには、新興市場への注目も重要だ。たとえばラテン・アメリカは大きな成長可能性を秘めており、スウェーデンの音楽はここで北欧の2倍再生されている。さらに、インドも注目市場であり、近年ではワーナー・ミュージック・グループやBelieveといった企業が投資を拡大している。まだトップ10市場ではないが、14億人以上の人口を持つ巨大市場であり、インド系ディアスポラを通じて米国やカナダでもローカル楽曲が聴かれるようになっている。

 グローカリゼーションへの対応策は、国ごとに異なるアプローチが求められる。スウェーデンと同様に、韓国も音楽の純輸出国であるが、その市場はK-POP企業が支配的であり、韓国国内およびグローバル両方のオーディエンスに訴求するポップ・ミュージックの作り方を確立している。同時に、K-POP企業はグローカリゼーションを積極的に受け入れ、アーティスト育成のノウハウを米国やラテン・アメリカなどに輸出しており、各地域市場に合わせた音楽グループの創出に取り組んでいる。一方、スウェーデンは、作詞作曲や音楽制作の人材輸出に優れており、国境を越えたコラボレーションを促進する点で強みを発揮している。

 「スウェーデンのアーティストにとって、輸出の必要性は非常に明快である。国内市場が飽和している場合、海外市場のほうがはるかに可能性があるからだ」とペイジは語っている。このことは、スウェーデンに限らず他国のアーティスト、ソングライター、プロデューサーにも当てはまる。世界中の消費者がストリーミング・プラットフォームを取り入れ続けており、多くの人が初めて有料サブスクに加入しつつある現在、グローバル音楽市場は今後しばらく成長を続けると見込まれている。その成長価値を掴み取るためには、クリエイターたちは“グローバル”と“ローカル”がますます重なり合う世界でどう活動するかを見極めなければならない。


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