the HIATUS、ジャズクラブ・ツアー【Jive Turkey vol.9】オフィシャルレポートが到着

2025年2月17日 / 10:00

 the HIATUSが、2月6日にBLUE NOTE TOKYOで恒例となるジャズクラブ・ツアー【Jive Turkey vol.9】を開催した。

 「俺は変わらないことを目指すんじゃなくて、すごい勢いで成長してみたい」

 MCで細美武士(Vo./Gt.)が語っていたことだ。理想ではなく事実だった。たとえば彼は歌がうまい。当たり前のことを書いているし、天賦の才だと羨んで終わりにすることもできる話だが、数年前より去年より、今の細美は歌がうまくなっていると感じた。才能の「上手さ」、テクニックとしての「巧さ」、さらには、五感を一気に痺れさせ、深く体内に入り込み、ずっと余韻として残る「旨さ」。ブルーノートとのコラボとなる限定のオリジナルカクテルを味わいながら、上質な酒がここまで似合うシンガーだったかと何度も鳥肌を立てていた。

 the HIATUSの「Jive Turkey」。2016年以降、毎年恒例となっているジャズクラブ・ツアーは今年9回目となる。シックな会場の雰囲気にもファンはすっかり慣れているようで、開演前から各テーブルでは歓談に花が咲く。ふと耳に入ってきたのは「ご家族で来られるなんていいですねぇ」という声であり、見れば、50代くらいの父親とその娘さんが楽しそうに食事中だ。各自が長いキャリアを持つthe HIATUSは、年中ライブハウスを回るスタイルではなかったからこそ、今ではこういう客層までを取り込めるバンドになっている。

 スーツで現れるメンバーの表情にも余裕がある。センターに細美。その斜め後ろには笑顔のmasasucks(Gt.)が立ち、隣のウエノコウジ(Ba.)はゆったり椅子に座りベースを構える。奥行きがあまりないステージなので、左手に伊澤一葉(Key.)のグラウンドピアノが、右手には柏倉隆史(Dr.)のドラムセットが向き合う形となる。至近距離で軽く目を合わせる5人と、それを近距離でじっと見つめる観客。あまり緊張感がないのは意外だった。さらりと「Unhurt」が始まっていく。

 いや、高い技術力を掛け合わせた楽曲がさらっと響くことが驚きなのかもしれない。生ピアノに彩られるアレンジはほとんど原曲とは別で、特に間奏部分では伊澤と柏倉が弾む会話のように即興を繰り出していく。もはやリズムは一定の点ではなく、常に揺れてさざめき続ける波のよう。それを掴み、引き寄せ、乗りこなしていくのがハイエイタスの流儀なのだろう。2曲目「Horse Riding」ではメンバー紹介も兼ねて、伊澤、masasucks、ウエノ、柏倉の順でソロが披露されたが、それがガチのバトルではなく、喜びのパス、みたいなニュアンスだったのは印象深い。最後、masasucksに名前を呼ばれるシンガー細美武士もまた、終始幸せそうな表情を見せていたのだ。

 「Jive Turkeyシリーズ、今日が7ステージ目。脂が乗っている一番いいステージです」と伊澤のMC。異論のある人間はいないだろう。特に凄まじかったのは4曲目「Firefly / Life in Technicolor」で、ジャズっぽいハネが多用されるアレンジは生演奏になると恐ろしいまでの飛翔を見せる。複雑だがそうとは感じさせない技術がすごいのか、難解な曲も単にいいものとして説き伏せていく歌声がすごいのか。どちらも事実で、しかも進化中。数年前なら集中力の高さが際立っていたが、今は演奏中にこぼれる笑顔のほうが目につくのだ。演奏ではたまらない絶頂を何度も味わわせておいて、最後に細美が「めっちゃ楽しいね」と小学生レベルの感想をこぼすのだから、なるほど、これが脂が乗るということか。結成16年目の貫禄とテクニックである。

 また、決して若くないバンドだから伝えられることもある。中盤、細美は網膜剥離になったことを振り返り、今まで当たり前だったものがこぼれ落ちていく、失ってから見えなかった幸せが見えることもあるのだと現在の心境を語っていた。そういう道のりを歌った曲です、と前置きして始まったのは5曲目「Clone」。音源を聴き返せばほんの3分半の楽曲だが、現場で味わった途方もないスケールはどう伝えたらいいだろう。控え目に言って、奇跡を見ているようだった。

 まず細美がよく歌う。すさまじく歌える。今の彼に歌えない音域などないと思えるくらい、ほとんど超人的に伸びていく歌声。それに呼応したギターが吠えはじめ、5人の演奏は月夜に響く遠吠えのごとくに神秘的なシンクロを見せる。嬉しいと切ない、笑いたいと泣きたいが混ざり合った爆発的な感情。それは混濁したカオスではなく、はっきり幸せへと導く光になりエンディングに向かうのだ。かくも明確なイメージを脳内に焼き付けられたのは、5人のプレイが、バンドとして到達したい景色が、完璧に近い状態でまとまっているから。冒頭に記したMCに続けて、細美は「このバンドはゆっくり長くやっていきたい」とも語っていたが、それはつまり、the HIATUSは今後さらに成長する、完璧以上の完璧になっていく、という宣言だろう。事実、このあとにも、信じられない奇跡の瞬間が何度も訪れていたのだった。

 とはいえ、2月の段階で言うことではないのだが、メンバーのMCを総合していくと「今年、the HIATUSのライブは今のところこれが最後」であるらしい。本編9曲を終えたあと、アンコールに出てきたウエノなど「みなさん、よいお年を」と笑いを取っている始末で、この体験はしばらくおあずけとなるらしい。

Text by 石井恵梨子
Photo by 三吉ツカサ(Showcase)

◎公演情報
【Jive Turkey vol.9】
2025年2月6日(木)
東京・BLUE NOTE TOKYO
<セットリスト>
M1. Unhurt
M2. Horse Riding
-MC-
M3. Souls
M4. Firefly / Life in Technicolor
-MC-
M5. Clone
M6. Sunset Off The Coastline
-MC-
M7. 紺碧の夜に
M8.Insomnia
M9. Ghost In The Rain


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