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しぐれういが、10月2日に神奈川・パシフィコ横浜 国立大ホールで【SHIGURE UI 5th Anniversary Live “masterpiece”】を開催した。
ロビーの一角には本ライブのキービジュアルの背景そのものが展示されていた。その中心にある教室の映った絵画の額縁から、しぐれういが上半身を外へと乗り出しているのが本来のキービジュアルだが、そこには彼女の姿だけが欠けていた。画集、個展、CD…と続いてきたVTuberデビュー5周年企画に、何かが足りない。そんな声が耳元で揺蕩う。今年4月にしぐれういがキャラクターデザインを手がけたことが発表されたぶいすぽっ!のVTuber・千燈ゆうひの会場アナウンスを経てオープニングムービーに映し出されたのは、その額縁から外の世界へと飛び出したしぐれうい。彼女はきっと足りないピースを補うためにこの日、バーチャルとリアルの境界を越え、ステージに降り立った。
「みんなー! 来てくれてありがとう! 今日は一緒に楽しもう!」
サイリウムが虹色に輝いた1曲目に繰り出されたのは、2ndアルバム『fiction』の収録曲「ハッピーヒプノシブム」。サビにそっと添えられた<ね?>と甘く残る余韻と、しぐれういのステップが描く軌跡から、彼女の纏う温かな空気感が満遍なく広がる。「粛聖!! ロリ神レクイエム☆」のバイラルヒットで、デジタルネイティブ世代を中心に、一躍時の人となったしぐれうい。彼女はイラストレーターでもあり、VTuberでもある。もともとVTuber界隈の視聴者だったしぐれういは、ホロライブのVTuber・大空スバルのキャラクターデザインを担当したことがきっかけで、VTuberとしての活動もスタートさせた。今では“ういママ”の愛称で親しまれている。
「パシフィコ!」「もっといける!」「うるせぇ!」「可愛く?」そう煽り、返ってきた可愛こぶった高い声に「キメぇ…あ、失礼しました(笑)」と、辛辣なコメントをリプライ…愛を含んだ毒舌こそがしぐれういのストロングポイントなのは言うまでもないが、この切れ味鋭いテンポ感とすんなりと溶け込む感が目の前で繰り広げられるのだから気持ちいい。4つ打ちのビートにときめく「トウキョウ・シャンディ・ランデヴ」、巻き起こるコール&レスポンスにホールごと揺れた「うい麦畑でつかまえて」、パラパラの振付がハイライトの「INTERNET OVERDOSE」と、アップビートナンバーに乗せて熱は急上昇する。
より一層の熱狂に包まれたのが、代わりに登場したしぐれうい(9さい)による「粛聖!! ロリ神レクイエム☆」の数分間だった。2022年5月に開催された初のリアルイベント『うい・おん・すてーじ -雨上がりの文化祭-』でも本楽曲は披露されたが、当時はコロナ禍で声出しNGの状況。「粛聖!! ロリ神レクイエム☆」もスマッシュヒットする前だったこともあって、確実に神化を遂げた本楽曲で生の「ういビーム」が放たれたときの凄まじいリアクションに衝撃を受けた。「あぁぁあぁぁぁ~~~」と咆哮をあげる人たち。それはニコニコ黎明期のライブにタイムスリップした感覚があった。続く「神っぽいな」で、王座に鎮座する可愛いしぐれうい(9さい)の姿とダークな楽曲の世界観とのギャップも脳裏に焼き付いた。
赤い傘を差しながらしっとりとした雨音を思わせるサウンドと、切ない歌声が交わる、哀愁漂う「rainy lady」、大空スバルのオリジナル曲「太陽少女」の鮮やかなコントラストが、美しい空模様を描いたブロックは、しぐれういの表現の幅広さを示しているように思えた。「rainy lady」に加え、「Pris-Magic!」も1stフルアルバム『まだ雨はやまない』のオリジナル曲。2ndアルバムの収録曲だけに留まらない、余白を残したセットリストと言っていいだろう。
感情を力強くぶつけた「限りなく灰色へ」は、VTuberしぐれういだけがしぐれういのすべてではないと、彼女のアーティストとしての本質を深く気づかされるものだった。活動の大半がユーモラスな表現で彩られていても、彼女の言葉やイラストに映る表現者としての視点は、規格外のエネルギーに満ちていると思う。そこがまた隠れたストロングポイントといえるかもしれない。2ndアルバム『fiction』の最後を締めくくる「勝手に生きましょ」の後半、鏡を用いてもう一人の自分と掛け合う演出は、イラストレーターのしぐれういとVTuberのしぐれういの関係性を映し出す、5周年プロジェクトの核心だった。
「私は結構、何でもできる(笑)と言われますけれども、それは、私が自分を俯瞰できるから。できないことをやってないだけなの。だから完璧で推し甲斐がないかもしれないですけれども。これからも応援しなきゃと思われるような存在ではなく、お菓子のようにみんなの日常をちょっとだけ楽しくするようなポジションになりたいと思っています」
「ODDS&ENDS」「花ざかりWeekend△」から新衣装姿でアンコール。「これで5周年施策すべてが終わります」と「愛言葉IV」で愛を放つ。自分を見てほしい、認めてほしいという押し付けがましい感情はそこにはない。あくまで、自分が楽しいと思ったことを共有し、ともに喜びたい、そんな純粋な気持ち。自分を客観視できる能力が周囲を惹きつける魅力になっている。そんな最強な人物はそう簡単に見つかるものではない。
「私自身が楽しいことが好きだからさ、みんなが何も言わなくても勝手に楽しいことしてるから。気が向いたら乗ってくれるとうれしいよ」
2025年に音声創作ソフトウェア「VoiSona」からしぐれういの声をもとに制作したバーチャルシンガー「VoiSona 雨衣(うい)」がリリースされるというサプライズも発表され、ボカロとVTuberシーンを繋ぐ新たな起爆剤になる予感がしたラストシーン。エンディングムービーにはオープニングムービー同様、ロビーにある絵画の展示が映し出される。そして、中央のあの誰もいない教室へ、今度は新衣装を身にまとったしぐれういがこの日の思い出を胸いっぱいに抱え戻っていく。──ライブ後、ロビーに戻ると、同じ絵画には新衣装のしぐれういが顔を出し登場していた。タイトルは”masterpiece”。5周年プロジェクトの最後、必要となったのは、大切な生のレスポンス。それが、この傑作を生み出すのに必要な最後のピースだった。カラフルな色で塗り上げ、ひとつの作品が完成。夜空には、しぐれういの作品への揺るがない思い入れが煌々と光っていた。
Text by 小町碧音
◎公演情報
【SHIGURE UI 5th Anniversary Live “masterpiece”】
2024年10月2日(水)
神奈川・パシフィコ横浜 国立大ホール
<セットリスト>
01. ハッピーヒプノシブム
02. トウキョウ・シャンディ・ランデヴ
03. うい麦畑でつかまえて
04. INTERNET OVERDOSE
05. 粛聖!! ロリ神レクイエム☆
06. 神っぽいな
07. rainy lady
08. 太陽少女
09. Pris-Magic!
10. 限りなく灰色へ
11. 1000年生きてる
12. 勝手に生きましょ
En
13. ODDS&ENDS
14. 花ざかりWeekend△
15. 愛言葉IV
※「花ざかりWeekend△」の「△」は正しくは花の絵文字
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