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Adoが、2024年4月27日、28日に【Ado SPECIAL LIVE 2024「心臓」】を国立競技場で開催した。
Adoはアジア、ヨーロッパ、アメリカを回る初のワールドツアー【Wish】を4月に終えたばかり。その勢いのままに、本公演が開催された。2019年11月に改修が完了した国立競技場でライブを開催するのは、女性ソロアーティスト初。この2日間限定のイベントは即座にソールドアウトし、14万人が歴史的な瞬間を目撃することになった。そして初日、Adoは、ひとつの誓いを立てた。
「心という名の不可解」の間奏のギターフレーズが流れ始める。音量が次第に上がるにつれて一体感を増していく手拍子。その後、スタジアムに響き渡る心音からダイナミックなオープニングムービーが期待をかき立てたその先で、<正しさとは 愚かさとはそれが何か見せつけてやる>という凄みをきかせた声を放つAdoが、バンドメンバーより一段高いステージ上のボックス檻の中に登場した。怒涛の勢いで興奮の波が押し寄せた1曲目はメジャーデビュー曲「うっせぇわ」だ。ヘヴィメタルチックな重厚なサウンドと、パワフルなシャウトが渾然一体となり、原曲を遥かに超えた新たな楽曲が誕生。それは確実に、Adoにしか生み出せない音世界だった。言葉の意味を理解する以前に、心に届くものがあればそれで十分。そう感じさせたのが、「Tot Musica」。中央の巨大スクリーンに流れるスモークの動きを体現する荘厳な歌声は、その印象深さでひとつの作品として猛毒のように空間を支配していく。がなり声は多用されながらも、一切の粗野さを排除しつつ絶妙なラインで攻め、常に美的センスを維持していた。
2曲のエネルギーに満ちたスタイルと異なり、成熟したムードを演出したのは、仰向けの姿勢で、片足を高く上げポーズを決めた「ラッキー・ブルート」、寝そべりながらも妖艶かつ活発にダンスを披露した「ドメスティックでバイオレンス」。なかでも「愛して愛して愛して」は、Adoが自然体で放つ表現力の極致が輝いていた。楽曲の主人公に憑依したかのように、一切の抑制を捨て、悲劇をふんだんに表現してみせるAdo。鋭利な刃物に似た鋭い歌声から、美しい歌声へとシームレスに変化するたびに、鳥肌が立ち、息を呑んだ。曲のクライマックスの<幸せなの 嗚呼>というフレーズで叫ぶ声が原曲のミュージック・ビデオの世界観を忠実に反映した映像上の激しい点滅と重なった瞬間、上がった感嘆の声。あの光景は忘れられない。
歌唱中にボックス檻が空中へと上昇した「過学習」、リズムに乗った手拍子を支えに巧みなボーカリゼーションが光った「マザーランド」、タップダンスを彷彿とさせるステップがリズムを描いた「ギラギラ」。ボックス檻が本来の位置に戻るとアレンジされた「永遠のあくる日」が次に続いた。Adoの歌声に秘められているのは、純真無垢な乙女心であり、それはまるで舞踏会で王子と踊るプリンセス。その後、全員が同じ夜空を見上げ、幼き日の記憶に思いを馳せるひとときが待っていた。それが、このバラードを締めくくる、予想を超える長さの壮大なアウトロだった。国立競技場の開放的な空間を舞台に繰り広げられた、ドローンによる心臓、心電図の波形、そしてAdoのシンボルである青い薔薇といった光の演出と花火が、歓喜を誘った。
ボリューミーなドレスから多幸感が溢れるほどの「私は最強」のパフォーマンスを通じて、楽曲に託された思いの細部まで忠実に再現するAdoの理解度と表現力の深さを思い知る。シンガロングが起こった「レディメイド」「クラクラ」に続いたビターな味わいの「ショコラカタブラ」では、乱れと躍動が交錯し、伸びやかな声を「Value」「Hello Signals」で聴かせるなど、次に繰り出される曲が楽しみで仕方がない。魂の叫びといえる歌声はもちろんのこと、生き生きとしたダンスの一挙手一投足にも表れたAdoのヒューマニティや豊かな表現力に物凄く引き込まれる瞬間が多々あった。時に力強く、時に乙女心を抱き、優雅なステップを踏む。
ボックス檻から解き放たれると、「いばら」を経て、「唱」「踊」でこの日一番の熱狂を巻き起こした。ステージを一段降り、ステージの端から端までを闊歩する。何度も上がる特効の炎、起こる手拍子、フレキシブルな歌声。ーーここまでのAdoのバイタリティに感無量だ。
AdoはMCで、初めてのワールドツアー【Wish】を振り返り、その経験が今回のパフォーマンスにも生かせていたこと、また、より日本が大好きになったと語った。
「世界の多くの人々にこの国の素晴らしさ、この国の文化を知ってもらうべきではないのかと強く思ったのです。私はより世界を目指し、世界中の人々にこの国がどれだけ素晴らしいのかを知っていただくきっかけの1つになりたいと思っています」「その想いが叶った最後には、歌でも歌でない形でも、この国のみなさんを幸せに導こうと誓いました」
今回のライブタイトル「心臓」は、怒り、苦しみ、抗い、刹那、悲しみ、喜び、思い出という人間が抱く全ての感情を表現すると同時に、Adoが歌い手になったきっかけのボカロと歌い手文化を象徴していることを述べた。「次が最後の曲となります。みなさん、まだまだいけますか? 足りなーい!!! まだまだいけますか??」そう言い、銀テープが舞った「新時代」では、<さあ行くよ NewWorld><夢を見せるよ>という歌詞が素晴らしい未来への招待状として響き渡った。
この日、スペシャルゲスト3人がライブを彩った。オープニングDJとして「唱」「踊」を手がけたTeddyLoidがAdo楽曲のリミックスを披露。アンコールの「DIGNITY」では、ステージに出現した巨大な青い薔薇のバルーンの中にいるAdoと同曲の作曲を手がけたB’zの松本孝弘が共演。「行方知れず」から鳥籠トロッコに乗ってアリーナ外周を回り、「逆光」「FREEDOM」で客席に稲妻を走らせたAdoは、ここでステージに戻った。
「ボカロも歌い手も私の心臓なんです。この2つの素晴らしい文化がより世界に行ってほしいと願っているのです。そしてあわよくばその2つの懸け橋になりたいと私は思っています。その瞬間を今から作ります」
エレガントな印象のフレアパンツスタイルに衣装チェンジしたAdoの隣には、最後のゲストとして初音ミクが現れた。2人は、まふまふが書き下ろした初披露楽曲「桜日和とタイムマシン」をシンメトリーなダンスを展開する中で一途に歌い上げていく。過去を思い出しながら歌うかのようなAdoの涙声が混じった歌声には、本物の温かさがあった。
Adoは自身の過去を振り返り始めた。もともと自分自身が大嫌いだったこと、人を頼ることが苦手で、SNS上にしか居場所がなかったこと。頭も良くない、取り柄もない、暗い性格なのに、誰よりも認められたいという欲があったこと。そんな葛藤の中で、大好きな音楽と歌声に救われ、歌い続ける道を選んだこと……。
「未来は誰にもわからない。だからこそ私は大丈夫かもしれないと強く思えたのです。私の愛するボカロと歌い手文化が私の未来を信じさせてくれました。私は今この瞬間、その臨んだ未来に立っています」「彼女(ミク)と歌ったあの曲(「桜日和とタイムマシン」)が、今宵のライブが、ボカロと歌い手文化への恩返しや未来につながるきっかけになれば、とても嬉しいです。どうか、私の愛する文化のことは忘れないでいただきたいです」
ラストは、Adoにとって特別な意味を持つ楽曲「心という名の不可解」を熱唱。<感情の判断はどうしたらいい?>という歌詞が生々しさを帯びて、Adoへのエールが急加速する。深々とお辞儀をし、ステージを降りると、彼女の誕生を祝福するかの如く、絢爛豪華な花火が夜空を彩った。Adoが去った後も、しばらくの間その魔法は解けなかった。
Adoの過去、現在、未来の全てが凝縮されていた一夜。なによりも心を惹きつけられたのは、その真摯で謙虚な人柄に他ならない。この日のパフォーマンスにも見られたように、初心に立ち返ることを忘れずに、常に深化し続ける姿勢が、その理由かもしれない。7月10日には2ndアルバム『残夢』のリリース、14日から初の全国アリーナツアー【Ado JAPAN TOUR 2024『モナ・リザの横顔』】の開催を控えているAdoからは絶え間ない熱を感じる。「ボカロと歌い手文化を通じて、世界に日本の素晴らしさを伝えたい」と、今では世界規模にまで膨らんだその欲。まさにAdoは、令和の新時代を築くポップアイコンだった。
Text by 小町碧音
Photo by Viola Kam (V’z Twinkle)/石井亜希/木村泰之/VERMILLION
◎公演情報
【Ado SPECIAL LIVE 2024「心臓」】
2024年4月27日(土)
東京・国立競技場
<セットリスト>
01. うっせぇわ
02. Tot Musica
03. ラッキー・ブルート
04. ドメスティックでバイオレンス
05. 愛して愛して愛して
06. 過学習
07. マザーランド
08. ギラギラ
09. 永遠のあくる日
10. 私は最強
11. レディメイド
12. クラクラ
13. ショコラカタブラ
14. Value
15. Hello Signals
16. いばら
17. 唱
18. 踊
19. 新時代
アンコール
20. DIGNITY
21. 行方知れず
22. 逆光
23. FREEDOM
24. 桜日和とタイムマシン
25. 心という名の不可解
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