エンターテインメント・ウェブマガジン
By: Kristin Robinson / 2024年1月11日 Billboard.com掲載
Laufey photographed by Tony Luong on October 29, 2023 at The Wilbur in Boston.
「レイヴェイはジャズか?」これは、多くの時間をこのジャンルについての議論に費やしているRedditのr/Jazzスレッドの素人音楽学者たちの間で最近話題になったトピックだ。そしてこれはYouTuberでミュージシャンのアダム・ニーリーによる33分間の深掘り動画のタイトルでもあり、彼も、24歳のチェリストでシンガー・ソングライターであるレイヴェイのハーモニーとコードの選択を細かく理論的に分析し、この疑問に答えようとしている。
レイヴェイが作る音楽がジャズなのか、それともそれ以外のものなのかをきれいに分類しようとすると、彼女のやっていることの本質を見誤る。レイヴェイは、ii-V-Iのジャズ・コード、クラシック音楽のモチーフ、ビバップのアドリブといった昔ながらの構成要素に、テイラー・スウィフトのようなストーリーテリングをひとつまみ以上加え、モダンで驚くほど有利な音楽世界を構築しているのだ。
しかし、レイヴェイのより広い美的世界、彼女が言うところの“レイヴェイ・ランド”には驚くほど多くのZ世代のファンが集まっている。伝統的なジャズは難解に感じられるかもしれないが、彼女はSNSでフォロワーをレイヴェイ・ランドに招待することで、ジャズを身近なものにしている。そこでの最高の1日の過ごし方はカフェラテを飲みながらジョーン・ディディオンを読み、SANDY LIANGの最新スタイルを身につけ、そしてチェット・ベイカーを聴きながらチェロを弾くことが最高にクールで格好いいことなのだ。「すべて私の人生と音楽を象徴しているようなもの」と言う彼女は、その両方を惜しみなくネットで共有している。
インスタグラムで彼女の公式ファン・アカウントの名前にもなっているレイヴェイ・ランドは、音楽業界の想像力もかきたてている。情報筋によれば、彼女は昨年、ジャズに隣接するアクトにそれほど商業的な可能性を見出したことのないレコード会社の間で、数百万ドルの入札合戦を巻き起こしたという(彼女は作品の所有権を保持できるAWALとグローバル・レーベル契約を結んだ)。おそらく彼女の音楽が、幻想的でありながら手の届きそうな、切なくロマンチックな青春の肖像を描いているからだろう。そして、彼女自身が影響を受けた高尚な音楽(ショパン、リスト、ベイカー、エラ・フィッツジェラルド、ビリー・ホリデイ)をよく知らなくても、まるでレイヴェイと一緒に座り、耳を傾け、音楽がジャズ的であることは確かだが、それ以上のものでもある不思議な場所に誘われ、迷い込んだような気になる。
アイスランドとワシントンD.C.地区で育ったレイヴェイ・リン・ヨンスドッティルは、クラシック音楽家に囲まれて育った。中国人の母はヴァイオリニストで、祖父母はヴァイオリンとピアノの教授だった。そんな彼女にジャズを教えたのはアイスランド人の父親だった。彼女は、「家の中には音楽があふれていました。その二つの音のブレンドでした」と振り返る。
レイヴェイと、現在彼女のクリエイティブ・ディレクターを務め、彼女のTikTokに頻繁にゲスト出演している一卵性双生児の姉妹であるジュニアは、幼い頃から楽器を始めた。やがてジュニアはヴァイオリン、レイヴェイはチェロを弾くようになった(ピアノとギターも弾ける)。レイヴェイは大学に入るまで自分のことを音楽の作り手としてよりも、演奏家、実践家として見ていた。だが米ボストンのバークリー音楽大学で、彼女は新しい友人の多くが自分で曲を書いていることに気づいた。
レイヴェイはいつもポップ・ミュージックも聴いていたと言い、特にテイラー・スウィフトの初期の楽曲のおとぎ話のような物語が好きだったそうだが、「歌詞やストーリーテリングには共鳴することが多かったですが、(ポップ・ミュージックの)サウンド面では違いを感じていました。自分に作れるものだとは思えませんでしたし、もっと自分らしいサウンドを作りたかったんです」と語る。自称“温室育ちのオーケストラ・キッド”だったという彼女は、歌詞で語るほどの人生経験もまだあまりなかった。
レイヴェイは、それまでの多くのアーティストと同じように、失恋したときにようやくソングライティングの世界に足を踏み入れたと言う。すでに学習に多くの時間を費やしていたグレート・アメリカン・ソングブックに密接に関係するコードを借り、彼女はのちに自身の1stシングルとなる「Street by Street」を生み出した。20歳の時だった。「私が書きたかった方法は、とても古いものととても新しいものの中間を見つけることでした。『わあ、できるじゃん。ジョージ・ガーシュウィンやアーヴィング・バーリンのような、より古いスタイルで新しいものを書けるんだ』って思ったことを覚えています」と彼女は話している。
新型コロナウイルスが発生し、全員がロックダウンを余儀なくされた時、学校は閉鎖され、レイヴェイは声の調子を保つためにジャズ・スタンダードのカバーをネットに投稿し始めた。彼女の滑らかなアルトは、チェロのアレンジかアコースティック・ギターを伴っていた。「学校から戻って隔離生活を始めた日、私は『よし、できるだけたくさんジャズのスタンダード曲を書いて、歌っている動画をネットにアップしよう。それがどこまで連れて行ってくれるか見てみよう』と自分に言い聞かせました」と彼女は振り返る。「It Could Happen to You」を歌った初期の動画が、彼女いわく“ある種のアルゴリズムにヒット”し、瞬く間に支持者を増やし、多くのレコード会社から興味を持たれるようになった。彼女はレーベル・パートナーとして自分の音楽をコントロールできるAWALと契約することを決めた。
それからEP 1枚、スタジオ・アルバム2枚、アイスランド交響楽団とのライブ・アルバム1枚をリリースしてきた彼女は今、Spotifyの月間リスナー数2,400万人、インスタグラムとTikTokのフォロワー数(それぞれ220万人、360万人)などの指標によれば、ジャズまたはジャズに隣接した音楽を作るアーティストとしておそらく最も人気があると言えるだろう(数字は2024年1月時点)。彼女がブレイクしたシングルであるボサノヴァ風の「From the Start」は、ルミネートによると、全世界でのオンデマンド公式ストリーミングが3億1,310万回を記録する大ヒットとなっている。そして今やレイヴェイは【グラミー賞】受賞アーティストだ。2023年9月にリリースされた彼女の2ndアルバム『Bewitched』は、【グラミー賞】で<最優秀トラディショナル・ポップ・ヴォーカル・アルバム賞>を受賞した。様々な要素を含むこのカテゴリーでは、ベテランのブルース・スプリングスティーンやリズ・キャラウェイ、故スティーヴン・ソンドハイムらと並んで、彼女が新たな才能を発揮している。ノミネートされた際にレイヴェイは、「とても、とても認められた気分です、私が選ばれたカテゴリー的にもなおさら」と述べている。
【グラミー賞】では、そして彼女が“ジャズ”に分類されている米ビルボード・チャートでは、レイヴェイがどのジャンルに当てはまるのかという議論はまだ重要かもしれないが、かつてに比べれば音楽を分類する必要性ははるかに減っており、レイヴェイのような異質な音の世界の架け橋となるアーティストにとってはメリットとなっている。彼女のマネージャーであり、ファウンデーションズ・アーティスト・マネジメントの共同経営者であるマックス・グレディンガーは、「物事をジャンルに分類したいという人々の欲求はラジオに根ざしていたように思います。そこで成功するための一定のフォーマットに当てはまろうとしていたので。それが私たちに染み付いているんだと思いますが、地上波ラジオの影響力が確実に弱まった今、人々はまだこの新しい世界に頭を悩ませているのだと思います」と話している。
レイヴェイがオーディエンスを獲得し始めた頃、TikTokが音楽発掘の主権を握り始めていた。そこは個性とキャッチーさは重要だがジャンルは関係ない場所であり、レイヴェイのようなアーティストにとっては、ジャズを取り入れたポップを単なるサウンドとしてではなく、時代を超越し、かつ今を生きる美学、フィーリング、ライフスタイルとして定義できる完璧なプラットフォームだった。
グレディンガーは、レイヴェイとその姉妹を現代版“マーケティング担当重役”のイメージと言い、「この仕事は彼女たちが一番うまくできると何回でも賭けます」と太鼓判を押す。レイヴェイは、音楽や日常を切り取った動画以外にも、他の方法でファンを自身のプロセスに招待している。リリース前に自曲の楽譜を投稿し、参考資料を聞かずに曲を覚えてその結果を投稿するように大勢いるミュージシャンのファンにお願いし、リリース日に向けてそれらを再投稿した。
彼女はまた、ブッククラブを主催しており、ダークでアカデミックな作品からコケティッシュでフェミニンな雰囲気の中間にあるような、自身の音楽と個人的なスタイルに似たものをセレクトしている(ドナ・タートの『シークレット・ヒストリー』、スザンナ・ケイセンの『思春期病棟の少女たち』(※映画『17歳のカルテ』の原作)など)。『Bewitched』の発売日に彼女は“A Very Laufey Day”(とてもレイヴェイな日)を主催した。これは米ロサンゼルスを巡る一種の借り物競走のようなイベントで、特別メニューのレイヴェイ・ラテ、地元ショップでのブッククラブ選書の展示、メルローズ・トレーディング・ポストでのグッズのポップアップなど、彼女が1日をかけてやりたい好きなことをすべて体験できるコースだった。最後にはウェスト・ハリウッドのパン・パシフィック・パークでのシークレット・パフォーマンスで参加者をもてなした。
レイヴェイは笑いながら、「私にとっては普通の土曜日でした」と言い、「イベントをしていなかったとしても、それら全部をやって一日を過ごしたでしょうね。(当日は)ウェスト・ハリウッドをドライブしていて、白いシャツにジーンズ、バレエシューズを履いた女の子たちがラテを持っているのを見かけたので、車の窓を開けて『へイ!』って声をかけたら驚かせちゃいました」と語った。彼女のファンは、超オンライン派のティーンエイジャーから、オタク気質な音楽専攻の学生、懐古趣味の祖父母世代までと幅広いが、中心層はZ世代で、その多くは彼女以外にはジャズやクラシック音楽を聴かない。
レイヴェイは若い頃、現在のようなメインストリームでの人気は予想していなかったという。「どちらかというと、音楽院に進み、チェロを練習して、母がそうだったように最高のオーケストラに入ろうとするだろうと思っていました。現実的でいることに集中するあまり、大きな夢を見ることを危うく自分に許さないところだったんです」と彼女は話している。
彼女は、パンデミックによるロックダウンが緩和されたあとの最初のライブのひとつ、米ニューヨークのロックウッド・ミュージック・ホールでのことを覚えているという。外に入場待ちのファンの列があると聞いたのだ。彼女は「本当に混乱しました。私は主にシンフォニーのコンサートに通って育ったのですが、あんなに人が並ぶことはなく、普通に入れるんです。なので、私は『そんな。入れてあげて! 何が起きているの?』って感じで」と振り返る。その時に初めて彼女は、自分のファンがスクリーン上の数字だけではないことに気づいた。ファンは実際に彼女のために集まり、歌詞をすべて覚え、衝撃的なほど若かった。
ノラ・ジョーンズはレイヴェイにとってヒーローであり、彼女のようにジャズとポップの橋渡しをする数少ない現代アーティストの一人だ。そんなノラは、自身とレイヴェイの間に“多くの共通点”を見出している。「私たちは二人とも、ジャズに染まった背景を持ち、そこから独自の道を歩んできました。(ですが)SNSとストリーミングが音楽業界を大きく変えたため、彼女の歩みも私とは大きく異なっています」と語る。二人は最近、ホリデー・ソング集『クリスマス・ウィズ・ユー』でコラボした。
<ブルーノート・レコード/キャピトル・レコード>と長年の関係を持つノラとは異なり、レイヴェイは従来のようなレーベル契約を結ばず、自身とグレディンガー、そしてAWALの間だけでビジネスを続けている。まさに時代を象徴した方針だ。
レイヴェイは、「私は、自分の作るような音楽のために非常に独特な選択をしています。自分の音楽にとても自信を持っています。自分が何を求めているのかわかっていますし、AWALの今のチームは私にそのクリエイティブな決断をさせてくれます。独立した立場でいることで素晴らしい時間を過ごすことができているので、何かが欠けていると感じたことはありません。自主性がある決断を下すことが私の主な焦点なのです」と話している。
将来、レイヴェイ・ランドの国境はさらに広がるだろう。彼女はいつか、ハリー・コニックJr.やジョン・バティステ、サラ・バレリスがそうしたように、ミュージカルや映画のサウンドトラックで自身の壮大なラブソングが流れることを思い描いている。究極の夢は、ジェームズ・ボンドのテーマ曲だ。彼女は、「私は自分の欲を繰り返し言い続けます。そうすれば、もしかしたら現実になるかもしれませんから」と微笑みながら言う。
ジャズとポップ・ミュージックの間を行き来することがどのようなものか知っているバティステは、彼女が正しい道を歩んでいると考えている。彼は、「レイヴェイは(音楽キャリアの)様々な側面すべてにおいて、優れた能力、熟練の技能、自分のコミュニティとどうつながるかという洞察力を持って取り組んでいます。そのおかげで、より多くの好奇心旺盛なリスナーを魅了し続けるでしょう」と述べている。
レイヴェイは、「ジャズを聴き始めるには、多くの障壁があると思います。ひるんでしまいがちですよね。私は幸運にもその世界に生まれましたが、それがどれだけ怖く感じられるかも承知しています。年配の方たちや教養のある人たちだけのもののように思えてしまいます。それは悲しいことだと思うんですよ、だってジャズもクラシックも、かつては大衆音楽だったんですから。誰もが楽しめる音楽でした。私がジャズとクラシックを自分の音楽に融合させたいと思う理由のひとつはそこにあります。もっとわかりやすいスペースを作りたいんです」と説明している。
彼女は、ドミ&JD・ベックやサマラ・ジョイのような、今日このジャンルを積極的に進化させている若きジャズ・アーティストたちを尊敬している。「ジャズはどこにも行っていません。むしろ実際にはもっと音楽に入り込んでいると思います」と、ヒップホップ、R&B、ポップ・ミュージックへの影響を指摘する。「ポップソングがヒットチャートを賑わして、みんなが『(この曲は)すごくいい』と言っているのを聞くと、『それは引き込まれるようなあのジャズのハーモニーのおかげだよ』と内心では思っています」と彼女は話している。
彼女自身のサウンドは、主に1940年代と50年代の偉大なジャズ・ミュージシャンたちから拝借しており、それも彼女の楽曲がこれほどまでに支持される理由の一つかもしれない。米ビルボード・チャートでは、古いヒット曲のサンプルや挿入をフィーチャーした楽曲が上昇を続けているが、パンデミックの影響でノスタルジーを感じさせる楽曲への関心が高まったのではと専門家は推測している。
レイヴェイの作品は、たとえばジャック・ハーロウの「First Class」とはまったく異なるサウンドだが、親しみやすさや心地よさを求める原始的な欲求がその魅力の根底にあることは同じだ。グレディンガーは、「彼女が取り上げるサウンドの多くに、すべての人との何らかのつながりがあると思うんです。ジャズやクラシックに何らかの記憶や関係がない人を見つけるのは難しいでしょう。ほとんどの人が基礎的な経験を持っていて、そこに現代的で正直なソングライティングが組み合わされているのです」と話している。
そして、レイヴェイ自身の素晴らしい新世界の土台を作るのは、それらの要素の組み合わせなのだ。そこでは真実の愛が可能で、毎日が理想化され、メジャーセブンスが不可欠であり、あらゆるリスナーが歓迎される。
◎リリース情報
アルバム『ビーウィッチド:ザ・ゴッデス・エディション』(国内盤)
2024/7/3 RELEASE
◎公演情報
【SUMMER SONIC 2024】
2024年8月17日(土)・18日(日)
東京会場:千葉・ZOZO マリンスタジアム&幕張メッセ
大阪会場:大阪・万博記念公園
※レイヴェイは17日(東京)、18日(大阪)に出演
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