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演奏とは、誰がどのように演奏するかだけでなく、いつ、どこで演奏されるかによっても力を得ることがある。現地時間2024年5月1日にジョージアの歴史的なツィナンダリ・エステートで開催されたベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の【2024 ヨーロッパ・コンサート】もそうだった。
ジョージアの人々が首都トビリシの街頭で、ロシアを利する、あるいは少なくともその非自由主義的な道をたどることになると多くの人が信じている方法でNGOや外国のメディア企業を規制する法律に反対する抗議デモを行う中、欧州で最も熟達したオーケストラの一つが、欧州の中心にこの国を文化的に固定するかのように、シューベルト、ブラームス、そしてベートーヴェンの曲を堂々と演奏した。
ツィナンダリ・エステートでのコンサートは、晴れた日の昼下がり、鳥のさえずりをバックに屋外で行われた極めて美しい公演だった。指揮者のダニエル・ハーディングがダニエル・バレンボイムの代役を務めた。ジョージア出身で、現在はベルリン・フィルのアーティスト・イン・レジデンスである著名なヴァイオリニスト、リサ・バティアシュヴィリは、ブラームスのヴァイオリン協奏曲ニ長調のソロを力強く、絶妙な繊細さで演奏した。
翌日の夜にオーケストラが、抗議デモが行われた場所からもそう遠くないTbilisi Opera and Ballet State Theater(トビリシ国立オペラ・バレエ劇場)で同じ公演を行った際には大きな拍手が起こり、欧州連合(EU)の旗が何枚か広げられた。それが象徴するもの、ナショナリズムではなくもっと寛大な何かをという意味を見逃すことはできなかった。政治が音楽に影を落とすことはなく、それ自体がパワフルだったが、ジョージアの聴衆にとってこの音楽が、そして欧州的理念がどれほど重要なものであるかは明らかだった。コンサートとは時に、別の手段による政策の継続だ。
ジョージアは、常に地理的に、そして現在は政治的にも欧州とアジアの交差点に位置している。東方正教会が主流で、独立前はソビエト連邦の一部だったこの国は、文化的には常に西側を向いてきた。ジョージアは12月、現政権のもとで正式にEU加盟候補国の地位を獲得した。これは国民の大多数が賛成しているとみられ、この国を西側諸国にしっかりと位置づけることになる。そして、【ヨーロッパ・コンサート】とこの法律案に関する議論が重なったのは単なる偶然だが、この国にとっては国際的な楽観主義か、より狭いナショナリズムかという二つの可能性があることを示唆しているようだった。
政府から貸出され、ジョージアの企業であるシルクロード・グループによって改修されたツィナンダリ・エステートには、特に欧州文化の歴史がある。ソ連時代に荒廃したこの地所は、ジョージア貴族だったアレクサンドル・チャヴチャヴァゼ王子が、1800年代にジョージアに欧州スタイルのワイン、幾何学的配置庭園、そしてクラシック音楽をもたらすために利用したことで知られている。シルクロード社は、歴史的保存を視野に入れながらこの地所のかつての輝きを取り戻し、現在ではそこで二つのホテルを運営しているほか、近隣のブドウ園の経営や、コーカサス地方の若手演奏家を集めた秋のクラシック音楽祭も開催している。これもまた、非常に楽観的な話だ。
シルクロード・グループの創設者であり会長であるジョージ・ラミシュヴィリは、「私たちは、“どうしたらこの地所に命を吹き込むことができるだろう”と考えました。そして、歴史に結びついているのでクラシック音楽を選んだのです」と話す。
数年前にラミシュヴィリはバティアシュヴィリを通じてベルリン・フィルとつながり、毎年開催される【ヨーロッパ・コンサート】をジョージアに招聘する話し合いを始めた。「それは完璧な音楽であると同時に、平和へのメッセージでもあリます。私たちは二人とも統一された欧州を目指しています。欧州はジョージアであり、ジョージアは欧州なのです」と彼は語っている。
今回のコンサートのすべてが、その思いを強調していた。両公演とも、観客の多くは中流階級のジョージア人であり、多くが若年層だったデモ参加者に比べ、おそらく数歳年上で少し恵まれているように見えた。しかし、彼らはともに、紛争を脇に置いた欧州とのさらなる関わりを求めている。EUには問題が山積しているが、ロシアから出てくるものよりも説得力のある未来像を示している。
だがこのようなことがコンサートに影を落とすことはなかった。毎年EU加盟国で開催される【ヨーロッパ・コンサート】は、その開催地や、欧州の文化の中心となったベルリンの役割など、さまざまな理由から象徴的なものだ。しかし、政治的なことを理解していなかったり、単に忘れたかったりする人でも、そのような背景がなくてもこのコンサートに同じような説得力を感じただろう。ツィナンダリでは、円形劇場の石壁が音を拡大するかのようで、鳥のさえずりがシューベルトの「魔法のハープ」の静かな部分を突き抜けていった。特にトビリシ国立オペラ・バレエ劇場では、ハーディングがオーケストラの力を引き出し、バティアシュヴィリはブラームスのヴァイオリン協奏曲ニ長調に豊かな音色をもたらしていた。
音楽外交は、米国務省が故ルイ・アームストロングを代表とする“ジャズ大使”の世界ツアーを手配した、少なくとも1950年代以来の伝統だ。音楽家が国際的な意見の相違を解決することはめったにないし、それが彼らの仕事でもない。だがこのようなショーは、各国が互いに何を提供し合えるかを示す形で、国同士の距離を縮めてくれる。この二つのコンサートは、欧州的理念の価値とその拡大の可能性の両方を力強く訴えた。
Text: Robert Levine / Photo: Stephan Rabold
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