vistlip、リード曲とカップリング曲をそれぞれフィーチャーした【Sunny Side Up】の公式レポート到着

2024年4月11日 / 19:00

 vistlipがリード曲とカップリング曲をそれぞれフィーチャーした【Sunny Side Up】の東京公演が4月8日、9日に開催され、その公式レポートが到着した。

 「それぞれに想い出があるから、みんなの中にも込められた想いがあるかなと思って企画しました」

 vistlipが企画した【Sunny Side Up】と名付けられた東京・大阪それぞれ2デイズからなるライヴは、各日Side:A / Side:Bとなっており、Side:Aは作品のリード曲のみ、Side:Bはカップリング曲のみで構成されたライヴとなる。つまり各側面にスポットを当てたものという、まさに連想するのはタイトルそのままに“片面焼きの目玉焼き”というわけだ。

 はじめに。ここから4月8日、9日に行われた東京公演の模様をお伝えしていくにあたり、4月20日、21日に大阪公演を残しているところで具体的な曲名を挙げてレポートするか否かを少々迷ったが、東京公演2daysを終えて今回の「Sunny Side Up」というライヴにおいては、その様子を頭に置きながらでも充実感を得られるものであるという確信の元に書かせていただくことにした。(それでもネタバレを回避したい方に対しては申し訳ない……)

 むしろ改めてvistlipの歴史を、楽曲を材料に振り返ってみてほしい。今年17周年を迎える彼らがこれまで見てきたものや経験してきた事柄を詰め込んで、いかにハイグレードな楽曲を作り上げてきたか――まさしくそれはバンドのロードムービーであり、そこにリスナーそれぞれに想い出があるからこそ、受け取り方の答えは1つではないはずだ。

 「それぞれに想い出があるから、みんなの中にも込められた想いがあるかなと思って企画しました」――智

 メンバー視点で“あの時”を思い出す中には「ああ、あの時ミスったな(笑)」なんて笑い交じりに振り替えるエピソードもありながら、Side:A公演を智は「1つの物語みたいなセットリストにしたかった」と話していた。その意図を紐解くならば、バンドの指針となるものがその都度忠実に表れているリード曲はvistlipの軌跡を辿るファクターであり、物語というのはノンフィクションに近いバンドの歴史ともいえる。

 原点でもある「EDY」に始まり、7月7日(七夕)を結成日とする彼らならではの星座物語に準えたバンドとファンとの絆を歌うアンセム「-OZONE-」はいつだって胸を打つものがある。時を重ねる毎に感慨深くなっていくものの中には、長い活動の中で降りかかった試練を乗り越えた再会のシンボルでもある「SINDRA」や「CRACK&MARBLE CITY」だったり、ストーリーテラーに振り切ってアーティスティックな表現を追求したぬくもりたっぷりな「ORDER MADE」でも、頼りがいのある安心感が勝るのは貫禄が物を言うところ。

 懐かしい楽曲に向き合うタイミングにおいて楽しみの1つは、“今ならどう表現するか”というアップデート要素だろう。この日、目に見える形でそれを示したのは「ずっとやってなかった……」とタイトルコールから歓声が沸いた「アーティスト」だった。海の手元にセットされたアコースティックギターが軽快さと素朴さを強調させるという粋なプレイのもと、アーティストとしての在り方を「俺たちはそんなアーティストになれていますか?」と智が語りかけながらエモーショナルに届けたのである。

 「幸せになろう」と誘った「Recipe」は文字通り幸せになるためのレシピで、その方法をカウントしながら共有すればファンの表情には嬉々とした笑顔が惜しみなく溢れ出す。さらに、途中のMCではメンバーおすすめの目玉焼きの味付けが話題に。無論ラフなトークが繰り広げられたわけだが、「このタイミングで!?」というツッコミの真意は、以前のライヴ中にYuhが気持ちを入れてスタートする曲の前に必ずふざけると指摘された事態の再来によるものだった。しかし、「だから(声の)トーンを下げてるでしょ!?」と、思いがけない方向でアジャストしてきた智はもはやさすがである。

 ところどころに散りばめられるロマンチックを感じる場面や口を開けば流れだす緩い和気藹々とした空気感は、一見硬派なオーラを放つ彼らの意外性とも言える。ただし、一度楽曲に突入すれば話は別だ。どれだけラフなトークを繰り広げても、「大事にしてきた曲、ちなみにYuhの好きな曲」と紹介した「alo[n]e」では、切なるプレイを繰り広げるなど、この日に限ったことではないが、やはりvistlipが持つこのギャップはズルいと思う。

 そして、初日の時点で実感した大きな収穫は「このタイミングで取り戻してやろうと思ってました」という智の言葉の主語だと想像する、ライヴにおける熱量を思う存分感じられたことだった。椅子のある会場でありながら「深海魚の夢は所詮、」で起こったモッシュの波には智が「感動した」と告げたほどに壮観で、1st シングルと強調した「Sara」では演奏に勝る歓声が響き渡っていた。思えば冒頭でかなり挑発的にオーディエンスを焚きつける言葉を浴びせていたのも印象的で、それがライヴの終盤にしっかりと実を結ぶ結果となり、ルールに囚われずに思うがまま感情を開放する熱量が起こった……いや、戻ってきたと言った方がしっくりくる。メンバーの表情が時折ほころんでいたことが、そのかけがえのない価値を証明していたと言ってもいいだろう。

 日付は変わり迎えたSide:Bにおいては、初っ端から目を見張る熱量を帯びた幕開けとなった。途中、智は「これからもライヴらしいライヴをしていきたい」という言葉でこのシーンを称賛。フライングするが、なんとこの日のラストには観客の声がメンバーを引きずり出した予定外のアンコールが行われたほどの熱気だったのだ。

 「今日はSide:Bということでカップリングしかないんですけど――カップリングってある意味悩みというか、“こんなにいい曲がカップリングでいいのか!? ”と。でも、出来ちゃうからな~、仕方ないんですよ(笑)」――智

 “いい曲”だからこそ、タイミングを逃して鮮度を落としたくないというスタイルの元に数々のカップリング曲を生み出してきたわけだが、やはりリード曲と比較すると智曰く“かわいそう”な立場になってしまいがちでもある。しかし、今回の企画趣旨に則ってそれらの楽曲が集まったライヴを観てみると、ある意味自由度の高さからなる極端までの静と動のふり幅の広さや、純粋に曲数の多さから選択肢が広いこともあってコンポーザー全員の楽曲がラインナップされていたことからも、楽曲が持つ個性を存分に堪能することができた。

 例えば、「Mr. Grim」であればYuhのギタリスト然としたプレイやエッジと独特なフックが効いたものであり、瑠伊が一際アグレッシブなベースを奏でるような「Laser」をはじめとしたメロディアスな王道をなぞるもの。海に関してはアバンギャルドな印象とは裏腹に「chapter:ask」のようにひたすら儚く美しい叙情的な楽曲を生み出し、Tohyaに至ってはポピュラリティに特化した楽曲を天才的に生み出しながら、「Scapegoat」で見せたようにドラムでも人柄を活かしたプレイで常に躍動感を生み出す重要なポジションを担っている。さらに、冒頭を飾った「EGOIST」や、終盤に「ついにこの曲を披露する時が来たか!」満を持して(!?)披露した「Public GAME」のように、始動初期の楽曲にある荒々しさやヴィジュアル系特有ともいえるマニアックな面が表れた場面では、初々しさと同時にほのかにむず痒さも感じられた。体感的に一息に駆け抜けたスピード感の中で、改めて痛感したことがある。それは、メンバー5人が思う“カッコイイ”という感覚の領域は常にハイセンスで、だからこそvistlipの曲には唯一無二の色と空気感があるということ。それを一際強く印象づけたのは、「the Surface」のヘヴィーかつサイファーな「これぞvistlip」と言える部分で、驚くべきはこれは原曲が彼らの1作目にはすでに存在していたことだ。

 「見つけてもらわないと、一生日の目を見ないのかな?と思っていたりしていて」と智が話していた通り、ある意味カップリング曲はリード曲の裏に隠れた名曲たちとも言える。中には今やライヴには欠かせない楽曲もあり、実際にこの日もメンバー同士が顔を見合わせるたびに顔を覗かせた「LIFE」や、白熱する場面では欠かせない「HEART ch.」もそのうちの1つである。こうして、ライヴの本編が終わる頃には隠れた名曲たちによって白熱ゆえの充実感が満ちていた。

 今回のような企画のライヴでは懐かしさをフィーチャーしがちではあるが、やはり強調すべきは初日のラストに披露した「Invisible」で見せた最新の姿である。東京公演のSide:A / Side:Bを通して全40曲とアンコール1曲はあくまでもvistlipの楽曲の一部に過ぎないが、ここにはたくさんの感情がある。それがプラスでもマイナスでも、それによって流れる涙の色は透明だからやるせない。でも、そこに色を見出すのはその人それぞれでいい。多彩な楽曲の中に繊細な気持ちを紡いでいく智は、昔も、限りなく今に近い感性の元で綴った「DIGEST -Independent Blue Film-」や「Invisible」でも変わっていない。現在、これまでにない程ハイペースな活動を見せている彼らだが、これからも自らの音楽に個性を発揮し、際限なく追求していくバンドであってほしい。きっとそれが、今までもこれからも皆が愛するvistlipであるはずだから。そんなことを感じた、2日間だった。

Text:平井綾子
Photos:@Lestat_cm_pro Lestat C&M Project

【[Sunny Side Up]Side:A】
2024年4月8日(月)東京・SHIBUYA PLEASURE PLEASURE
<セットリスト>

1.EDY
2.Timer
3.SINDRA
4.THEATER OF ENVY
5.アーティスト
6.CRACK&MARBLE CITY
7.Recipe
8.alo[n]e
9.ORDER MADE
10.B
11.-OZONE-
12.DANCE IN THE DARK
13.深海魚の夢は所詮、
14.EVE
15.MONOGRAM
16.DIGEST -Independent Blue Film-
17.Sara
18.GLOSTER IMAGE
19.Hameln
20.Invisible

【[Sunny Side Up]Side:B】
2024年4月9日(火)東京・SHIBUYA PLEASURE PLEASURE
<セットリスト>

1.EGOIST
2.Which-Hunt
3.想い出CG
4.Mr. Grim
5.DIRECTOR’S CUT
6.Scapegoat
7.the surface
8.墜落
9.chapter:ask
10.Locoism
11.Legacy
12.PERFECT CRIME
13.Laser
14.LIFE
15.NEXT
16.Public GAME
17.Secret File
18.BAKE
19.HEART ch.
20.SIREN


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