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IUが、2024年3月23日、24日に神奈川・横浜アリーナで単独公演を開催した。本稿では、3月24日の模様をレポートする。
自身初のワールドツアー【2024 IU H.E.R. World Tour Concert】の幕開けとなったソウル公演では、計4回で延べ6万人の観客を集めたIU。2008年のデビュー以来、歌手活動をはじめ俳優としても活躍する彼女は、絶大な大衆人気はもちろんながら、同業者である芸能人の多くからもリスペクトが寄せられている。かつて称されていた異名「国民の妹」の枠を超え、先述のソウル公演ではNewJeans、RIIZE、LE SSERAFIMといった新世代グループをゲストに招くなど、今や後輩アーティストたちをリードする存在になった。
一方でワールドツアー二都市目となった横浜での公演は、「韓国歌謡界をけん引するスターの来日公演」という位置づけのみに留まらない。2012年以来初めて彼女が日本のオーディエンスを前にパフォーマンスを行う、まさに記念すべき機会だった。
開始直後、割れんばかりの大歓声が横浜アリーナを包むなか、ついに私たちの目前へ現れたIUが歌ったのは「Holssi」。ゆったりとしたビートと脱力したラップが特徴のしなやかなヒップホップR&Bナンバーをキッズダンサーたちに囲まれた彼女がラフに歌い踊る、ピースフルな光景が拡がった。以降も、二曲目「Jam Jam」そして「Ah Puh」「BBIBBI」と、静かに気分を高めるリラクシングなミディアムナンバーが続く。
このたっぷりとした余裕ある展開が作り出すのは、熱烈な再会の場ではなく、「元気だった?」と旧友が互いを懐かしむような、穏やかで親しみのある空間だ。彼女のあたたかな歌声と眼差しは、開演時点で最高潮に達していた会場のボルテージをポジティブなかたちで落ち着かせながら、観客の緊張をそっとほどき、心の距離を縮めていく。
その後、10代で発表した初の自作曲「Hold My Hand」、ソリストとしての音楽性を拡張させた2013年リリースのアルバム『Modern Times』よりボサノヴァナンバー「Obliviate」とラテンポップ「Havana」、そして近年のヒットソングでありTikTokでも人気を博す「Blueming」や「Celebrity」など、16年にわたる彼女の足跡が多様なジャンルの楽曲群で振り返られる。バンドセットによる生演奏のグルーヴ、バックダンサーたちのパフォーマンスから溢れる生命力が、各曲の魅力をより色鮮やかに仕上げていた。
なかでも、本ツアーのセットリストにおいて際立っていたのが、2月にリリースされたばかりの最新ミニアルバム『The Winning』の収録曲だ。30代としての初アルバムとなった同作について彼女は、自身の公式YouTubeチャンネルで公開されているインタビューで「私の30代をはっきりさせるもの」と説明していた。その収録曲のひとつ、「I stan U」のリリック〈あなたのすべての日々の/ひとりの熱烈な/観客になるよ〉を歌いながら、会場を見渡しペンライトを振ったIU。その真意は、MCで「皆さんも悲しい時がありますよね? そんな時は、私がペンライトを振っている姿を思い出して。皆さんは、私の“IU”です」と語った言葉に表された。
「皆さんを長い間待たせてしまって、申し訳ない気持ちです」
公演冒頭ではそんなコメントも口にしていたが、12年もの間、顔を合わせずとも日本のファンと彼女との間に“人と人との信頼関係”が絶え間なく築かれていたことが、公演を通じて証明されていった。韓国語詞で合唱するオーディエンスの歌声、客席のあちこちから投げかけられる「サランへ!」のラブコール、いつまでも鳴りやまない拍手、思い思いに揺れるペンライトの光、その一つひとつにIUの表情が思わずほころぶ。大きな愛情を受け取った彼女は「歌いながら“人類愛が溢れた瞬間だ”と思いました」と感動を滲ませた。
「皆さんは私を完成させてくれるピース。だから“ありがとう”という気持ちを込めて、私も皆さんの人生のピースになれたら」
離れていても彼女の音楽は、その場に集う一人ひとりの毎日に寄り添い続けていた。空白の時間も、彼らを互いから遠ざける理由にはならなかった――会場全体から伝えられたこの事実はまさに、同じく『The Winning』に収録されるツアー本編のラストナンバー「Love wins all」(愛はすべてに勝つ)のタイトルを体現してみせ、それが何より感動的だった。
熱狂そのままに突入したアンコールパートでは、最新曲「Shh..」そして2回目の「Holssi」と共に、23歳で発表したその名も「Twenty-three」を披露。まだまだ別れを惜しむようにWアンコールを求めるオーディエンスの元へ再び戻ったIUは、なんと観客から募ったリクエストから「Give You My Heart」「My Sea」「Someday」「Every End of the Day」を、時にアカペラ、時にバンドセットで熱唱。
そして最後は、IU自身の選曲でスローバラード「Epilogue」が歌われた。〈私たちのために歌った過去の歌たちが/今でも癒しになっているのか/あなたがこの全ての質問に「そうだ」と答えてくれたら/それだけで納得してしまう私の人生というのは/ああ、十分に意味があるでしょう〉そんなリリックが優しくほろ苦く響いて、IUと私たちによる再会の場に幕が下ろされた。
7月には、本ツアーの大阪公演も開催予定。人間らしい温もりを感じさせる有機的な表現を、その音楽やパフォーマンスを通じて届けてくれる彼女のことだから、その時にはまた違った景色で魅了してくれるに違いない。
Text:菅原史稀
Photos:Aaru Takahashi
◎公演情報
【2024 IU H.E.R. World Tour Concert】
2024年3月23日(土)24日(日)
神奈川・横浜アリーナ
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