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2022年6月にリリースした11thアルバム『PHALARIS』を冠した一連の全国ツアーのファイナル・シリーズとして【TOUR23 PHALARIS FINAL -The scent of a peaceful death-】を開催しているDIR EN GREY。本稿では2023年11月21日に行われた同ツアーのZepp Haneda (TOKYO)公演の模様をお届けする。
会場が暗転し、ステージ前方に張られた紗幕に中世的な世界観のオープニング映像が投影される。様々なストーリーを描いた本が映し出され、最後に『PHALARIS』と題された1冊が開く。薫とDieがギターを鳴らし、映像が拷問などのショッキングな景色を描いた宗教的なテイストに変化すると、その生々しい雰囲気のまま「御伽」でステージが始まる。ダイナミックな展開で奏でられる禍々しい音像にこちらも引き込まれていく。曲の終盤、紗幕にメンバーの影が映し出されると大歓声が巻き起こる。
京(Voice)の伸びやかなハイトーンが光る「咀嚼」(9thアルバム『ARCHE』収録)で会場を神聖な空気で満たすと、今度は薫とDieによるグルーヴィーなギターリフが畳み掛けてくるヘヴィチューン「落ちた事のある空」で一気に会場の熱量を上げていく。この怒涛のアグレッシブさはさすがとしか言いようがない。
続くブロックは、京の「生きてんのか!」という煽りで「響」から始まった。魂を削るかのような壮絶な感情表現と美麗な音像の対比に心を揺さぶられる。そして、「The Perfume of Sins」、「Schadenfreude」と『PHALARIS』の中でも特にプログレッシブで展開が複雑な2曲が連続で披露される。オーディエンスも時にヘッドバンキング、時に拳、時に静観しながら、この濃密な物語性を持つ世界観に染まっていく。京のあまりにも多彩なボーカリゼーション、そして映像の演出も相まって、まるで一本の映画を見終えたような感覚になる彼らの表現力は何度体感しても圧倒される。
音源では切なくも美しい京の歌唱が印象的な「朧」はライブでは全く違う姿に変貌する。流れ出る感情が壮絶なまでに剥き出しになり、まるで一人の人間が壊れていくように、狂気的に全てを吐き出される。圧巻の一言だ。そこから京によるINWARD SCREAMを経て、現代社会の闇に痛烈に切り込む大曲「The World of Mercy」へと音像が紡がれていく。DIR EN GREYの音楽におけるキーワードの一つである“痛み”が特に色濃く反映されている傑曲だが、生でこの表現を目撃するとその説得力は倍増する。このスタイルは決して万人受けはしないかもしれない。それでも、多くの人にこの表現を観て何かを感じてもらいたいと思わせてくれる強烈なメッセージ性だ。
続く「輪郭」では京の柔らかなファルセットがバンドの骨太なアンサンブルと絡み合う。歪みの中にある美しさと形容したくなる音像。髪を振り乱しながら弾くDieを始め、メンバーの演奏する姿もより情熱的に感じる。そして、“生きるということ”について深く考えさせられる切実な歌詞が素晴らしい「13」を経て、バンドは最終ブロックに向けて一気にギアチェンジする。
軽快さとヘヴィネスが絶妙にスピーディーに融合する「盲愛に処す」が始まると、楽曲のハードコア的な勢いにフロアも熱量が目に見えて上がっていく。「かかってこい!」と京が虜たちを凄まじい迫力で煽りまくる。前作『The Insulated World』収録のスピードチューン「Downfall」ではさらに爆走し、京から「お前らもDIR EN GREYの一員だろうが!」という名言も飛び出す。「おい、足んねぇぞ!生きてんだろ!もっと命削ってこい!」と京が煽ると、最後は「Eddie」で残りの体力を絞り出すように、攻撃力抜群のサウンドを徹底的にこちらに叩きつけ、会場にヘッドバンギングの海を作り出した。
メンバーが再登場すると、聴く者の身体が本能的に動き出すような重厚なグルーヴの「REPETITION OF HATRED」(6thアルバム『THE MARROW OF A BONE』収録)でアンコールはスタート。懐かしいヘヴィチューンだが、近年の楽曲と並んでも遜色無い破壊力だ。Toshiya(Ba)とShinya(Dr)が作り出すソリッドな土台も素晴らしい。さらに、「まだいけるか!一つになれんのか!かかってこい!」という煽りから電子音と鋭利なメタルリフが強烈な突進力で放たれる「Rubbish Heap」が休む暇も無く畳み掛けられてくる。先程の京の言葉どおり、“命を削る”くらいの感覚でファンも轟音に呼応する。「羽田、生きてるか!ちゃんと今を生きてんのか?俺ら全員と一つになれんのか?いけんだろ?かかってこい!」と京が引き続き煽っていく。続く「T.D.F.F.」は3rdアルバム『鬼葬』収録曲の再構築。原曲のシンプルで衝動的な激しさは残しつつ、よりアップデートされたそのアレンジはライブ映えが抜群で、ファンも大声でコーラスパートを叫ぶ。このバンドが生み出す一体感と熱量はやはり唯一無二だ。
最後は『PHALARIS』でもラストを飾る壮大な名曲「カムイ」が届けられる。切実に“生”を問う歌詞。<後何年ですか?まだ生きるんですか?><時には涙と笑顔の真似/捨てられた愛を拾う人生なんです。>楽曲の後半で感情が爆発するように歌う京の姿には気づいたら圧倒されてしまった。
『PHALARIS』の世界観が濃密に表現されている今回のツアー。彼らが魅せるのは決してポップなサウンドでも理解されやすい表現ではない。どちらかといえばショッキングな要素の方が多いとも言えるだろう。だが、彼らのライブを観た後は必ず心が浄化されたような感覚になる。それは今回の公演も同様だった。DIR EN GREYはメジャーデビューシングル3曲(1999年リリース)を再構築したニューシングル『19990120』を2024年1月にリリースする。改めて過去作と向き合った彼らがこれからどのような道を切り開いていくのか、期待感が増すばかりだ。
Text:Haruki Saito
Photos:尾形隆夫
◎公演情報 ※終了分は割愛
【TOUR23 PHALARIS FINAL -The scent of a peaceful death-】
2023年12月14日(木)、12月15日(金)大阪・なんばHatch
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