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浦上想起が11月11日、自身初のワンマンライブ【浦上想起・バンド・ソサエティ presents “United by Purpose”】を東京・WWW Xで開催した。メンバーは浦上のほか、しょけん(G/ZOMOZ)、シンリズム(Ba)、平陸(Dr/Suspended 4th)、松木美定(Tp)、松丸契(Sax/SMTK、m°fe)。それぞれライブでの共演やコラボ曲の制作、レコーディングへの参加はあるものの、この6人が集結するのはこれが初となった。
2019年に初のオリジナル作品「芸術と治療」を発表した浦上想起。4年10か月を経て実現した単独ライブで彼は、ポップ・ミュージックの愉悦と奥深さを存分に体感できる、濃密にしてしなやかなステージを繰り広げてみせた。
スクリーンに“United by Purpose”(目的による連帯)というタイトルが映され、まるで映画のようにライブがスタート。まずはドラム、ベース、ギターが心地よいグルーヴを生み出し、トランペット、サックスが加わる。最後に浦上想起がステージに登場し、「浦上想起・バンド・ソサエティです。始まっただけで感無量です。よろしくお願いします!」と挨拶すると、フロアを埋め尽くした観客から歓声と拍手が巻き起こった。(メンバー全員、キャップとサングラス、ワッペンが付いた衣装で統一されていた)
浦上が鍵盤でイントロを奏で、シンリズムが手拍子を要求。洗練されたバンドサウンドとともに放たれたオープニング曲は「新映画天国」だ。緻密に構築されたアレンジメントがステージの上で空気に触れ、生々しい音像が生み出される。抑揚がしっかり付けられた、柔らかいボーカルにも強く惹きつけられた。
続く「甘美な逃亡」は、原曲よりもテンポを上げて演奏。管楽器の鋭利な響きに導かれ(個人的には初期の立花ハジメを思い出した)、<超現実な表情をして/海へ駆け出したい>という映像を喚起するような歌が真っ直ぐに伝わってくる。ポリリズムや変拍子を反映した間奏も驚くほどにスリリングだった。
甘美なピアノとサックス、<生まれよりも 大事にしよう>というサビから始まったのは、今年7月にリリースされた新曲「角を探す人」。発表時に「角(つの)のあるエセ・ミュージカル感やブラジル方向から吹く風を取り入れた」とコメントしていたが、ライブでは優美な雰囲気が広がり、うっとりとした気分に満たされていく。曲の途中で挿入された、しょけん、シンリズム、松木、松丸、平のリラックスしたソロ演奏も魅力的だった。
「未熟な夜想」は浦上の“LaLaLa~”というフェイク、松丸のソプラノサックスから。美しいノスタルジーをまとった旋律と<僕らにはひっそりと 小さな慈愛を>といった祈りにも似たリリック、音数を抑えたアンサンブルが響き合い、バンド全体で“歌”を奏でる。
ライブ前半、個人的にもっとも心に残ったのは「芸術と治療」だった。打ち込みのビートから始まり、カラフルなイントロのフレーズが鳴った瞬間、フロアから歓声が上がる。原曲よりも少しテンポを落とし、ファンクの要素を強調したアレンジによって、ダンス・ミュージック的な気持ちよさが加味されていた。浦上の音楽活動の原点とも言えるこの曲をバンド編成で演奏し、観客に直接届けられたことは彼自身にとっても大きな喜びだったはず。ボコーダーを使った歌声のまま、「ありがとうございます」と伝える演出も楽しい。
初のワンマンライブに詰め掛けた満員の観客と、ともにステージに立つ仲間たちへの感謝を言葉にしたあとは「金星の呼気」。高度な音楽理論に裏打ちされた独創的なコード進行とメロディ、厳密に抑制されたバンドサウンドから一転、エンディングではファンク~フュージョンを行き来するようなインストが挿入され、徐々にテンポアップ。続く「驚きと喧騒」では四つ打ちを取り入れ、最後は長尺のドラムソロ。ライブ数日前のX(Twitter)で浦上が「勢いづいて、ほとんど全編 今回限りの新しいアレンジで届けます」と予告していた通り、この日、この場所だけの特別なアレンジによる演奏をたっぷりと聴くことができた。
ここで浦上とメンバーがステージをはけ、しばし休憩タイム。後半はバンドメンバーの楽曲による“カバー・メドレー”からはじまった。披露されたのは、浦上と松木のデュエットによる「舞台の上で」(松木美定、浦上想起)、しょけんのギターソロが炸裂した「ハクチューム」(ZOMOZ)、そして、シンリズムのベースソロを取り入れた「心理の森」(シンリズム)。バンド・ソサエティは、それぞれアーティストとして才能を発揮しているメンバーで構成されている、いわば新世代のスーパーバンド。メンバー個々の楽曲や演奏をフィーチャーすることも、このバンドのライブの醍醐味だろう。
ここからライブはクライマックスへと向かう。ジャズとファンクが絶妙に混ざり合う「爆ぜる色彩」では浦上がファルセットを交えたボーカルを響かせる。斬新なアイデアが盛り込まれた楽曲によって注目を集めてきた浦上だが、この日のライブの軸を担っていたのは明らかに歌。シンガーとしてのポテンシャルの高さを実感できたことも大きな収穫だった。
9月にリリースされた最新曲「星を見る人」では浦上がエレキギターを演奏。ドラマティックに展開するメロディ、シュールと現実感が織り交ざった歌詞の世界、オルタナとシティポップが同時に鳴らされているような音像など、浦上の音楽性がさらに広がっていることが感じられた。アウトロは松丸契のソロ演奏。ルーパーを使ってフレーズを重ね、重層的かつ現像的な音響空間を生み出してみせた。そのままピアノのイントロから「蜜を象る風」へ。大らかに開放されてくバンドサウンド、豊かな感情を込めた歌に強く心を揺さぶられる。私感ではあるが、<照れながら 愛を信じよう>というラインを含んだこの曲は、浦上の人生観、音楽観が滲んでいると思う。
「たくさん来ていただき、ありがとうございます。うれしいです」という言葉とともに「新映画天国」を奏でながらあらためてメンバーを紹介し、本編は終了。鳴りやまない手拍子と歓声に導かれ、再びステージに登場した6人は「近い夜明け」を披露。ライブのスタッフ、出演者などを記したエンドロールを映し、記念すべき初ワンマンは終了した。
2022年は鳴りを潜めていた感もある浦上は、2023年に入り、配信シングル「遠ざかる犬」「近い夜明け」「角を探す人」「星を見る人」を発表。【SYNCHRONICITY’23】、【KOBE SONO SONO’23】、【SPACE SHOWER SWEET LOVE SHOWER 2023 in TOKYO】などへの出演を経て実現した初単独ライブによって、その活動はさらに活性化するはずだ。ポップ・ミュージックの在り方を更新し続ける浦上想起。すべての音楽ファンに、そのアクションを注視してほしいと思う。
Text:森朋之
Photo:渡邉隼
◎公演情報
【浦上想起・バンド・ソサエティ presents “United by Purpose”】
2023年11月11日(土)
東京・渋谷WWW X
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