<ライブレポート>佐藤竹善「これからもずっと歌っていたい」 恒例の【Cross your fingers】で稲垣潤一/森口博子らと饗宴 

2023年5月30日 / 10:45

 5月4日、大阪・オリックス劇場でFM COCOLOが主催する【佐藤竹善 Presents Cross your fingers】が開催された。

 本イベントは佐藤竹善がオーガナイズする、世代もジャンルも超えたコラボレーションライブで、1997年にスタートして今回で23回目の開催を迎える。今年はゲストに稲垣潤一、THE CHARM PARK、ジュスカ・グランペール、押尾コータロー、森口博子、そしてイベントの長年の相棒である塩谷哲、大儀見元が登場。今回は4年ぶりのホールでの公演、そしてオーガナイザーである佐藤竹善の50代最後のライブということもあって、至高の音楽が鳴り響く祝宴を楽しもうと、会場には大勢の観客が詰めかけた。

 イベントの幕開けを飾るのは、佐藤竹善と塩谷哲によるユニット・SALT & SUGARのステージ。塩谷が鍵盤を弾いた途端、会場の空気がきゅっと締まり「Piano Man/ビリー・ジョエル」へ。哀愁と人間臭さ、そして情感たっぷりな名曲を2人で紡いでいく。歌詞にある「今夜は音楽に浸かりたい、お前にしか頼めないんだよ」、その言葉がまさにいまこの瞬間にぴたりとハマり、佐藤のブルースハープが心の隙間をゆったりと満たしていくように鳴り響く。「今日は夢にまで見たホール公演復活の日。宝物のような思い出の人たちと、50代最後のイベントを満喫したい」と、言葉を贈り、大儀見元とともに「バラと少年/ SALT & SUGAR」へ。大儀見のパーカッションが繰り出すグルーヴがリリックに込められた想いをより強く感じさせ、佐藤の歌声が活き活きと弾みだす。

 【Cross your fingers】の楽しみといえば、出演者とのコラボレーションライブ。佐藤の歌声、塩谷のピアノ、そして大儀見のリズムが出演者の音楽とどんな共鳴を見せるのか。まずはインストゥルメンタル・アコースティック・デュオ、ジュスカ・グランペールと佐藤が「エリナー・リグビー/ザ・ビートルズ」を披露。次々に表情を変えるバイオリンの音色、ジプシージャズにアレンジされた艶っぽいギターに挟まれ、気持ちよさそうに歌う佐藤の表情がとても印象的だ。ソロステージの「ジプシーダンス」では塩谷と大儀見が参加し、アグレッシブにかつ華やかなアレンジで熱量高い楽曲で魅せていく。

 コラボライブはもちろんのこと、佐藤のトークもイベントの楽しみのひとつだ。前出のジュスカ・グランペールはSing Like Talkingがきっかけとなってユニットを結成したなど、ここでしか聞けないトークもわんさかと飛び出す。さらに、佐藤がいち押しする若手ミュージシャンと出会えるのもこのイベントならではで、この日最年少出演者となるシンガーソングライター・CHARM PARKも佐藤がその才能を絶賛するアーティストのひとりだ。

 韓国系アメリカ人のCHARM PARKは「みんな輝いている! バイタリティがすごい!」と、ベテラン勢に圧倒されつつも、ソロステージでは「マジック」「そら」など、リラクシンな歌声と緻密に作り込んだ繊細なメロディで独自の音世界をアピール。佐藤とコラボした「Change the World/エリック・クラプトン」では2人の重なる歌声、ギターの音色が唯一無二の音空間を生み出し、観客はただただその音に心酔しきり。

 これまでにコブクロやスキマスイッチ、絢香など数多くのアーティストが出演してきた【Cross your fingers】。「このイベントに出演すると必ず売れるジンクスがある!」と、続いてのゲストに呼び込んだのは、まさかの、デビュー20周年を越えてすでにベテランの域に達している押尾コータロー。これまでにも数多くのステージで共演してきた2人だが、【Cross your fingers】への出演はこの日が初めて。念願だったイベントに出演できた押尾は共演したい人がいると、ソロステージではSing Like Talking・西村智彦とともに「GOLD RUSH」でアコギのパーカッシブなギターとエレキギターで多彩な音の饗宴を披露。卓越したギターテクはもちろんのこと、顔を見合わせギターをかき鳴らす姿はギター少年のまんまでとにかく楽しそうで、ステージを観ているだけで心踊らされる。佐藤とは名曲「Spirit of Love」を、さらに塩谷も加わり「Englishman in New York/スティング」もお披露目。”SALT & SUGAR+押尾コータローで塩分多めのステージを”と冗談を飛ばしつつ、ピアノもギターも抜群の演奏力でアレンジされた楽曲はとにかく至福の時間! 佐藤の透き通ったクリアな歌声がより一層表現力豊かに彩られ、観客はみな恍惚の表情でステージに見入っている。演奏や歌唱はもちろん、ステージでのトークでも楽しませてくれる2人に観客は大きな拍手で応えていく。

 イベント後半、紅一点のシンガーとして森口博子が登場。はつらつした声、MC力はさすがで、ハッピーなオーラであっという間に観客を虜に。「アニソンが持つたくさんの表情を見せたい」と、この日は名曲「ETERNAL WIND~ほほえみは光る風の中~」をはじめとする「機動戦士ガンダム」の主題歌を、凛とした表現力豊かな歌声で歌い上げる。塩谷やジュスカ・グランペールらベテラン勢の演奏も相まって、生演奏ならではの圧巻のパフォーマンスに観客はもちろん、佐藤も「シンガーとしての魅力がすごい!」と大絶賛。コラボステージでは、森口が念願だったというアルバム『GUNDAM SONG COVERS 3』にてSALT & SUGARと共演した「いくつもの愛をかさねて/ SALT & SUGAR」をライブ初披露。森口いわく、佐藤の“誰もが魅了される人たらしボイス”と、森口のエネルギッシュな歌声とのハーモニーで楽しませてくれた。

 「アーティストとして、J-POPの世界でいつかこんな音楽がやりたいと思わせてくれた、大事な人」と、佐藤が呼び込んだのは稲垣潤一。今年“古希”70歳を迎える稲垣潤一はなんとデビュー41周年! 珠玉の名バラード「夏のクラクション」や「1.2.3.」など、今も変わらない甘くシルキーな歌声を響かせると、レコーディング当時の裏話など貴重な話もチラリ。ここ数年共演する機会が増えて嬉しいと感激しきりの佐藤は「自分の青春! 40年前に四畳半の部屋で曲を聴いていたあの頃の僕に教えてあげたい」と、憧れの稲垣とのステージに感激しきりで、「雨のリグレット」を噛みしめるように歌い上げる。

 イベントを締めくくるSALT & SUGARと大儀見のステージでは、「Heal Our Land」をご機嫌なサルサのリズムでアレンジ。佐藤竹善、塩谷哲、大儀見元の3人だからこそ生まれる、かけがえのない音の空間はとにかく贅沢でしかなくて、佐藤は「同じ時代に生きて音楽ができる楽しさがある。同じ時間を過ごせることが素晴らしい!」と、イベントが無事に開催できた喜びを噛みしめるが、その想いは観客もみな同じだろう。ラストはジャズアレンジの「All By Myself/エリック・カルメン」。たった2人のステージだけれど、その豊潤な歌声と表現力豊かなピアノの旋律で丁寧に紡ぐステージはとにかく心を惹きつけてやまなくて、美しさすら感じる音楽に観客は拍手喝采。

 佐藤は改めてイベントを開催できたことに感謝の気持ちを伝えつつ、「どんなジャンルでも良い音楽かどうか。本物だけを呼ぶイベントにしていきたい」と、来年の開催に向けての想いを伝える。そんな“本物”の音楽を鳴らし続けてきた出演者が全員そろってアンコールへ……、となったところで翌日の佐藤竹善の誕生日を祝うべく、出演者&観客みなでバースデーソングを歌うサプライズも。 長年彼の誕生日の前後で開催してきたこのイベントだが、サプライズでお祝いしたのは今回が初めてとか。佐藤は照れながらも「これからもずっと歌っていたい」と、これからの音楽人生に意欲を伝え、最後はイベントを締めくくる定番エンディング曲「星の夜」を出演者全員で歌い上げ、ステージは終幕。

 60代を迎え、より一層輝きを増す佐藤竹善の歌声、そして彼が信じ、選び抜いた“本物”の音楽に魅了されたこの日。来年もまた、至福の音楽が鳴り響く【Cross your fingers】で心満たされる日が来ることを願いたい。

PHOTO:ハヤシマコ
TEXT:黒田 奈保子


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