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全米でシリーズ最高の興行収入を記録した『クリード 過去の逆襲』のプロモーションのため、主演と監督を担ったマイケル・B・ジョーダンが5月中旬に初来日した。自身が演じるキャラクターと見事な融合を起こしている“ある曲”の背景にケンドリック・ラマーが少なからず関係していることを明らかにした。
シルベスター・スタローンの代表作『ロッキー』シリーズのスピンオフである『クリード』シリーズは、ロッキーの盟友アポロ・クリードの息子アドニスが主人公だ。『ブラックパンサー』(2018)のキルモンガー役で大ブレイクしたマイケルは、『クリード チャンプを継ぐ男』(2015)と『クリード 炎の宿敵』(2019)の好演でも、観る者を惹きつけてきた。
シリーズ最新作でマイケルは監督業に初挑戦。「俳優としてキャラクターを演じていて『こういうことをやってみたらどうだろう』と思っても実現できないことが多いです。今回、そういった実現できなかったアイデアを引き出す楽しみがありました」と、クリードの葛藤が長年彼を演じてきたマイケルの手によって、より細やかに描かれる。
何度も苦境を乗り越えてきたアドニスは、本作ではプロボクサーを引退し、若手選手の育成に力を注いでいる。しかし、彼が隠してきた過去を思い起こす旧友のデイム(ジョナサン・メジャース)が現れ、アドニスは過去の過ちに決着をつけるべく、再びリングに上がることを決意。過酷なトレーニングの中で己とも向き合っていくアドニスの姿を映したモンタージュ(複数のカットを組み合わせて一つのシーンを作る技法)のシーンは、人生を賭けたマッチに向かうための重要なパートだ。
このモンタージュには、J. コールの歌唱曲「Adonis Interlude (The Montage)」が使われている。J. コールの新曲という点もそうだが、ドクター・ドレーの「ザ・ウォッチャー」(1999)とジェイ・Zによるその続編「ザ・ウォッチャー2」(2002)をサンプリングしていることが音楽ファンを唸らせる。若い頃から抗争の中で生きてきたギャングスタが地位や守るべき家庭を手にし、今は一歩下がって様子を見ている立場(watcher)にいるが、何かあればすぐに駆け付けてくれる仲間がその男には大勢いるという曲だ(要するに、嘗めてかかると痛い目に遭うぞ、とドレーは警告している)。フォスターホームや少年院を転々とする荒れた少年時代を過ごし、ボクシング界の頂点に登りつめた後、愛する妻と娘とともにリングの外で選手を見守る側になったアドニスと重なる部分がある。
ドレーのオリジナル曲は劇中でも聞くことができるが、その経緯を監督に尋ねたところ、「これは奇跡みたいな話で……初めて話すことなんですが、ケンドリック・ラマーのロサンゼルス公演でドレーと偶然会って、そこで電話番号を交換したんです」と、ドレーと同じコンプトン出身で、現代の最高ラッパーの一人であるケンドリック・ラマーが2人を繋いだことが判明した。
「フィラデルフィアが舞台だった『クリード1』でフィラデルフィア出身のザ・ルーツがサントラに参加しているように、本作がカリフォルニア州をフィーチャーした作品なので、カリフォルニアを象徴するアーティストの方たちに参加してもらいたいと考えていました。後日、ドレーに作品を見てもらったところ、とても気に入ってくれまして、『あなたの曲を使ってもいいでしょうか?』と恐る恐る聞いたら『もちろん』って快諾してくれたんです」と、興奮気味に当時を振り返る。
『過去の逆襲』のサウンドトラックをJ. コール率いるドリームヴィルが制作。マイケルは監督とプロデューサーという立場から音楽面も関与している。撮影の段階ではどの曲が劇中で使われるかは決まっておらず、モンタージュのシーンに至っては、編集作業が進んでいく中で、パズルのピースが見事にはまっていったという。
「『クリード3』なので、1と2をミックスした『ザ・ウォッチャー3』となる曲がこの映画にあったら最高だな、なんて考えていたところ、J.コールとドリームヴィルのクルーたちが素晴らしいものを作ってくれました。J.コールがオリジナルのヴァースを使った曲を作ってくれて。考えていたことが実現して、もう本当に、すべてが最高にクールな経験でした」と笑みを浮かべながら、楽曲制作の裏側を明かしてくれた。監督デビュー作でいくつもの奇跡を体験した監督がミュージシャンたちと会話を重ねた結果、映画の序盤とモンタージュを繋ぐ完璧な融合が生まれていた。
Text by Mariko Ikitake
◎公開情報
『クリード 過去の逆襲』
全国公開中
監督:マイケル・B・ジョーダン
出演:マイケル・B・ジョーダン、テッサ・トンプソン、ジョナサン・メジャース、ウッド・ハリス、フロリアン・ムンテアヌ、ミラ・ケント、フィリシア・ラシャドほか
配給:ワーナー・ブラザース映画
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