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5月13日、Zepp DiverCity TOKYOで、シドの結成20周年を記念するツアーであり、アルバム『海辺』のリリースツアーでもある【SID 20th Anniversary TOUR 2023 「海辺」】のファイナル公演を開催した。
会場に鳴り響くクラップに迎えられ、ゆうや(Dr)、Shinji(G)、明希(B)がそれぞれの楽器を手にした頃、マオ(Vo)もゆっくりと登場。ゆうやがスティックを力強く打ち鳴らし、スタートしたのはアルバム『海辺』のオープニングを飾る「軽蔑」。4拍子と3拍子を行き来する変拍子のスリリングさは、生音で聴くとまた格別だ。油断すると波に飲まれてしまいそうになるほど不穏な心地になるので、サウンドの真ん中にしっかりと佇むマオの歌にしがみつく。そこへ追い討ちをかけてきたのが2曲目の「大好きだから…」だ。別れ際に女性が男性に宛てた手紙を歌詞にしたこの曲。主人公の女性を演じて感情を隠すように歌うマオ。じりじりと迫るようなバンドアンサンブルは、まるで男性を断崖絶壁に追い詰めるような情景を描いた。そのサウンドをバックにスクリーンに”タテ読みも忘れずに…”の歌詞どおり、歌詞列の頭文字が赤い文字で一文字ずつ打ち出される。“ダイスキ/ダカラ/ユルセナイ/アナタハ/オワツタ”。
身震いするようなサスペンス展開で肝を冷やしたところに、「元気?」と明るいマオの声が響いた。「マオ復活&後ろ髪が結構伸びたっていうことで、すごい楽しみにしてきました。どれぐらい楽しみだったかと言うと、遠足ぐらい。子供の頃の遠足ってすごかったでしょ」と続ける。マオが喉の不調のためライブ活動の休止を発表したのが2022年1月。マオ自身が誰よりもこの復活を待ちわびていたに違いない。ツアー初日の神奈川・KT Zepp Yokohama公演では「今日のライブがすごく怖かった」と少し声を震わせていたが、この日のマオにはそんな気配が一切ない。それはきっと、一緒に笑い合えるメンバーとツアーの一本一本を積み上げてきたから。そして、各地でファンから大きな歓声と笑顔をたくさんもらってきたからなのだろう。3年ぶりの声出し解禁、初日こそためらいがちで、お互いに手を繋ぐタイミングが噛み合わない付き合いたてのカップルのようだったが、ツアーファイナルともなるとコール&レスポンスも阿吽の呼吸。メンバーが煽らずとも、大きな歓声が彼らに降り注がれた。
“令和歌謡”をコンセプトにした『海辺』の収録曲では、スクリーンに映し出される歌詞やグラフィックがその世界観を深く広く表現する。夕闇色を映した「13月」はスタッカートのリズムを刻む明希のタイトなベースと、むせび泣くサックスの音色が印象を残し、並木道を映した「街路樹」ではゆうやの軽快なリズムと、Shinjiの小気味良いカッティングがクラップを誘った。
メンバーが順番にMCを繋ぐコーナーでは、トップを切った明希が「ここまでコンサート、ライブが復活したんだと喜びを噛み締めながら、みんながこうやって僕らシドが帰る場所を守ってくれたから、ルールを守ってくれたからここまでこれたんだと思います。ほんとに心からどうもありがとう」と感謝の思いを語った。Shinjiは「海辺ツアー、流木みたいに流れ着きました。いくつもの荒波、さざ波にもまれながら、きれいになって辿り着きました」とツアーの日々を振り返り、ゆうやは「今日は最後までみなさんにしっかりと楽しんでいただけるようなライブになっていると思います。最後まで気を抜かずに! 元をとって帰ってください」とハッパをかけた。そんなメンバーの様子を見ていたマオは、「こんなに休ませてくれるバンド、他にいないよね。すごい感謝してます、みなさんのトーク力に」と楽しそうに笑った。
白い雪の映像が舞ったバラードナンバー「白い声」では、情感たっぷりに歌うマオのボーカルと鍵盤のメロディが切なく響き合い、それとは対照的に温かみのあるサウンドで会場を包み込んだ「hug」では、曲終わりにギュッとハグをするパフォーマンスを見せた。異国情緒漂う「慈雨のくちづけ」では、間奏で明希が深みのある5弦ベースを聴かせ、その後はゆうや、明希、Shinjiのテクニックとパーソナリティが炸裂するソロパートへ。ボルテージが上がったままのステージにマオが戻ると、ブルージーな「液体」へと流れ込んだ。緻密でいて豊潤な響きが心地よく体を揺らす。歌謡ロックチューン「騙し愛」で再びフロアのテンションを上げると、「シド20周年、まだまだ高いところにいくぞ! お前らついてこいよ」とマオが煽り、「ANNIVERSARY」へ。ライブは終盤戦。『海辺』ターンから、20周年を祝うモードへと切り替わる。ミラーボールの反射する光がフロアを舞い、弾けるようにメンバーがステージを闊歩する。闇の中をもがいていた日々、光の差す方を夢見た日々、出会えた奇跡に感謝する。10年前に生まれたこの曲が、コロナ禍を乗り越えた今にリアルに響いた。久々に聴いたオーディエンスの美声に、顔を綻ばせるメンバー。曲終わりにマオは、大きな笑顔でピースサインを繰り出した。
長らく待ち望んできたシドのライブがようやく戻ってきたと心底思えたのは、結成当初から歌い続けている「循環」へと繋がるお馴染みのリズムが鳴り始めた時だ。リズムに合わせて「ゆうや!」「明希!」「Shinji!」とメンバーの名前が大きな声でコールされるのを聴いていると、思わず胸がじんとしてきた。マオはというと、「20年経っちゃったけど、これだけ盛り上がるとほしがっちゃう俺がいたりして」と、“ちょっと内股でハートを作りながら首を傾げながら”の「ダーリン」をおねだり。会場から飛んできた「ダーリン!」コールに、「まさか20年後もやってるとは」とひとりごちたその表情は、やはり嬉しそうだった。「循環」で大きなグルーヴを作った後、光ある未来へと疾走していくポジティブナンバー「one way」で本編を締めくくった。「オイ!オイ!」と拳をあげたり、大きくジャンプしたり、グチャグチャになっていくフロアを、演奏が終わっても愛おしそうに眺めていたメンバーの姿が印象的だった。
アンコールでは、「これまでちょっと怖い感じだったんで、ここからはみなさんに好印象を与えていこうと思います。みなさんで夏を先取りしませんか?」と「揺れる夏服」「夏恋」と夏ソングを続けて披露。キャッチーな「夏恋」ではフロアが一斉に繰り出してくるハートのサインにちょっと照れてみたり、マオに操られるように歌わされているオーディエンスを見て、思わず明希が吹き出したりとリラックスモード。かと思えば、「park」「眩暈」「吉開学17歳(無職)」と、シャウトやヘドバンを繰り出すヘヴィーチューンでフロアをかき回した。そしてラストは「海辺」。明希の5弦ベースが幻想的な調べを奏で、そこにShinjiの美しいアルペジオが乗り、ゆうやが意志の宿った力強いリズムを刻む。そしてマオは一言一言に思いを込めて歌い綴る。それを支えるようなShinjiと明希のコーラスもよかった。演奏が終わっても、オーディエンスは余韻でしばらく動けないでいるようだった。ひと呼吸、ふた呼吸おいて、大きな拍手と歓声が彼らに贈られた。
「最高だったぜ。20周年最後まで見逃すなよ。これからもどこまでも一緒にいきましょう」(明希) 「最後の『海辺』が終わった時、みなさんの顔をずっと見ていたいなって、帰りたくないなと思いました。愛なんてよくわかんないですけど、見つけましたよ今日、みんなの愛を」(Shinji) 「いろんなことがあって、こんなに素晴らしい景色をみなさんと共有できる日が、こんなにも早く来ましたよ。今日は最高でした。ありがとう」(ゆうや)
一人ずつステージを下りていき、最後に一人残ったマオは、「こんなに最高なみんなに支えてもらって、20年本当に僕は幸せ者です。そして今日は俺も最高だったんじゃないの?(笑) 最後に大きい声をちょうだい」と、フロアの大歓声を一身に受け、満足気な表情で最後にマイクを外した生声で「愛してます!」と叫んだ。ステージを捌ける時、マオはステージ袖に向かって大きくガッツポーズをして見せた。このツアーがマオにとっていかに充実したものだったのか、最後のその姿がすべてを物語っていたのだと思う。
シドの結成20周年アニバーサリーイヤーは始まったばかり。7月23日からはスペシャルファンミーティング【SID 20th Anniversary Premium FANMEETING TOUR 2023】がスタートする。『海辺』から漕ぎ出した船は、年末に行なわれる日本武道館でのグランドファイナルに向けて、どんな航海を楽しませてくれるのだろうか。期待は高まるばかりだ。
TEXT:大窪 由香
PHOTO:今元 秀明
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