『ジョーディ』マルーン5(Album Review)

2021年6月14日 / 18:00

 2002年のデビュー・アルバム『ソングス・アバウト・ジェーン』のリリースから間もなく20周年を迎えるマルーン5。米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”で初めてTOP10入りした「ディス・ラヴ」(2004年)、初のNo.1ヒット「メイクス・ミー・ワンダー」(2007年)、クリスティーナ・アギレラとコラボしたモンスター・ヒット「ムーヴス・ライク・ジャガー」(2011年)、公開5か月で5億再生を突破した「シュガー」(2015年)、そして通算7週の首位をマークした「ガールズ・ライク・ユーfeat.カーディ・B」(2018年)……と、入れ替わりの激しいアメリカの音楽シーンにおいてコンスタントに大ヒットを輩出する、これほど息の長いバンドも珍しい。
 
 本作『ジョーディ』からも、週間チャートで最高2位、2020年の年間チャートでは8位にランクインした「メモリーズ」が大ヒットを記録した。この曲は、2017年12月に急逝したバンドの元マネージャーでアダム・レヴィ―ンの幼馴染みであるジョーダン・フェルドスタインに捧げたレクイエムで、その想いを綴った歌詞、ヨハン・パッヘルベルの「カノン」を下敷きにしたメランコリックなトラック、アダムのアップ・シーンをフィーチャーしたMVいずれも完璧なバランスの傑作だった。話題性も含め流石と言わざるを得ない説得力がある。本作には、2019年3月末に死去した故ニプシー・ハッスルとラッパーのYGをフィーチャーしたリミックスも収録。この後、まさかニプシーまでこの世を去ってしまうとは……。
 
 同曲を核として作られた約3年半ぶりの新作『ジョーディ』は、ジョーダンの死後はじめて発表される通算7作目のスタジオ・アルバム。タイトルの「ジョーディ」は彼のニックネームをそのまま引用したもので、ジャケットも手向けた美しい花のアートで覆われている。前作『レッド・ピル・ブルース』から本作発表までの間には、ジョーダンの死のみならず、ベーシストのミッキー・マデンがDV容疑により逮捕されるというトラブルにも見舞われ、バンドは危機的状況を迎えたが、こうして復帰に至りファンからも安堵の声が溢れただろう。なお、逮捕前のミッキーは「メモリーズ」と10曲目の「キャント・リーヴ・ユー・アローン」にクレジットされている。
 
 その「キャント・リーヴ・ユー・アローン」には、2019年末に21歳という若さで逝去したラッパーのジュース・ワールドがフィーチャリング・アーティストとして参加。昨年夏にリリースしたジュースの遺作『レジェンズ・ネヴァー・ダイ』の作風にも通ずるオルタナとトラップをブレンドしたトラック~ボーカルに浸ると、彼がまだ其処に存在しているかの錯覚に陥る。プロデュースは、「メモリーズ」に続きザ・モンスターズ・アンド・ストレンジャーズが担当。ソングライターには、アンドリュー・ワット&ルイス・ベルのコンビが参加している。
 
 ザ・モンスターズ・アンド・ストレンジャーズは、同日にシングル・カットしたミディアム・テンポのエレクトロ・ポップ「ロスト」と、LANYやラウヴの延長線にあるセツナポップ「ノーバディーズ・ラヴ」の2曲もプロデュースしている。前者は絶望から救い出してくれた“誰か”について歌った曲で、その様を映像化したミュージック・ビデオも公開されている。後者は、昨年全米を揺るがしたジョージ・フロイド氏の死を受けて書かれた「愛の尊さ」をテーマにした曲で、パンデミックの最中にiPhoneで撮影したMVも話題を呼んだ。
 
 もう1曲のシングル「ビューティフル・ミステイクス」は、アルバムのオープニングを飾るメーガン・ザ・スタリオンとのコラボレーション。昨年No.1を記録したメーガンの「WAP」や「Savage」とは一線を引いた「ペイフォン」路線の哀愁メロウで、パワーも抑え気味に曲調に見合ったテンションでサポートしている。すれ違った男女それぞれの想いを綴った歌詞は、アダムの妻ベハティ・プリンスルーと、メーガンのボーイフレンドでラッパーのパーディソン・フォンテーヌに向けたもの……だという見解も?同曲のプロデュースを務めたのは、前述の故ジュース・ワールドやジャスティン・ビーバー等の作品にも参加しているラッパー/シンガーのブラックベアー。ブラックベアーは、アダムのファルセットが心地よく漂うR&Bテイストの「エコー」にもゲストとしてフィーチャーされている。
 
 ゲスト参加の曲では、アダムがお気に入りのアーティストと挙げる女性R&BシンガーのH.E.R.とコラボレーションした「コンヴィンス・ミー・アザーワイズ」もいい曲。彼女の持ち味であるブラック・ミュージック的要素を薄めたミディアムで、ファルセットで統一したH.E.R.と色気を醸したアダムのヴォーカルの絡み合いがエロティシズムを介している。それから、ベテラン女性シンガーソングライターのスティーヴィー・ニックスをフィーチャーした「レメディ」も、風通しの良い80’sロック~カントリー・ウエスタン風の意欲作に仕上がっている。前者はサーキット、後者はボーイ・ワンダと「ホワット・ラヴァーズ・ドゥ」を提供したスターラといった売れっ子が制作を固めた。

 同サーキットによるバントゥーをフィーチャーした7曲目の「ワン・ライト」は、ギター・リフをアクセントにした腰が浮くファンキーなダンスホール。バントゥーのカリビアン・テイストなボーカルも夏っぽさを演出している。同路線では、ボーナス・トラックに収録された「ボタンfeat.アヌエルAA&タイニー」も、レゲエ~ダンスホール調のアップチューンに仕上がった。その他、ミッキー・エッコが手掛けたマルーン5らしい旋律のロック・ポップ「ラヴシック」、ラップ風のボーカル・ワークでヒップホップ的アプローチを示したロートーンのトラップ・ポップ「シーズンズ」など好曲揃い。今年1月にリリースしたジェイソン・デルーロ名義のシングル「ライフスタイル(ジェイソン・デルーロfeat.アダム・レヴィーン)」も、ボーナス・トラックとして収録されている。
 
 楽曲のクオリティは十二分に維持されているが、冒頭で紹介した花形的な曲はなく、初聴若干の物足りなさを感じるかもしれない。それは、売れ線を意識しないマルーン5のアルバム=ある意味新鮮という捉え方もできる。メンバーの平均年齢からしてもこれくらいのテンションで丁度良い……といえるし、何よりアルバムのテーマ/コンセプトを照らせば、正しい在り方だと思う。キャリア20年目を迎える来年は、どんな活動がみられるのか。2020年代のマルーン5が本作『ジョーディ』で幕を開けた。
 
Text: 本家 一成


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