ヨルシカとエヴァンゲリオンとの共通点? 「芸術の模倣」と「考察の文化」の魅力を再認識させていくアプローチ

2021年3月20日 / 18:00

 YouTubeに公開しているミュージックビデオは悉く数千万回再生を記録し、1億回を突破した作品もあるヨルシカ。デビュー直後は若者中心に絶賛されている印象だったが、2021年現在はその文学的かつ考察し甲斐のある作品性が老若男女に支持され、日本の音楽シーンを新しく代表するに相応しい人気ぶりで、映画『天気の子』などで知られる新海誠が監督を務めた『大成建設』TVCMにてオンエアされている新曲「春泥棒」も話題沸騰中だ。

<音楽を聴くだけでなく読ませる作品として昇華>

 ヨルシカは、ボカロPとして活躍していたコンポーザー・n-buna(ナブナ)と彼の音楽を愛聴していた女性ボーカリスト・suis(スイ)によって2017年に結成された音楽ユニットである。

 インディーズ時代にリリースした1stミニアルバム『夏草が邪魔をする』と、そのセルフオマージュ作品である2ndミニアルバム『負け犬にアンコールはいらない』の時点から、例えば「先生、どうでもいいんですよ。生きてるだけで痛いんですよ。ニーチェもフロイトもこの穴の埋め方は書かないんだ。」などのフレーズに代表される、誰もが心の内に抱きながらも言葉にできずにいた想いを音楽化及び言語化したような楽曲群に、共感者が続出。さらに2019年に発表した2作のコンセプトアルバム『だから僕は音楽を辞めた』『エルマ』で、ヨルシカの芸術的アティチュードはより明確となる。

 この2作は、音楽を残して逝ってしまったエイミーという青年の物語と、その青年を模倣して音楽を始めるエルマという女の子の物語で構成されており、これだけでも「アルバムを通して聴く」リスナー離れの激しい昨今においては画期的かつ革新的なアプローチだったのだが、より特筆すべきは、その物語自体もまた過去の偉大なる文芸作品の模倣であったということ。

 これを彼らがインタビューなどを通して大々的に打ち出すと、リスナーはエイミーとエルマの物語についての考察だけに収まらず「この楽曲は、井伏鱒二『山椒魚』のオマージュなのでは?」「このフレーズは、ジュール・ヴェルヌ『海底二万里』の模倣なのでは?」と答え合わせに奔走するようになった。音楽がインスタントになり、使い捨てされることも多い時代になって久しいが、ヨルシカは音楽を聴くだけでなく物語として読ませる作品として昇華し、さらにはそれらのルーツを辿る旅の面白さまで伝播してみせたのである。

<ヨルシカとエヴァの共通点「芸術本来の楽しみ方の復活」>

 この一連のアプローチと現象を目の当たりにして思い出した作品がある。現在、最後の劇場作品が大ヒット中のアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』だ。

 物語自体が分かりやすい答えを提示しない、視聴者のイマジネーションに委ねる部分が多大にあり、それゆえにファンがそれぞれに考察を重ねることでムーヴメント化した流れも類似。同作の監督・庵野秀明はエヴァ以前にそのルーツとも言えるアニメ『ふしぎの海のナディア』を制作しており、エヴァ公開後にファンのあいだで「エヴァはナディアの模倣なのでは?」と考察されていた。

 さらに『ナディア』は、ヨルシカも『エルマ』の最後を飾る楽曲「ノーチラス」でオマージュしているジュール・ヴェルヌ『海底二万里』を原案とした作品である(※ノーチラスは『海底二万里』内で描かれる潜水艦の名称)。

 これらのルーツを辿る旅に興じた人々も少なくなかったことを思い出すと、オスカー・ワイルド(19世紀に活躍した詩人/作家)の「人生は芸術を模倣する」を現代的に表現したというヨルシカのアプローチは、音楽をより簡易なコンテンツにしていこうとする時代の流れに逆境しているようではあるものの、考察も含めて長く深く堪能できる作品、或いは広く探求できる作品を求めていたリスナーの潜在意識を呼び戻し、音楽含む芸術本来の楽しみ方を復活させてみせたとも捉えられる。

<「春泥棒」に史上最大規模とも言える数の考察~ヨルシカの真骨頂>

 そんな「芸術の模倣」と「考察の文化」の魅力を再認識させてくれたヨルシカだが、今現在は新曲「春泥棒」に対して史上最大規模とも言える数の考察がネット上に乱立。同曲のミュージックビデオが公開された際、ヨルシカのツイッターアカウントには「花が寿命なら風は時間だろう。それはつまり春風のことで、桜を散らしていくから春泥棒である」と記され、このメッセージと「春泥棒」の歌詞とMVの内容を重ね合わせたリスナー達は、先んじて発表されたアルバム『盗作』とその続編『創作』に登場する夫婦が「春泥棒」のMVに出演している男女であると。

 そして、ヨルシカのツイートにある「花=寿命、風=時間」をヒントとし、同曲はMVに登場する妻が亡くなるまでの物語なのではないかと推測。この考察によって「春泥棒」は、愛する人との日々とその終焉を描いた涙なしで聴けない物語として各所で大絶賛されている。

 作品をただ聴くだけでなく紐解くことで見えてくる物語や景色がある。というのは、これまた音楽含む芸術本来の楽しみ方であり、それを何千万回と再生される規模で今この時代に広めている有意義さは、他に類を見ない。リスナーのイマジネーションと共に音楽を育てていくアプローチ。これぞヨルシカの真骨頂と言えるのではないだろうか。

テキスト:平賀哲雄

◎リリース情報

・BD/DVD『ヨルシカ Live「前世」』
2021/05/26 RELEASE
初回BD:UPXH-9029 6,050円(tax in.)
通常BD:UPXH-1075 4,950円(tax in.)
初回DVD:UPBH-9569 4,950円(tax in.)
通常DVD:UPBH-1499 3,850円(tax in.)
収録尺:約75分
※初回限定盤:特殊ケース仕様(スライド式ケース) / デジパック / ブックレット
※通常盤:トールケース
収録内容:
01.Overture
02.藍二乗
03.だから僕は音楽を辞めた
04.雨とカプチーノ
05.パレード
06.言って。
07.ただ君に晴れ
08.ヒッチコック
09.青年期、空き巣
10.春ひさぎ
11.思想犯
12.花人局
13.春泥棒
14.海底、月明かり
15.ノーチラス
16.エルマ
17.冬眠
https://va.lnk.to/zense

UNIVERSAL MUSIC STORE限定セット
Blu-ray初回限定盤付き:14,850円(tax in.)
DVD初回限定盤付き:13,750円(tax in.)
セット内容:
・『ヨルシカ Live「前世」』Blu-ray初回限定盤 / DVD初回限定盤
・TRUE WIRELESS STEREO EARPHONES(S01-ヨルシカ)
電源オン/オフなどを知らせるsuisの音声ガイド入り仕様
簡単ペアリング / 自動再接続 / マルチペアリング
音楽の再生停止 / 曲送り戻し / 音量調節
連続再生 約6時間 / 省電力機能 / バッテリー残量通知
通話&音声アシスタント対応マイク搭載
わずか5gの軽量ボディ / タッチセンサー式の操作ボタン
高速充電 約1.5時間 x6回の充電が可能なケース付
IPX5の防水性能 / 外音取り込み機能
※予約は2021/3/22(月)18:00から受付開始いたします。(4/30(金)23:59まで)数量限定のため、予定数に達し次第、販売期間中であっても受付を終了いたしますので、あらかじめご了承ください。
・ヨルシカ Live「前世」【初回限定盤】【DVD】+オリジナルイヤフォン
https://store.universal-music.co.jp/product/d2bj1180/
・ヨルシカ Live「前世」【初回限定盤】【Blu-ray】+オリジナルイヤフォン
https://store.universal-music.co.jp/product/d2xj1011/
※お一人様1回まで、1点までのご購入とさせていただきます。

◎ヨルシカ Live「花人局 / 春泥棒」YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=Ht6lcYg9Zfo

・EP『創作』
2021/01/27 RELEASE
Type A:UPCH-2215 2,090円(tax in.)
Type B:UPZZ-1839 1,100円(tax in.)

・アルバム『盗作』
2020/07/29 RELEASE
初回限定盤(書籍/カセット付属):UPCH-7562 5,500円(tax in.)
通常盤:UPCH-2209 3,300円(tax in.)
https://yorushika.com/

◎ヨルシカ「春泥棒」YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=Sw1Flgub9s8

◎ヨルシカ「春泥棒」配信リスト
https://VA.lnk.to/SpringThief


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