『マイ・ネーム・イズ・マイケル・ホルブルック』MIKA(Album Review)

2019年10月8日 / 18:00

 グラフィック・デザイナーやモデル業もこなす、UKならではのスタイリッシュさを地でいくイケメン・シンガーソングライター、MIKA(ミーカ)。2007年発表の処女作『ライフ・イン・カートゥーン・モーション』は、イギリスで1位を記録した他ヨーロッパ各国でTOP10入りしたのも頷ける、文句のつけどころがない完璧なポップ・アルバムだった。

 1stの商業的な成功を超えることはできなかったが、その後リリースした3枚のアルバムもクオリティは高い。3作目の『ジ・オリジン・オブ・ラヴ』(2012年)は、フロア向けのダンス・トラックが主だったせいか賛否が分かれたが(個人的には良かった)、原点のサウンドに回帰した『ノー・プレイス・イン・ヘヴン』(2015年)では“らしさ”も取り戻し、セールス的にも回復の兆しをみせた。

 本作『マイ・ネーム・イズ・マイケル・ホルブルック』 は、その前作から4年ぶり、通算5枚目のスタジオ・アルバム。様々な感情を表現したというコンセプトを基に制作したそうで、カバー・アートもモノクロの顔を中心に、虎や虹、日本画風のアートなど、様々な感情が溢れ出した仕上がりになっている。さすが英ロンドン在住のアーティスト……と、言わざるを得ない凄み。

 5月にリリースした1stシングル「アイスクリーム」は、ビートの刻み方やコーラスワークがプリンスまんまの、ミネアポリス風ファンク・ポップ。ファルセットと地声を巧みに使い分けた官能的なボーカルは、自身が敬愛している故ジョージ・マイケルの「アイ・ウォント・ユア・セックス」(1987年)あたりを彷彿させる。時代をタイムスリップした夏らしいミュージック・ビデオも、レトロ感満載でよかった。赤のサテンシャツでクネクネ踊る仕草なんて、もう……。

 その流れを引き継いだ4thシングル「ディア・ジェラシー」も、彼等が絶頂期に生み出したサウンド・プロダクションを下敷きにしている。もっとも、ジョージを参考にしていると本人が公言しているワケだから、どの曲においてもそう感じるのは必然といえるんだけど。この曲には、エド・シーラン等を手掛けるUKの女性シンガーソングライター、エイミー・ワッジも制作に参加している。

 マリンバとシンセを響かせるディスコ・ステップの「サンレモ」も、80年代的アプローチを感じさせる。タイトな音を綿密に組み立てていくライティング・センスには、ただ脱帽。古い映画のような造りのモノクロ・ビデオでは、自身のセクシャルを表現した一面も垣間見えた。同調の曲では、レイニーあたりの音に近いスペイシーなエレクトロ・ポップ「クライ」も良かった。「クライ」は、英ロンドンを拠点とするソングライター=マーク・クルー(バスティル、カルヴィン・ハリス等)との共作。

 8月発表の2ndシングル「タイニー・ラヴ」は、ピアノの伴奏で静かに幕を開け、リズミカルなバロック・ポップ風のヴァースから再び弾き語りの静かなアウトロで幕を閉じる、アーティスティックな一曲。サウンドのみならず、ミュージック・ビデオもより芸術的な内容を追求すべく、ショート・フィルムのような仕上がりとなった。同ビデオを手掛けたのは、エリー・ゴールディングやディスクロージャーを手掛けたW.I.Zというアーティスト。この曲を全編オーケストラ風に仕上げた、ラストの「タイニー・ラヴ・リプリーズ」では、子供たちのコーラス効果も相まって感涙にむせぶ。

 アルバムのリリース直前に発表した「トゥモロウ」は、タイトルや歌詞の世界観をそのまま音にしたようなブリティッシュ・ポップ。突き抜けるようなファルセットが何とも心地よく、本作中最もミーカの歌唱力が活かされた曲といえる。これだけ繊細に歌う曲もあれば、ファンキー且つエキサイティングな「ステイ・ハイ」や、時にラップのようなフレーズも登場するハジけるロック・ポップ「プラットフォーム・バレリーナス」もあるから面白い(終盤のゴージャスなコーラスも最高!)。

 「レディ・トゥ・コール・ディス・ラヴ」は、英ロンドン出身のフォーク・シンガー=ジャック・セイボレッティとのデュエット曲。ミーカのフェミニンなボーカルと、ジャックの男気溢れるテノールが高低差を生み出し、曲の持ち味を引き立たせる。メロウ・チューンでは、ピアノの弾き語りをする様子が目に浮かぶ「パロマ」や、感情的にシャウトする60年代風ロック・バラード「アイ・ウェント・トゥ・ヘル・ラスト・ナイト」~ファルセットが曲の大半を占める「ブルー」も傑作。

 本名=マイケル・ホルブルックを冠した本作は、音楽性やボーカル、歌詞の世界観含め、前4作以上に自分らしい音楽を追求し、解き放たれたアルバム。かといって、これまでのアルバムを愛聴していたリスナーにも違和感をもたせず、マンネリ化も与えない。プリンスの過去作同様に、数十年経っても蠱惑的であり続けるのでは?

Text: 本家 一成


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