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2002年にアルバム・デビュー。第2作が母国で25万枚超えの大ヒットを記録し、英米の主要メディアで絶賛されたイダン・ライヒェルが、「ビルボードライブ東京」で本邦お披露目公演を行った。スタジアム・コンサートを満員にするほどのスーパースターは、しかし日本での知名度に温度差があることは否めない。今回はプレミアム感の高い一夜限りのステージ。昨年11月に取材で訪れたエルサレムの《ジャズ&ワールド・ミュージック・ショーケース》で、イダンは我々関係者のためにセッティングされたパネル・ディスカッションにパネラーとして登場した。ファンが羨むような形での初対面だったこともあって、個人的な期待感が高まっていたのである。
ビルボードのエントランスは若い女性たちで賑わっていた。イスラエルのコスメブランド「SABON」の協賛ゆえであり、華やかな雰囲気の演出が嬉しい。
バンドは6人編成のイダン・ライヒェル・プロジェクト。ホーン・セクションやストリングスが加わった大所帯のライブ実績があって、それも魅力だが、今回はイダンの音楽性の核を体感するにふさわしい編成となった。まずイダン(vo,p)、ベース&バイオリン、ドラムスのトリオによる、静かなムードで開幕。初体験の生歌唱を聴いて、たちまち声の美しさに魅了されてしまった。もうこの1曲目だけでイダンが世界中の音楽ファンから支持されている理由が納得できたのだ。「フラジャイル」を想起させる「Circles」は、イダンがスティング(vo,b)に例えられるカリスマ性の持ち主であることの表れではあるまいか。
MCのイダンは初対面のファンに対して、わかりやすく自身の音楽性を語ってくれた。海外で演奏することは、ワールド・ミュージックと呼ばれる自身の音楽を伝えることだという。母国のメインストリーム音楽を担うアンバサダーとしての役割を、強く意識する姿勢を感じさせた。
4人目に登場したフルート奏者は荒々しい息遣いを交えて、バンド・サウンドに生命力を吹き込む。さらに女性歌手2名が加わってバンド・メンバーが全員揃うと、踊りながら歌うナンバーで祝祭空間を演出。プロジェクトの真髄を堪能させてくれた。ボーカリストにとどまらずピアニストとしての魅力も堪能させてくれたイダン・ライヒェル。今後、価値が増すこと間違いないステージであった。
Text:杉田宏樹
ジャズ・ジャーナリスト、『ジャズと言えばピアノトリオ』著者
Photo: Yuma Totsuka
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