世界のセルメン、やはり偉大なり

2014年5月18日 / 17:00

 今年は音楽界のレジェンド、セルジオ・メンデスの初来日から50周年の記念の年だ。1964年に日本に足を踏み入れた日から日本のことが好きになり、来る度にその気持ちが強くなっているという。昨年は、日本のみの特別企画アルバムもリリースし、日本への特別な愛情は作品にもなった。そのセルジオ・メンデスが1年ぶりにビルボードライブで来日公演を行った。

 ギターに、ベース、ドラム、パーカッションの4人がステージに上り、演奏し始めたのは「マガレーニャ」(カルリーニョス・ブラウン)のイントロ。ここ20年のセルジオ・メンデスの最も親密なパートナーの1人であるカルニーニョス・ブラウンのこの曲は、他のアーティストのコンサートで取り上げられるときは、終盤のハイライトとして演奏されることが定番だが、セルジオ・メンデスは最初に持ってくる。聴いているこちらは最初からコンサートを全身で楽しむスイッチが否応無しにオンに入れられる。イントロから間もなく、メイン・ヴォーカルのグラシーニャ・レポラーセ(セルジオ・メンデス夫人)ら女性ヴォーカル3人と、セルジオ・メンデスがステージに昇る。最初から会場全体がステージに釘付けだ。

 続くのは英語Verの「3月の雨」(トム・ジョビン)。セルジオ・メンデスらの4人のヴォーカルがそれぞれ囁くように睦まじく歌う。1つの家族のようなその姿に、この曲の作者のトム・ジョビンもジョビン・ファミリーとともに演奏をしていった姿が重なってくる。ボサノヴァの親密さが滲み出るボサノヴァ・パートは続き、次の曲はセルジオ・メンデスがソロで歌い出した「彼女はカリオカ」(トム・ジョビン、ヴィニシウス・ヂ・モライス)。次の「イパネマの娘」(トム・ジョビン、ヴィニシウス・ヂ・モライス)を歌い出す前には、ボサノヴァ誕生から50年以上を経ても世界中で歌い続けられるこの曲を讃えた。続いて、今年が生誕100周年の年であるバイーアの巨匠ドリヴァル・カイミのメドレー。「ミラグリ」(ドリヴァル・カイミ)から「サンバ・ダ・ミーニャ・テーハ」(ドリヴァル・カイミ)へ続く。ソロ・アルバムも発表しているブラジル人のギタリストのクレベール・ジョルジのブラジリダーヂ溢れる演奏が目立つパートだった。

 その後は、ぐっと雰囲気が変わり、06年の『タイムレス』以降のセルジオ・メンデスの音になり、ステージに米国人ラッパーのH2Oが登場。「おいしい水」(トム・ジョビン、ヴィニシウス・ヂ・モライス)と「ア・ハン」(カエターノ・ヴェローゾ、ジョアン・ドナート)で、H2Oの英語詞のラップと、ヴォーカル陣のポルトガル歌の歌が有機的に絡み合う。

 H2Oはここでステージを下り、「歌」を聴かせる曲が続く。「ホーダ」 (ジルベルト・ジル)と「オ・キ・セラー」(シコ・ブアルキ)だ。「オ・キ・セラー」はブラジルだけでなく軍事独裁時代のラテンアメリカ諸国の民衆の心で歌われ続けた曲だが、グラシーニャ・レポラーセがソロでしっとりと歌い上げた。セルジオ・メンデスのキーボードとグラシーニャのヴォーカルという夫婦のデュオでのスタイルから歌い出された。

 グラシーニャの美しい歌声が会場中に響いた後は、ヴォーカル陣がステージから一度下がり、アフロ・ブラジルのリズムをメインに据えたパートが続く。バイーア出身のブラジル人パーカッショニストのジビのパーカション・ソロも挟みながら、「コンソラサォン」(ヴィニシウス・ヂ・モライス、バーデン・パウエル)、「ベリンバウ」(ヴィニシウス・ヂ・モライス、バーデン・パウエル)、「プロメッサ・デ・ペスカドール」(ドリヴァル・カイミ)のメドレー。ライブは佳境へ向かっていく。

 ラッパーのH2Oがステージに戻り「サーフボード」(トム・ジョヴィン)、女性ヴォーカル陣も戻り「フール・オン・ザ・ヒル」(ジョン・レノン、 ポール・マッカートニー)に「恋の面影」(バート・バカラック、ハル・デヴィッド)と、A&M時代のセルジオ・メンデスの英語曲カバーの2大ヒット曲が、2014年に甦る。後者ではH2Oがフィーチャーされた。

 アンコール前の2曲は「ウルチマ・バトゥカーダ」(セバスチャン・レポラーセ)と「マシュ・ケ・ナダ」(ジョルジ・ベンジョール)。前者は、グラシーニャの父のセバスチアン・レポラーシの作品だが、昨年の日本企画アルバム『ランデヴー』でEGO-WRAPPIN’の中納良恵が日本語詞を付けており、後半は日本語で歌われた。「マシュ・ケ・ナダ」では会場総立ち。こういう誰もが期待している曲を、期待以上にかっこ良くかつ盛り上げて披露する。セルジオ・メンデス、やはり別格である。

 アンコールの1曲目は「パイス・トロピカル」(ジョルジ・ベンジョール)。最も新しいブラジル音楽のトレンドの1つであるテクノブレーガを大胆に取り入れたアレンジ。最後は、「トリステーザ」(ハロルド・ロボ、ニルティーニョ)を、カーニヴァルのサンバ感をたっぷりと醸し出すパーカッシヴなアレンジで披露した。満場の拍手の後、観客全員が、満面の笑顔で満足していたことが、このライブの満足度を何よりも物語っていた。セルジオ・メンデスのヒストリーとリアル・タイム・ミュージックの双方を充分に感じられる充実した内容だった。

 今年の2月に73歳となった「世界のセルメン」ことセルジオ・メンデスは、ニューアルバム『マジック』の発売を来月に控えている。ワールド・カップ公式ソング「ワン・ネイション」(セルジオ・メンデス、カルリーニョス・ブラウン、ジョン・パウエル)も収録し、06年の名作『タイムレス』級にシーンに大きなインパクトを残しそうな重要アルバムだ。決して立ち止まることのなりセルジオ・メンデスのリアル・タイム・ミュージックは、ライブでもアルバムでも期待を越えていく。世界のセルメン、やはり偉大なり! (花田勝暁)

 

◎公演情報
セルジオ・メンデス
ビルボードライブ東京 2014/5/15(木)~5/17(土)
ビルボードライブ大阪 2014/5/19(月)~5/20(火)
More info:http://www.billboard-live.com/

 ◎リリース情報
『マジック』
2014年6月18日リリース
SICP-4140 ¥2,400(税抜き)


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