ZAZEN BOYSライブレポート 鬼の遊びを覗いてみれば

2013年7月19日 / 21:42

 ZAZEN BOYSとしては久しぶり(4年ぶり)となるアルバム『すとーりーず』を、去年9月にリリース。その後のツアーを経て、この春から夏にかけては、曲作りと歌を担当する中心人物、向井秀徳のソロ、【向井秀徳アコースティック&エレクトリック】でのツアーがあった。今回は、夏フェス・シーズンを前に東名阪をまわるワンマンツアーの一環だ。リリースから、ほどよい間を空けてのツアーだけに、新旧のナンバーがどう織り交ぜられていくのか、愉しみでもあった。

 開演前、場内に流れていたのは、Van Halenの「Jump」。向井秀徳といえば、最初のバンド、Number Girlの頃からTelevisonの「Marquee Moon」が定番の出囃子だったのだが、なぜか「Jump」。それもクドいくらいに延々とリピート。えーっと、今日は誰のライブ観に来たんだっけ? と、だんだん感覚が麻痺してくるなか、定刻を少し過ぎてメンバー登場。

 最後に現れた向井秀徳が、ステージ中央に据えたシンセの前に立つと、おもむろにコードを押さえる。あれ? このフレーズは……? そう、さっきから聞き飽きるくらい聞かされた「Jump」なのである。同時に場内からは歓声……というよりは失笑めいたどよめきが……。向井は、あのお馴染みのイントロを弾き終えると、最初の一声、「I get up!」と雄叫びを発すると、メンバー一同、ドシャメシャに演奏を崩して1曲目、「I don’t wanna be with you」へ突入。ゆっくりと、重いビートで引きまわされるエレクトロファンクが、ヒリヒリくる。

 「本能寺で待ってる」の一声で繋がった2曲目「Honnoji」から、向井もテレキャスターを持ち、メンバーを見渡す。ギターの吉兼聡は楽器を手離し、ロボットダンス(らしきもの)を披露。この、必ずしも必要と思えない《遊び》に若干の困惑を覚えつつも、ブレイクが入ると、息を呑むような緊張感が一瞬で訪れる。スティックを構えたまま、向井から一瞬たりとも目を離さず、キッカケを待っているドラムス松下敦の目つきに吸い込まれる。

 この、「一寸先は闇」な感覚。ZAZENのライブが中毒性を持つゆえんのひとつだろう。

 2003年に北海道の《ライジング・サン・ロックフェスティバル》で鮮烈な初ライブをおこなってから、今年の夏でちょうど10年を数えるZAZEN BOYSだが、当初からずっと変わらない代表的なモチーフがある。ライブのあいだじゅう、随所に現れる「繰り返される諸行無常/よみがえる性的衝動」という言葉がそれだ。去年出た最新アルバムも、この言葉で始まっていた。

 「報われない愛」とか「明日への希望」といったものはZAZEN BOYSの曲には登場しない。もっと一次的な欲が基調になっている。性、そして(酒やポテトサラダを含む)食に関する、いってしまえば即物的な(それだけ根源的ともいえる)欲望や、刺激を求める衝動だ。

 のっぴきならない袋小路にはまりこんだ焦燥を歌うこともあるが、それとて気分の表層の部分である。「なんで自分がこんな目に……」といった泣き言や繰り言は皆無。つまり私小説的な自分語りが全くない。ただその状況を、「冷凍都市の暮らし」や「ずぼっとハマった泥沼」といった言葉でザクリと言い当ててみせるだけだ。それが、まあなんとも格好よい。

 ハードボイルド、と呼んでもいいかもしれないが、感情をどこかに置いてきぼりにしてきたようなこの手ざわりは、やはり《鬼》のそれではないだろうか。古来の民話に登場する、近代以降の理屈や倫理ではどうにも推し量れない展開をもたらす《鬼》。向井秀徳を見ていると、そんな鬼の姿を想起してしまう。

 ライブの中盤、ステージの端のワゴンに置いてあるクーラーボックスを開け、向井が自分でドリンクを作り始めたことがあった。「いいちこ」と思しき瓶から焼酎を紙コップに注ぎ、水で割り、そのままワゴンに腰かけて3人の演奏を見ている。なにか、人間に踊らせておいて、それを鬼が傍で眺めているようだった。

 そんな連想から、鬼の遊びを覗き見してコブをつけられてしまう村人Aのような気分で観たこの日のステージ。 結局、「Jump」のイントロは計4回披露された。4度目は、「Cold Beat」の曲なかに挟み込んできた。繰り返されるジャンプは無常というくらいに執拗に。

 過去の曲も聴くことができたが、最新アルバムである『すとーりーず』からは全曲をプレイ。本篇の最後に披露された2曲も、ともに最新盤からだった。どちらもドラマチックなナンバー。「アブラゼミがミンミンミン、ガラガラの商店街/物語は夢の中」と《ものうい夏、けだるい夏にループする、やさぐれた焦燥感》が見事に焼きつけられた「すとーりーず」。そして、初期Number Girlを彷彿とさせるバンドサウンドで、切ない初夏の情景が描き出される「破裂音の朝」。やはり夏に聴くZAZENは最高である。

 ……と、しめてしまえばスマートなのだが、アンコールにもう一波乱。やはりあれは壮大なネタふりだったのか。またも繰り返されたのが「Jump」だった。ただし今回はイントロに留まらず、ついに完奏するに至った。ライトハンドでのギターソロも、シンセの間奏もしっかりと。余興というには、あまりに力のこもった演奏。

 なぜ、ここまで「Jump」に固執するのか。前々々作(『ZAZEN BOYS 3』2006年)の頃、ステージにシンセを導入したときにも、この曲をカバー(というか、コピー?)したことがあったようだが、なぜまた今なのか。先日のVan Halenの来日公演から何らかのインスピレーションを受けたのか。もともとこの曲が好きだったからか。向井秀徳と親交の厚い宮藤官九郎が脚本を手がけるドラマ『あまちゃん』で、鉄道マンの大吉がカラオケで歌っていたからか。それとも、ただの気まぐれなのか……。ともかく真意を測りかねるこの感じ。これこそ、鬼の鬼たるゆえんではないだろうか。

 そのあとの、ほんとうのラスト曲「Asobi」の一節、「まだまだ遊び足りない」に鬼の本気を感じながら、次もまた、物陰から覗いてしまうだろうなと思った。

[公演情報]
2013年7月11日(木)
梅田クラブクアトロ

Text:大内 幹男


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