尾崎豊の瑞々しくも真摯な10代のライヴ風景を閉じ込めたライヴアルバムの傑作『LAST TEENAGE APPEARANCE』

2022年3月23日 / 18:00

尾崎豊、生前最後の全国ツアー『TOUR 1991 BIRTH』とアリーナツアー『TOUR 1991 BIRTH ARENA TOUR 約束の日 THE DAY』の全55公演のライヴパフォーマンス中から、楽曲毎にベストテイクをセレクトしたライヴアルバム『LAST TOUR AROUND JAPAN YUTAKA OZAKI』が3月23日にリリースされた。併せて、松屋銀座8階イベントスクエアにおいて『OZAKI30 LAST STAGE尾崎豊展』も開催されている。この機会に、当コラムでは過去数作発表されているライヴアルバムから、10代の尾崎豊のライヴコンサートを収録した『LAST TEENAGE APPEARANCE』を紹介する。“PERFORMANCE”や“ACT”ではなく、“APPEARANCE”というのがぴったりくる、ドキュメンタリータッチの作品である。
ライヴ音源ならでは楽しみ方

たぶん10年振りに聴いたが、今聴いても尾崎豊というアーティストをきっちり閉じ込めたライヴアルバムだと痛感させられた。没後30年、リリースされて35年が経過してなお、その音像は鮮烈なままである。まず、オープニングナンバーがM1「卒業」というのがいい。『LAST TEENAGE APPEARANCE』というタイトルに相応しい幕開けであるし、この時期の尾崎豊がどういうシンガーソングライターであったのかをはっきりと示すベストな選曲だったと言える。声が若い印象なのは当然として、少し声が上ずっているような箇所もあったりして、そこも悪くない。ちょっと緊張してたのかな…と勝手に想像したりできるのも楽しいところ。イントロを始め、随所でオーディエンスの歓声が重なるところでは、“ここで尾崎が何かしたのかな?”と思わせるのもライヴ盤ならではだろう。映像作品も悪くはないけれど、そうした想像力を搔き立てるという意味では音源のみのほうが何倍も優れていると思う。

M2「彼」は3rdアルバム『壊れた扉から』の収録曲。この『LAST TEENAGE~』は1985年11月15日の代々木オリンピックプール公演の模様を収録したもので、『壊れた扉から』は同年11月28日発売だったので、ほとんどの観客は初めて耳にするものだった。そう思うと何となく拍手のボリュームも少し抑えめな感じがして、若干オーディエンスが面食らっているような気がしなくもないが、それはまったく勝手な想像にすぎないだろう。ただ、M2はAOR風味が強くて大人っぽい印象はあることは確か。当日そこにいた人たちがどう感じたかは気になるところだ。個人的には、「彼」はそののちに5th『誕生』に収められ、9thシングルにもなった「黄昏ゆく街で」に近い雰囲気もあって、そのプロトタイプとは言わないまでも、“こういうナンバーを20代以降の方向性のひとつと考えていたのかもしれないなぁ”と、栓無きことだと知りつつも想いを馳せてしまう楽曲である。10代の尾崎を象徴するM1「卒業」に続いて、アーティストとしてのその後を想像させるM2「彼」とは示唆に富んだ選曲だったと言えるだろう。

M1、M2はロックコンサートとしての開放感にやや欠けると言えばそうかもしれないが、そのあとにM3「Driving All Night」、M4「Bow!」と持ってきている辺り、“さすがに心得ていらっしゃるなぁ”と、そのセットリストの巧みさには今さらながらに感銘を受けたところだ。M3もまた『壊れた扉から』収録曲であるが、5thシングルとして同年10月21日にリリースされていたことに加えて、その前年からすでにライヴの定番曲であったというから、盛り上がりは必然であった。本作収録のテイクは、Bメロから歌に絡むサックスがスタジオ収録版とよりも明らかに前に出ていて、ライヴの荒々しさを如何なく感じさせるものである。荒々しさと言えば、M4もいい。ブルージーでルーズなギターリフから始まり、そこにサックスが絡む様子は、ブルースハープで始まり、どことなく爽やかな印象もある2nd『回帰線』収録版とは印象が異なる。また、『回帰線』版ではオルガンが鳴っているのに対して、このライヴテイクではピアノが踊っていて、やはりライヴならでの躍動感を感じるところである。
さまざまな尾崎豊の魅力を再確認

『LAST TEENAGE~』は2枚組で、アナログ盤ではM1~M4がDISC 1 のA面。そして、M5~M7が同B面。ここでのナンバーがまた粋だ。M5「街の風景」は1st『十七歳の地図』のオープニングであると同時に、尾崎がデビューするきっかけとなったCBSソニーのオーディション『CBS SONY Sound Development Audition 1982』で歌われた楽曲の中のひとつである。ファンならばご存知ことと思うが、この楽曲はデモテープの段階で10分を超えており、プロデューサーである須藤晃氏のアドバイスの元、時間が短縮され、5分程度になってアルバムに収録された。その際に歌詞も削除されている。それが以下の部分だ。

《人間喜劇さ その通りだろうよ/だけど何がこうさせるのか わからないよ/愛情の渦だよ 窮屈になるだけ/だけど誰が止めるというの/祈るしかない生き物よ》(M5「街の風景」)。

ライヴではこの部分もしっかりイキている。しかも、この『LAST TEENAGE~』バージョンはスタジオ録音に比べてテンポも落ちている。そうかと言って、まったりしているかと言えば、その逆で、1番の《雑踏の下埋もれてる歌を見つけ出したい》の《歌を》をリフレインしたり、サウンド面では、2番の《黙ってておくれ》のあとでブレイクを入れたりと、尺は長いものの、極めてスリリングなテイクに仕上がっている。

テンポが落ちていると言えばM6「ダンスホール」も同様。ちょっと個人的な思い出話をさせてもらうと、自分が尾崎豊をちゃんと聴いたのはたぶん『LAST TEENAGE~』で、熱狂的な尾崎ファンの友人の車に乗せてもらう度に必ずと言っていいほど流れていたので、自然と馴染んでしまったような格好だった。そののちに『十七歳の地図』を聴くことになるのだが(それも彼の車の中だったように思うが)、そのスタジオ録音版はテンポが速めな上、どこかさわやかな感じがして、正直言って違和感はあった。よって、今も個人的にはこのライヴ版のほうが好みだ。歌詞の世界観にある気怠さというか、寂しさ、虚しさ、あるいは優しさといったものはこちらのほうが強く感じられるように思う。そんな、言わばじっくりと聴かせるナンバーに続いては、一転、ポップでアップテンポなM7「存在」へと展開(コンサートでは、M6のあとは「TEENAGE BLUE」「米軍キャンプ」「坂の下に見えたあの街に」「SCRAP ALLEY」と続いて、M7ときたようである)。シリアスさも尾崎の魅力だが、こういう弾けるようなビートものもまた尾崎であることを実感させられる。ソウルテイストのR&R。サビで楽曲を引っ張るブラスが実に楽しいし、ハツラツとしたピアノもいい。

CDで言うところのDISC2は、それほど尾崎豊に詳しくない人でもそれが彼のものだと認識できるであろうナンバーを多数収録。粋の良いロックナンバー、M8「Scrambling Rock’n’Roll」はファン以外には馴染みが薄いかもしれないが、それでも、コール&レスポンスの《自由になりたくないかい/熱くなりたくはないかい》辺りで尾崎らしさを感じとれると思う。ちなみにこの楽曲、初めて本作を聴いた時にも間奏が長い印象だったが、これは尾崎が照明器具を取りつけた足場に昇って観客にアピールしていたからなのだとか。だとすれば納得だし、こういうのもライヴアルバムらしい味わいであろう。

軽快にドラムのビートが鳴らされる中、このアルバムの中で唯一のMCを露払いにして披露されるのがM9「十七歳の地図」。サックスのイントロがスタジオ収録音源以上に元気の良い印象だし、改めて聴くとサビ前が結構ポップであることが分かって、聴いてて自然とアガる。歌がやや粗いのはライヴゆえに当然としてそこは差っ引いても、歌にはライヴならではの感情が込められているような気がするのは筆者の気のせいだろうか。

次のM10「路上のルール」は、これも3rd『壊れた扉から』収録曲で、これもまたおそらくこのツアーの時までの聴いていたオーディエンスは少なかったと思われる。だが、この楽曲もイントロからして実にポップであるからして、場内の盛り上がりには何ら問題もなかったと思わせる。実際のステージではこの間で「愛の消えた街」が演奏されており、本作ではM9の終わりがカットアウトされてM10のイントロ(というか尾崎のカウント)につながっているが、M10のアウトロでの観客の歓声はこの楽曲を受け入れた証だろう。
メロディメーカーとしての尾崎豊

DISC2後半(アナログ盤ではB面)は“That’s 尾崎豊”のつるべ打ち。もはや解説不要だろうが、蛇足を承知で強いて述べるなら──。M11「15の夜」は、《盗んだバイクで走り出す》というフレーズからエキセントリックなイメージが強い人も少なからずいるかもしれないし、一部トーキングスタイルなヴォーカルもあるにもあるが、改めて聴くと実にメロウなナンバーである。初めて聴く人も自然と聴き入ってしまうような魅力があると思う。M12「I LOVE YOU」もメロウで、柔らかいメロディーを持つバラード。綺麗なイントロも印象的だし、この主旋律は尾崎の少年っぽさの残る声質を最も的確に表すことができるメロディラインのような気がする。ロングセラーになったことも、多数のアーティストにカバーされたことも納得の、名曲中の名曲である。M13「シェリー」はツアーの最終日のラストだけあってか、だいぶ声が枯れているようだが、そこがまた何とも味わい深く感じられるし、ライヴならではのスリリングさを助長しているようでもある。ちなみに、このM11、M12、M13の3曲は、1991年の『TOUR 1991 BIRTH』と『TOUR 1991 BIRTH ARENA TOUR 約束の日 THE DAY』でもアンコールで披露されている。まさに自他ともに認める代表曲なのである。

と、個人的な見解を交えて、収録曲を振り返ったが、最後に本作を久しぶりに聴き返して感じたことをひとつ。それは、10代の尾崎豊が作った楽曲群のメロディーラインの確かさだ。尾崎豊というと、先にも述べたようにM11「15の夜」の《盗んだバイクで走り出す》や、それ以外でもM1「卒業」の《夜の校舎 窓ガラス壊してまわった》といった歌詞から、ややもすると今も1980年代における無軌道な若者の代弁者という捉え方が大勢ではなかろうか。それはそれで間違いではないかもしれないが、それを中心に語るのは、いささか偏り過ぎではないかと思う。10代であの表現力は、稀に見る才能の傑出であったことは疑いようがなく、歌詞に注目が集まることもむべなることではあろう。それも分かる。だが、日本人の琴線を刺激する親しみやすい旋律に乗せられたからこそ、当時、その楽曲群が多くのティーンエイジャーに届いたのではないだろうか。今回その想いを強くした。本作はライヴコンサートを収録したものでありながら、ヴォーカルパフォーマンスが実に丁寧なのだ。M4「Bow!」のラストのサビでややフェイクがあったり、先に指摘した通り、M8「Scrambling Rock’n’Roll」やM9「十七歳の地図」では客席にマイクを向けたりしているものの、案外…というべきか、勢いに任せて歌っているような箇所がほとんど感じられない。ひとつひとつの音符を丁寧に追っている印象だ。そう思うと、M5「街の風景」とM6「ダンスホール」がこのテンポになったことにも勝手に納得するところではある。真偽のほどは不明だが、メッセージ性の強い歌詞であるがゆえに、ライヴステージにおいては特に、トーキングスタイルとなってもおかしくないところを、生真面目とも思えるほどにしっかりと歌っているように思う。10代ならではの真摯な姿勢が浮き彫りになっているとも言えるかもしれない。“ライヴ盤になることが決まっていたからちゃんと歌ったんだろう?”と思われるかもしれないが、[本作はソニー専属の音楽プロデューサーである須藤晃によって企画され、10代の活動記録の集大成として制作された。(中略)尾崎豊自身はこのアルバムの発売を了承したものの(中略)ミックスダウンにも立ち会わず本作には全く関与しなかった]というから、音源化の意識が強くはなかったようで、これがいつものヴォーカルスタイルではあったようだ([]はWikipediaからの引用)。歌詞をしっかりと伝えるために丁寧にメロディーの抑揚を付けたのかもしれないが、いずれにしても決してメロディを疎かにしなかったアーティストであったことは間違いない。この機会にそこは念押ししておきたい。
TEXT:帆苅智之
アルバム『LAST TEENAGE APPEARANCE』
1987年発表作品

<収録曲>

1.卒業

2.彼

3.Driving All Night

4.Bow!

5.街の風景

6.ダンスホール

7.存在

8.Scrambling Rock’n’Roll

9.十七歳の地図

10.路上のルール

11.15の夜

12.I LOVE YOU

13.シェリー


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