DOPING PANDAが新たな日本のロックを創造せんとした志しを『DANDYISM』に見る

2022年3月2日 / 19:00

3月2日、1月末に再結成を正式発表したDOPING PANDAがニューアルバム、その名もずばり『Doping Panda』をドロップ! 昨年水面下で書き下ろされ、レコーディングを行なわれたという新曲10曲を収録しており、ファン垂涎の作品と言って間違いなかろう。この復活劇を祝して、当コラムでもDOPING PANDAを取り上げる。メジャーデビューフルアルバム『DANDYISM』をピックアップしたが、これがバンドの意気込みを見事にパッケージした作品で、今聴いても熱く盛り上がってしまうこと必至の名盤である。
志の高さと高い熱量

某競技で禁止薬物に陽性反応が出た選手がいて、ビン・ドゥンドゥンがマスコットとなった冬季五輪が行なわれた年にDOPING PANDAが再結成するとは驚きである。この上ないタイミング。優秀なアーティストは未来を予見すると言うが、こうなると予見どころじゃなく、限りなく未来予知に近い、人智を超えたものと言っていいだろう。

…と、冗談はさておき、そのバンド名には強いインパクトがあることは間違いない。まず、個人的な思い出話をひとつ。あれは彼らがメジャーデビューする前だったと思うから、少なくとも2005年より以前のことで、もしかすると、彼らが参加したディズニーのトリビュートコンピレーションアルバム『DIVE INTO DISNEY』がリリースされた2002年頃だったかもしれない。いずれにしても、その名があまり巷に知れ渡っていなかった頃だ。ある飲み会でのこと。それは放送局、イベンター、出版などなどいわゆる音楽業界筋の有志が集った宴で、砕けた席ではあって、其処ここで“この間の○○○○のアルバムは良かったね”といった音楽談義を始め、“御社はこの時期にも人事異動があるんですか?”とか“お嬢さんにお子さんが生まれて△△部長さんもおじいちゃんですね”とか、何かざっくばらんにいろんな話をしていたように思う。そんな中、“最近、注目しているアーティストはいますか?”と誰かが話を振った。よくある漠然とした質問だが、間が持たなかったのか何なのか。それでも、そこにいる人たちは“やっぱ■■■■がいいですね”だったり、“最近はあんまり面白いと思うような人がいなくて…”だったり、思うままに話していたように何となく記憶している。はっきりと覚えているのは、そこにいた気鋭の編集者が“DOPING PANDAですね”と答えた時のこと。“ドーピングパンダ!?”と宴がドッと沸いた。“どんな感じなんですか?”といった音楽性の更問ではなく、“何ですか、それ!?”とか“すげぇ名前だな”とか、そのバンド名に対する驚きの反応がほとんどだった。若干、嘲笑も含まれていたようにも思う。彼らに対する情報が行き渡っていなかった頃ゆえにそのリアクションは仕方がなかったことだろう。

何が言いたいかと言えば、当時からやはりこのバンド名には相当のインパクトがあったというだけの思い出話だ。自分は…というと、DOPING PANDAという名前は知っていたので驚きはなかったが、少しは“どんなバンドなんだろう?”と思いつつも、その後、彼らの音源を手に取らなかった。どうしてだったんだろう? 然したる理由はなかったように思う。たぶん怠慢だっただけだ。余談だが、その点、そこにいたイベンターの人は偉かった。前述したようにDOPING PANDAはその頃はインディーズであったはずで、ライヴ制作会社はまだ絡んでなかったと思うが(たぶん)、その宴以後、迅速に動いたのだろう。その後のDOPING PANDAのライヴチケットをしっかり売っていたことも記憶に残っている。そこでビジネスとはかくも迅速に動かなければならないという教訓を得たような気もするが、自分はその教訓を活かすことがなかったので、出世とは無縁になったのだろう。ははは。

さて、DOPING PANDAで思い出した一番古い記憶を辿って冗談半分で綴ってみたが(調子に乗りました。すみません)、今回コラム執筆にあたって彼らのメジャーデビューフルアルバム『DANDYISM』を聴き、あの10数年前の酒の席で“ドーピングパンダ!?”と湧いた人たちはこの音源、引いてはDOPING PANDAの音楽性をどう思ったのか、だいぶ気になった。その時から終ぞここまでアルバムを一枚通して聴くことをしてこなかった自分が言えた義理ではないけれども、思わず“が…外見だけで実力を判断するなといういい見本だ…”というピッコロの台詞を借りたくなる音楽性であることを、恥ずかしながらもようやく認識した。

以下、その音楽性の一端を紐解ければ…と考えるが、最初に言っておくと、何よりも強調したいのは、このバンドの志の高さだ。熱量が高いという言い方で間違いなかろう。“ここから新たな日本のロックを創っていく!”という気持ちがサウンドに溶け込んでいるかのようである。どこまで本質に迫れるか分からないけれども、アルバム収録曲をザっと解説していこう。
デジタルで原初的な快楽をダメ押し

オープニングはM1「High Pressure」。呼吸音をサンプリングしてリズミカルにループさせたトラックに、女性による英語モノローグと、映画『2001年宇宙の旅』の人工知能、HAL 9000を彷彿させるような無機質かつデジタライズされた男性の声が重なる。バックのバンドサウンドはファンキー。ジャスト2分と短い楽曲ながら、ここから始まる音楽スタイルを雄弁に語っているかのような構造である。そこから一転、M2「Introck」はエッジーなギターリフから始まるパンキッシュなナンバー。インディーズ時代からの彼らのベーシックをうかがわせるような疾走感で迫る。これまた1分30秒と短いナンバーだが、中身は薄くない。とりわけ、以下の歌詞に彼らの意気込みが凝縮されているようで、実質M1~M2でオープニングを飾っていると言っても良さそうだ。

《I win the light over to my side./And you may be given the shock in this night.》(M2「Introck」)。

個人的には、YUTAKA FURUKAWA(Vo&Gu)の歌声、ヴォーカリゼーションに1970年代の日本のロックバンドに近い雰囲気を感じ、邦楽史の必然(?)のようなものを背負わせたくもなったりもするが、それを世は老害と呼ぶのだろう。反省。

M3以降はDOPING PANDAの本性、野望がどんどん露わになっていく印象だ。M3「Blind Falcon」はレゲエ…と言い切るには勇気が要るが、基本にあるのはそれだろう。サビは開放的に展開。キャッチーでありながらもレンジは広く、まさに隼が空に突き抜けるかのような旋律だ。こうしたメロディーセンスは、パンクはパンクでも凡百のそれとは明らかに一線を画していると思うし、間違いなくこのバンドの大きなアドバンテージであろう。それでいて、そこにストリングスを配すなどのサウンドの工夫も見て取れる。

M4「MIRACLE」はアルバムに先駆けてリリースされたメジャー1stシングル。サウンドの工夫はこのM4でも見受けられる。4つ打ちで、ラテンっぽいパーカッションも鳴っているダンスチューンと言ってしまうと簡単だが、決してひと口で語れるほどに単純なナンバーではない。原初的あるいは根源的とも言えるリズムだけで十分な享楽を与えてくれるところだが、そこにデジタルをあれこれ絡ませる。それによって、さらなる快楽をダメ押ししてくれるかのようだ。定期的に訪れる電子音もそうだし、ヴォーカルへのディレイのかけ方もそうだ。レコーディングならでは手法を加味することで、楽曲全体のアッパーさを増長している…という言い方でいいだろうか。これはDOPING PANDAの本質に繋がる話だと思うが、彼らの音源制作作業の実態は緻密に計算されたものであろう。基本は3ピーズのバンドサウンドであり、それをミックスした上で外音をあしらっていくのだと思われる。そこから、さらなるミックス、リミックスもなされることも多々あろう。複雑な作業であろうし、作業が進めば進むほど、ベーシックの乗りが隠されてしまう恐れがあるのでは…と、自分を含めて素人は考えがちではないかと思う。料理に喩えると分かりやすいだろうか。調味料のバランスが悪かったり、ソースの風味の濃淡が過ぎたりすると、どんなに高級な食材を用いても美味しい料理に仕上がらないのではないだろうか。その点、DOPING PANDAはメロディーはもちろんのこと、根底にあるバンドサウンドの躍動感をまったく損ねることなく、そればかりかデジタルを始めとした外音を配すことで、根底にある熱量を上げていく印象だ。料理で言えば、絶妙な調味料とソースで、食材そのものの旨味を何倍にもしていると喩えることができるだろう。
バランス感覚の面白さ

以下同文と乱暴に言い切ってしまうことも可能だが、もう少し続けよう。M5「The Fire -Alarmix-」も、(この時点の…と前置きしたほうがいいだろうが)DOPING PANDAらしさの最たるものだろう。TARO HOUJOU(Ba)とHayato Beat(Dr)のリズム隊の推進力が支えるファンクチューンであり、そこだけでも十二分にグルービーでダンサブルあるのだが、昭和の電子ドラムのようなフニャフニャとした音がそこに乗ることで、頭を空っぽにさせてくれるような脱力感を与えてくれる。誤解を恐れずに言えば、バカっぽい。バカっぽいが、きっちりとしている。これは相当に計算しないとできるものではないような気がする。

M6「Get You」はどこまで意図的なのか分からないけれど、カートゥーンのようなシアトリカルな箇所も含めて、この妙なテンションはここまで何度か述べてきた熱量、そこに通底していると考えていいと思う。M7「Moralist」はボサノヴァタッチからパンクに展開。M8「Hi-Fi」はキラキラとしたディスコティックなナンバーだが、ギターの音がかなり凶暴。いずれもそのバランス感覚が面白い。M7では滑るように流れる主旋律が印象的で、M8ではリフレインする《I love you》《hold me tight》がキャッチーと、それぞれタイプは異なるものの、ベーシックは良質、前述の喩えを用いれば食材の良さを確認できるということになろう。

M9「I’ll give (this happy time for you)」もファンクであるが、M5とは雰囲気が異なるところも、このバンドの懐の深さをうかがわせる。ダンスはダンスでも、いろんな躍らせ方を知っている人たちの所業といったところだろう。間奏のギターに先達へのオマージュを感じたのは筆者だけだろうか。実際どこまで影響を受けているのかは分からないけれど、この辺には彼らの音楽が聴き手を選ばないものであることを示しているようにも思う。また、M9は歌詞にも注目したい。

《このdelight持って行こうI hope you like my effort/いま未来見せるnightいつの間にかyou’ll stop crying》《どのくらいその部屋でhow long do you wait for whose coming?/その世界抜け出そうI can change your world now》《you pretended you never hear me but/I know you hear my brand new song/いつの間にか踊れ世界はsoul/止まらないit’s a happy time》(M9「I’ll give (this happy time for you)」)。

前向きで希望を感じさせる内容である。これを即ちDOPING PANDAの音楽性に結び付けるのはいささか短絡的過ぎるかもしれないが、ここに至るまで躍動的なサウンドを浴びていると、真っ直ぐに受け止めたくなるのが人情である。

ミドルテンポのM10「Snow Dance」はメロディアス。歌はゆったりとしていて、Bメロはどこかフォーキーだし、Jポップ的と言ってもいいかもしれない。冒頭はわりとシンプルなバンドサウンドだなと思いながら聴いていくものの、ソウルなコーラスが聴こえてきたり、サイケなストリングスが入ってきたりする一方で、後半のサビに重なるフィドルがカントリーっぽかったりと、さり気ないようにも大胆にも思えるアレンジが興味深い。

M11「Tell Me My Speaker Box」は跳ねるピアノが印象的なポップなシャッフルナンバー。古き良きR&Rの匂いもある。軽快なギターのカッティングに引っ張られるM12「Teenage Dandyism」は、ベーシックはやはりパンクだろうか。若干パーカッションのような音が聴こえるものの、サウンドはかなりシンプルのように思える。コール&レスポンス、シンガロング的な要素もあるし、ライヴバンドであることの矜持が少し含まれているのだろうか。

後半は大分駆け足で紹介したこともあってか、よく言えばバラエティー豊か、逆に言うと、やや彼方此方に行ってる作品と見る向きもあるかもしれないが、その辺も冒頭で述べた志の高さ、高い熱量ゆえのことと、あくまでも前向きにとらえたい作品である。本作はチャート初登場18位とメジャーデビュー作としては好発進。噂が噂を呼び、DOPING PANDAがフェスに参加した際には入場規制がかかるほどだったという。その約3年後に発表された2nd『Dopamaniacs』もチャート18位を維持と今思えば大健闘したのだが、それ以上に突き抜けることなく、2012年にバンドは解散を選んだ。解散時、YUTAKA FURUKAWAは“バンドを取り巻く商業的な環境は必ずしも良くはありませんでした”とコメントしたことから、スターに成り切れなかったことに忸怩たる思いもあったようだ。

そこから10年。再結成に寄せて、彼は“これから向かうのはあの時失った未来とは違う場所ですが、むしろそこへ向かうためにあの日僕らは道を分けたのかもしれないと、今はそんな気持ちです”とコメントしている。メンバーがそう言うんだから、向かう場所は10年前とは違うかもしれない。しかしながら、メジャーデビュー時に示したバンドのポテンシャルまでが違ったものになるとは思えない。『DANDYISM』でも見せた音楽性をさらに進化させ、シーンを揺さぶってくれることを期待したい。個人的には、10数年前のとある宴で“ドーピングパンダ!?”と言った人たちの鼻を明かしてほしいとも思うのだが…。
TEXT:帆苅智之
アルバム『DANDYISM』
2006年発表作品

<収録曲>

1.High Pressure

2.Introck

3.Blind Falcon

4.MIRACLE

5.The Fire -Alarmix-

6.Get You

7.Moralist

8.Hi-Fi

9.I’ll give (this happy time for you)

10.Snow Dance

11.Tell Me My Speaker Box

12.Teenage Dandyism


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