SILENT SIRENの足跡は邦楽シーンの成熟の証し。1stアルバム『サイサイ』に成長の萌芽を垣間見る

2021年12月22日 / 18:00

2021年12月30日をもって活動を休止するSILENT SIREN。12月15日には2枚のオールタイムベストアルバム『SILENT』と『SIREN』がリリースされたばかりで、現在、彼女たちは『年末スペシャルLIVE TOUR 2021「FAMILIA」』を決行中だ。ガールズバンドがブームではなくロックシーンにあって当たり前となった感のある2010年代。そんなシーンをけん引したバンドのひとつであることは間違いない。当コラムはその性格上、2010年以降の作品を取り上げることがほとんどないのだが、その活動に一旦ピリオドを打つこととなる彼女たちに敬意を表して、SILENT SIRENのインディーズデビュー作『サイサイ』を取り上げてみる。
メンバー全員が読モのロックバンド

SILENT SIRENの結成は2010年夏だというから、活動歴は11年間と少しといったところ。今は長期に渡って活躍しているバンドも多いので、彼女たちの11年間は決して長いものではなかろう。しかしながら、彼女たちの軌跡は邦楽シーンにとって小さくないものではないかと思う。2015年1月、メジャーデビュー後、ガールズバンド史上最速の2年2カ月での日本武道館でのワンマンライヴを開催したといった彼女たち自身の記録(※当時)もさることながら、2000年代の日本の音楽シーンにおいてSILENT SIRENのようなガールズバンドが出現したこと自体、シーンの成熟と見ることができるのではないだろうか。その“史上最速での日本武道館でのワンマンライヴ”もそうで、2015年に彼女たちが某バンドの記録を抜き、2017年にその記録もまた他のバンドに塗り替えられることになったが、そうしたガールズバンド同士がライヴ記録に関してしのぎの削ったことは、音楽シーンの多様性が増した証拠とは言えよう。

彼女たちの結成の経緯も興味深い。以下、若干長めだが、Wikipediaから引用させてもらう。[2010年夏、雑誌「CUTiE」で読者モデルをしていた吉田と梅村が、10-FEETの楽曲「RIVER」をきっかけに意気投合、お互いにバンド経験者だったことや音楽の趣味が合うと分かり、バンドをやろうという話に、その後、梅村とバイト先が同じだった山内と、寒川を誘い結成された。事務所に所属しているアーティストが集められたという感じではなく、純粋にメンバーたちの趣味として始まったバンドである](※原文ママ)。まず、10-FEETの「RIVER」をきっかけに意気投合したというのが面白い。「RIVER」は10-FEETの代表曲である。10-FEETは来年には結成25周年を迎えるわけで、今や日本を代表するロックバンドのひとつと言ってもそれは大袈裟な物言いでもなかろう。そう思えば、「RIVER」は今や日本のパンクロックを代表する一曲と言ってもいいかもしれない。

ただ、吉田 菫(Vo&Gu)と梅村妃奈子(Dr)が意気投合したのは2010年の話である。「RIVER」は[バンド結成5年目にしてオリコンチャート初登場30位を記録し]たが、そこから8年経ったあとのことである。しかも、2010年頃の10-FEETのアルバムは週間チャートのトップ10入りをするようになっていたとはいえ、「RIVER」が老若男女誰もが知っているようなナンバーかと言えば、そういうことでもない。いや、誤解しないでほしいのは、SILENT SIRENの話にかこつけて、10-FEETを腐したいわけではない。むしろ逆である。「RIVER」は日本国中の誰もが口ずさめる楽曲ではなかったにもかかわらず、リリースから8年を経たのち、音楽好き、バンド経験者の間で話題に上がったというところがいいではないか。吉田、梅村の間で「RIVER」についてどんな会話がなされたのかは分からない。分からないけれど、少なくとも彼女たちにとって「RIVER」はロックやバンドを語る上でのマスターピースであったとは言える。逆説的には、ロック好きの界隈で10-FEETがなくてはならない存在であったことが想像できる。この時期は日本のロックバンド、とりわけライヴ中心に活動しているバンドが音楽シーン全体において無視できない存在となっていたのである。

しかも、その意気投合し、バンドを結成しようとしたふたりが読者モデルだったというのも最高に面白いではないか。別にモデルが音楽をやって悪いわけではないことは重々知っている。モデルを経て歌手になったという人も少なくないわけではない。1966年にシングル「こまっちゃうナ」でデビューした山本リンダはそれに先駆けてモデルとして世に出ているし、1990年代から今に至るまでは、モデルから歌手に転身した人(あるいはモデルと歌手を兼任する人)は枚挙に暇がない。ただ、バンドとなるとわりと稀なことではなかろうか。パッと思い浮かんだところだと、1983年にデビューしたdip in the poolの甲田益也子がファッションモデルだったと記憶している程度。筆者はそっちの業界に詳しくなく、特に最近のことはよく分からないので、モデル出身のバンドもそれなりにあるのかもしれないが(結構あるなら先に謝っておきます。すみません)、少なくともメジャーシーンでは、2000年代以降もそれほど多くはない事例ではないかと思う。

SILENT SIREN結成の首謀者のひとりであった梅村がバイト先の山内あいな(Ba)を誘い、さらには寒川綾奈(Key)を加えてメンバーが揃ったが、ふたりもまた読者モデルであった。[事務所に所属しているアーティストが集められたという感じではなく、純粋にメンバーたちの趣味として始まったバンドである]ともある。やや皮肉めいた物言いであるような気もするが、それはともかくとして──こうしたバンド結成のいきさつも、ロックバンドが決して一部好事家だけのものでなくなった証左であろうし、パンクやインディーズのDIY精神がそのイデオロギーとしてリスナーに認知されたことの裏付けとも言えるのではないだろうか。読者モデルが自然とロックで意気投合し、誰に言われるでもなくバンドを組んだというのはそういうことではないかと思う。SILENT SIRENが結成されてメジャーデビューしたというのは、とりもなおさず日本のロックの裾野が広がったことを証明しているのである。(ここまでの[]はすべてWikipediaからの引用)。
パンクのDIY精神を感じるサウンド

デビューアルバムにはそのバンドの全てがある。…誰が言ったか知らないが、当コラムではよく用いる格言ではある。続いては、その言葉に準じて、彼女たちの最初の音源『サイサイ』を聴いて、SILENT SIRENというバンドとしての特徴を探ってみたい。

M1「ランジェリー」から活きが良い。イントロでの頭打ちのドラムからして溌剌としていて、景気のいい音楽が始まること間違いなし、といったオープニングである。やっぱり面白いのはその後のメンバーによるカウント=“3、2、1、GO!”。SILENT SIRENのファンやリアルタイムで聴いていたリスナーには違和感はなかろうが、古くからパンクロックを聴いていた身にとっては、あの疾走感に吉田 菫の可愛らしい声というのはギャップがある。だが、これも“変”でも“妙”でもなく、やはり興味深く感じる。今さらながら…だが、こういうパンクがあっても全然いいのだ。そのいい意味での声のギャップは随所に感じるところで、個人的にはM3「キミハテンキ」にそれが最もよく出ていると思う。Aメロ後半《もう段々 down down》、Bメロでの《Yeah! Yeah!》、サビでの《やり切ればいいじゃん》、そしてアウトロ近くの《もっと もっと もっと》。その辺が何とも“らしい”。そもそも彼女のヴォーカリゼーションは、少なくとも音源を聴く限り、圧しの強さや迫力で勝負するタイプではないと思う。(これもまた個人的な印象ではあるが)少女っぽい寄る辺なさがあると言ったらいいだろうか。ポジティブな内容の歌詞を歌うと、どこか健気さを感じさせる声のようにも感じる。その彼女のヴォーカルが他のメンバーの声で後押しされているというか、一致結束して何かに立ち向かっている感じがして、とても良いのだ。“ロックには何か大きなものに勝てるんじゃないかと思わせる何かがある”と某ロックアーティストが言っていた。SILENT SIRENを聴いてそれを思い出した。

バンド結成のきっかけが10-FEETの「RIVER」だけあって、本作に収録された楽曲はやはりパンク色が強い。楽曲のタイプがそうだというよりも、演奏にはパンクのDIY精神を感じるところである。ぶっちゃけて言えば、演奏がとてもうまいという代物ではない。そのアンサンブルに何か突出したものがあるかと言えばそんな感じもないけれども、個々のプレイは実直な印象ではあって、好感が持てるものだ。それでいて、いわゆるパンクのM1、ラウド系の匂いのするM4「チラナイハナ」、バラードM5「セピア」、如何にも2000年代ギターロックな感じのM6「サイレン」と、バラエティーに富んだナンバーにトライしている。…と書くと、ほとんど特徴のない凡百のパンクバンドのように感じられるかもしれないが、そこははっきりと否定しておく。その実直な演奏の中に、のちにつながる萌芽をしっかりと確認できるのである。

それもまたM3「キミハテンキ」である。総体としてはポップパンクチューンといった印象ではあるのだが、ちょこちょことダンスミュージックの要素が感じられる。シンセのループが特に耳に残るし、ドラムは4つ打ちとなる箇所もあり、ベースは時おり高音に昇っていくことでグルーブを創り出している。ラストのM7「All Right 〜“今”を懸ける〜」でも若干それを感じるところではある。キーボードのリピート、ベースラインのうねりもさることながら、ハイハットで16ビートを刻むドラムスに疾走感がある。ビートが若干食い気味な気もするし、楽曲全体が前のめりになっていく様子がいい。それらを即ちファンキーと言ってしまうのは流石に乱暴だろうが、そこにはSILENT SIRENならではアンサンブルがあることは間違いない。
のちの成長に繋がる前向きな姿勢

本作『サイサイ』から約5年後となる2017年3月、彼女たちは12thシングル「フジヤマディスコ」をリリースした。これまでのところ、SILENT SIRENのシングルでのチャート最高位ならびに最高売上を記録したシングルである。最もファン、リスナーに支持された楽曲と言うことができるだろう。この「フジヤマディスコ」は、タイトルからも分かる通り、ディスコチューンであり、ダンサブルかつファンキー。彼女たちならではのポップさはそのままに、とりわけベースが見せる派手なスラップや、単なる4つ打ちに留まらない多彩なドラムプレイからは、バンドが大きく成長したことをうかがわせるに十分なナンバーと言える。そのスタート地点がM3やM7であったと結論付けるのは簡単すぎるかもしれないけれども、その萌芽は確実に『サイサイ』にあったとは言える。

以下に抜粋した「フジヤマディスコ」の歌詞を掲載しておく。その歌詞からはこの時期のSILENT SIRENがさらならステップアップを目指さんとしている姿勢が垣間見える。アグレッシブな精神があふれているような内容だが、こうしたスタンスもまた『サイサイ』収録曲から感じられるところだ。彼女たちのバンドとしてのスピリットが感じられる歌詞を、「フジヤマディスコ」に続いてピックアップする。

《他の誰かと同じじゃ/気が済まないのに/誰かと違うと心細い/そんな呪縛を解いて》《誰もまだ 見たことない景色を/誰もまだ 踏み込んでいない場所を/この手で この目で 自分で 確かめたい》(12thシングル「フジヤマディスコ」)。

《後悔なんか したくないや、嫌!!/何かが弾けて 溶け出して/そうよ、ほら 駆け出して/立ち止まってなんかいらんない愛ah~♪》(M1「ランジェリー」)。

《いつだってそうなの 歌い、奏で、君に想いを伝えてゆくの/不器用なあたしは もっともっと上手くすべてをこなしたいのに/悲しい歌なんかじゃないのに/あふれてこぼれ落ちた涙/君との全てを音にのせて/あたしは伝えるの強く強く、歌うよ》(M3「キミハテンキ」)。

《今叫ぶの 今走り出すの/このメロディーは消えることなく/まだ輝くの みんな同じリズムで All Right》《ひとつひとつ 光が集まって/大きな力になるの/もっと今 輝くの みんな同じリズム刻んでくの/今この場所から All Right》(M7「All Right 〜“今”を懸ける〜」)。

アルバム『サイサイ』リリース後、その年の11月にSILENT SIRENメジャーデビュー。2013年4月にはメジャー1stアルバム『Start→』を発表。2015年には、冒頭で述べた通り、“史上最速での日本武道館でのワンマンライヴ”を実現させるなど、着実にステップアップしてきた。その間、寒川が黒坂優香子(Key)にメンバーチェンジした他、2021年に梅村が脱退するなど、決して順風満帆な道程だったとは言えないだろうが、バンドとしても確実に成長を遂げてきたことは、こうして音源を振り返るとよく分かる。2021年12月15日にリリースされた『SILENT』と『SIREN』はオールタイムベストアルバムなので、こちらを聴いてもらえれば、さらに彼女たちの足跡が感じられるのではないかと思う。活動休止に至るにはいろいろあったのだろうし、そこは察するしかないけれども、何年か後に再び結集する機会があればいいなと思う。再結集の折にはこれまでとは違った成長した姿を見ることができるのではないかと想像する。また、SILENT SIRENが10-FEETの「RIVER」をきっかけに結成されたように、彼女たちの楽曲で意気投合したファンがバンドを組んで、メジャー進出することになったら面白いし、結構真面目に願うところでもある。そんなことがあれば、日本のロックシーンはまた面白くなる。
TEXT:帆苅智之
ミニアルバム『サイサイ』
2012年発表作品

<収録曲>

1.ランジェリー

2.恋哀

3.キミハテンキ

4.チラナイハナ

5.セピア

6.サイレン

7.All Right 〜“今”を懸ける〜


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