ブルーグラスバンドでありながらポップさも持ち合わせたカントリー・ガゼットの『パーティーの裏切り者』

2021年9月17日 / 18:00

R&Bやブルースをベースに独自のロックサウンドを作り上げたローリング・ストーンズが、60年代の終わりから70年代初頭にかけてカントリーロックやスワンプロックに接近するのは、キース・リチャーズがグラム・パーソンズ(バーズ〜フライング・ブリトー・ブラザーズ)との親交を通してカントリー音楽の手ほどきを受けていたことが大きい。いわば、キースの指導的存在となったのがグラムだったわけだが、それを具体化したのが『レット・イット・ブリード』(’69)にフィドルで参加したバイロン・バーラインだった。『レット・イット・ブリード』に収録された「ホンキー・トンク・ウィメン」のカントリー・バージョン「カントリー・ホンク」は、バイロンの名を一躍高めた名演となった。そのバイロンが在籍していたブルーグラスグループがカントリー・ガゼットである。アコースティック編成であるにもかかわらず、ガゼットのサウンドはウエストコーストロックを思わせるポップな魅力に溢れており、ニューグラス・リバイバルと並んでブルーグラス音楽の新たな可能性を提示したと言えるだろう。今回は彼らのデビュー作で文句なしの傑作『パーティーの裏切り者(原題:Traitor In Our Midst)』(’72)を取り上げる。
南部と東部のブルーグラス

ブルーグラス音楽は19世紀後半からアパラチア山脈付近でイギリス移民の伝承音楽がアメリカに定着・発展したマウンテンミュージックをもとにして、マンドリン奏者のビル・モンローがブルース、ジャグバンド、ウエスタンスウィングなどの要素を盛り込んで作り上げた都市のポピュラー(商業)音楽である。ブルーグラスで使用する楽器は、基本的には電気を使わないアコースティックなものばかりで、ギター、フィドル、フラット・マンドリン、バンジョー、ベースで、ドブロが加わることも少なくない。

モンローはアメリカ南部のケンタッキー出身であり、誕生した頃のブルーグラスは泥臭いサウンドが持ち味であった。やがて、東部を中心にフォーク・リバイバルの波が起こると、ブルーグラスもブルースと同様に脚光を浴びることになる。60年代には、グリーンブライアー・ボーイズやチャールズ・リバー・バレー・ボーイズ(ブルーグラススタイルでビートルズのカバーアルバムをリリース)など東部にもブルーグラスのグループが登場するのだが、ビル・モンローが作り上げた南部の泥臭いブルーグラスとは違って、フォークの要素を含んだ洗練された演奏を身上とする先進的なグループが多かった。
ディラーズとディラード&クラーク

60年代に西海岸でデビューしたザ・ディラーズはミズーリ州出身のダグとロドニーのディラード兄弟が中心となって結成、彼ら及びグループに出入りした多くのメンバーが後のウエストコーストロックの礎を築いたと言っても過言ではないだろう。彼らの3rdアルバムにスカウトされたのが新進気鋭のフィドラーとして活動していたバイロン・バーラインで、タイトルも『ピッキン&フィドリン(ディラーズ・ウィズ・バイロン・バーライン)』(’65)という破格の扱いであった。

その後、時代の要請もあってカントリーロックへと転身したディラーズであったが、兄のダグはその方向性に賛同できず脱退、元バーズのジーン・クラークと共に当時としては革新的なサウンドを持つアメリカーナのグループ、ディラード&クラークを結成する。バックを務めるのはバーニー・レドン(元ハーツ&フラワーズ)、クリス・ヒルマン(元バーズ)、マイク・クラーク(元バーズ)らであった。バイロンも参加した2ndアルバム『スルー・ザ・モーニング、スルー・ザ・ナイト』(’69)をリリース後、グループは分裂する。クリスはグラム・パーソンズとフライング・ブリトー・ブラザーズ(以下、FBB)を結成(マイクとバーニーも後に合流する)、ジーンはソロとなり、ダグとバイロンはビリー・レイ・レイザムとロジャー・ブッシュ(ふたりとも元ケンタッキー・カーネルズ)、ドブロ奏者のスキップ・コノーバーを迎えてダグ・ディラード・エクスペディションとして少しの間ではあるが活動する。このときの演奏は映画『バニシング・ポイント』(’71)のサントラに1曲のみだが収録されている。
カントリー・ガゼットの結成

バイロンはダグ・ディラード・エクスペディションで一緒だったロジャー・ブッシュと意気投合しカントリー・ガゼットを結成する。バーニーは、FBBの2nd『ブリトー・デラックス』(’70)と3rdアルバム『フライング・ブリトー・ブラザーズ』(’71)に参加したものの商業的な成功が叶わず脱退、リンダ・ロンシュタットのサポートメンバーを務める。そして、そこで出会ったグレン・フライ、ドン・ヘンリー、ランディ・マイズナーとイーグルスを結成、大きな成功を手にすることとなる。

バーニーがFBBを辞める時、以前スコッツヴィル・スクイーレル・バーカーズで同僚だった(このグループにはクリスも在籍)ケニー・ワーツに代替要員として参加を要請しており、FBB最後のライヴツアーの模様を収めた4thアルバム『ラスト・オブ・ザ・レッド・ホット・ブリトーズ』ではギター、バンジョーとボーカルで加入することになった。このアルバムにはゲストとしてバイロンとロジャーが参加しており、カントリー・ガゼットの名前が使われる初の作品となった。

この後、バイロンのオクラホマ大学時代の後輩であるアラン・マンデをバンジョー奏者に迎え、FBBのケニー・ワーツがギター&ヴォーカルで参加、カントリー・ガゼットは4人組となった。ただ、クリスもFBBを辞めてしまい、A&MレコードとしてはFBBへの興味はなくなっていたが、まだツアーの契約が残っていたので、新参者のリック・ロバーツがFBBのリーダーとなってヨーロッパツアーに向かう。カントリー・ガゼットの4人もメンバーとして同行することになるのだが、この時はFBBのメンバーとしての参加となった。このライヴの模様はアリオラ・オランダから『ライヴ・イン・アムステルダム』(’72)と『ブルーグラス・スペシャル』(’73)の2枚にまとめられている。
本作『パーティーの裏切り者』について

そして、カントリー・ガゼットとしての記念すべきデビューアルバム『パーティーの裏切り者』が72年にリリースされた。本作はブルーグラスの編成であるにもかかわらず、ウエストコーストロックのテイストを持っているのが特徴となっている。これはバーズやディラーズ、FBBを手がけたプロデューサー、ジム・ディックソンの優れた手腕であろうが、グループの洗練かつ卓越したプレイや楽曲のセレクトも大きい。特に5人目のメンバーとも言われるハーブ・ペダーソンによるCSN&Yを彷彿させるコーラスアレンジ(ブルーグラス的でない)は実に斬新である。

現在ではアラン・マンデのバンジョーの評価はもちろん高いが、当時は彼のプレイを本作で初めて聴いてその美しいトーンと鋭いドライブ感に驚いたものだ。特に「スウィング・ロウ・スウィート・チャリオット」のバンジョーソロには心惹かれた人は少なくないはず。もちろんバイロンはフィドルだけでなく、マンドリンやヴォーカルなど八面六臂の大活躍である。

収録曲は全部で12曲。トラッドは2曲のみで、ジーン・クラークの名曲「キープ・オン・プッシン」と「トライド・ソー・ハード」のアレンジは秀逸で、オリジナルを超えているというのは言いすぎか? ルーヴィン・ブラザーズ作でジム&ジェシーの十八番でもある「アイ・ウィッシュ・ユー・ニュー」、ゴスディン・ブラザーズの「サウンド・オブ・グッドバイ」、ハーブ・ペダーソン作の美しい「アンナ」など1曲も捨て曲はなく、デビュー作にして完成された音楽になっていると思う。もし本作を聴いたことがないのであれば、これを機会にぜひ聴いてみてください。よりウエストコーストサウンドに近づいた2nd『ドント・ギブ・アップ・ユア・デイ・ジョブ』(’73)も素晴らしいので、ぜひ!

最後になるが、バイロン・バーラインは今年の7月10日、残念ながら77歳で亡くなってしまった。実に偉大なフィドラーであった。R.I.P
TEXT:河崎直人
アルバム『Traitor In Our Midst』
1972年発表作品

<収録曲>

1. ロスト・インディアン/Lost Indian

2. キープ・オン・プッシン/Keep On Pushin

3. アイ・ウィッシュ・ユー・ニュー/I Wish You Knew

4. ホット・ブリトウ・ブレイクダウン/Hot Burrito Breakdown

5. アイ・マイト・テイク・ユー・バック・アゲイン/I Might Take You Back Again

6. 忘れな草/Forget Me Not

7. トライド・ソー・ハード/Tried So Hard

8. アンナ/Anna

9. イフ・ユーアー・エヴァー・ゴナ・ラヴ・ミー/If You’re Ever Gonna Love Me

10. アグラヴェイション/Aggravation

11. サウンド・オブ・グッドバイ/Sound Of Goodbye

12. スウィング・ロー・スウィート・チャリオット/Swing Low Sweet Chariot


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