ねじれたポップセンスで異彩を放ったモノクローム・セットの『ヴォリューム、コントラスト、ブリリアンス』

2021年9月10日 / 18:00

今回はモノクローム・セットが1983年にリリースした『ヴォリューム、コントラスト、ブリリアンス(原題:Volume, Contrast, Brilliance…(Sessions & Singles Vol. 1))を取り上げる。本作は原題のサブタイトルにあるように1978〜1981年にリリースされた未アルバム化のシングル(もしくは別テイク)やラジオ出演時のセッションが収められているのだが、しっかりした統一感があり単なるコンピというよりは一枚のアルバムとして捉えたほうがいいかもしれない。「戦慄のシンフォニー(原題:Eine Symphonie Des Grauens)」「ジェット・セット・ジュンタ」(アルバム『エリジブル・バチェラーズ』収録のものとはテイク違い)「ラブ・ゾンビーズ」など彼らの代表曲を収録しているというだけでなく、彼らが最も輝いていた時期の演奏が聴ける傑作だろう。
チェリーレッドのコンピレーション

70年代後半から始まるポストパンク時代には、ニューウェイブ、エスノロック、ダブ、スカリバイバル、シンセポップなど、さまざまなスタイルの新しい音楽が生まれたが、それら初物は大手レコード会社では扱いにくいアイテムであり(売れるかどうか分からないから)、当時は雨後の筍のように設立されていた小回りの利くインディーレーベルからリリースされることが多かった。80年初頭、英インディーズレーベルのチェリーレッドからリリースされた廉価盤(99ペンス…約450円)のコンピレーション『ピロウズ・アンド・プレイヤーズ』(’82)が大ヒット、83年1月にNME誌のインディーズチャートの1位となる。このアルバムには、ベン・ワット、トレーシー・ソーン、フェルトらネオアコースティックのアーティストのほか、ミニマル音楽のピエロ・ミレジ、多角的な才能のあるベテランのケヴィン・コイン、アメリカの60sガレージバンド、ミスアンダーストゥッドなど全17曲が収録されており、一見節操がなさそうで、実はコンパイル担当のイエイン・マクナイ(チェリーレッドの創設者)のセンスの良さが光る選曲であったと思う。

その中で、ひときわ輝くねじれたポップ感覚を醸し出していたのが、モノクローム・セットの「戦慄のシンフォニー(原題:Eine Symphonie Des Grauens)」であった。オーケストラの静かなチューニング音からいきなり始まるドアーズのようなサイケデリックなガレージポップに何ともいえない魅力を感じ、彼らの3rdアルバム『エリジブル・バチェラーズ』(’82)を購入した。素晴らしいアルバムだと思った…しかし、僕の中では「戦慄のシンフォニー」に並ぶほどの曲はなかった。しかし、しばらくしてこの曲(しかも1曲目!)が収録された『ヴォリューム、コントラスト、ブリリアンス』(’83)がリリースされたのである。
モノクローム・セットというグループ

モノクローム・セットは1978年にロンドンで結成された。当初はビド(ヴォーカル&ギター)、レスター・スクエア(リードギター)、J・D・ヘイニー(ドラム。元アート・アタックスのメンバー)の3人を中心に活動していた。しばらくして、ジェレミー・ハリントン(ベース)が加わり、同年デモシングル「He’s Frank(Slight Return)/Silicon Carne」をラフ・トレード・レコードの傍系レーベル(Disquo Bleu)からリリース、翌年の1979年にはラフ・トレードと正式に契約し、「フランク(原題:He’s Frank)」「戦慄のシンフォニー」「モノクローム・セット」の3枚のシングルをリリースする。デビューしたばかりで3曲ともインディーズ・トップテンにチャートインしているのだから、大したものである。

79年末、アダム&ザ・アンツに在籍していたベーシストのアンディ・ウォーレンがハリントンの代わりに加入、グループはヴァージンレコードの傍系レーベルのディン・ディスクと契約した。1980年には待望のデビューアルバム『ストレンジ・ブティック』と2ndアルバム『ラブ・ゾンビーズ』の2枚をリリースするなど、精力的に活動。1981年末にJ・D・ヘイニーがグループを脱退するが、代わりにレキシントン・クレインが加入している。1982年、グループはチェリーレッドと契約し、3rdアルバム『エリジブル・バチェラーズ』をリリースするもののスクエアとクレインが脱退、代わりにキャリー・ブース(キーボード、フルート、ヴォーカル)とモリス・ウィンザー(ドラム。元ソフト・ボーイズ)が参加する。しかし、彼らもすぐに脱退。新たにリードギタリストのジェームス・フォスターとニック・ウェソロウスキーが加入するなど、そろそろグループの雲行きが怪しくなってくる。そんなこともあってか、グループの活動を総括するかのようにリリースされたのが本作『ヴォリューム、コントラスト、ブリリアンス』である。
本作『ヴォリューム、コントラスト、 ブリリアンス』について

オリジナルのLP収録曲は全部で14曲(CD化に際し多くのボーナストラックが収録されている)。かのアンディ・ウォーホルは“ベンチャーズとヴェルヴェット・アンダーグラウンドを足して2で割ったよう”だと言ったらしいが、僕には前述したようにドアーズに似たサイケっぽさとディック・デイルを足して、カリプソやアフリカンポップスのスパイスをふりかけたようなサウンドに聴こえる。

やはり「戦慄のシンフォニー」が飛び抜けたナンバーだと思うが、アルバムバージョンよりシンプルでGS風サウンドに仕上がっている「ジェット・セット・ジュンタ」、フランツ・フェルディナンドに影響を与えたであろう「シリコン・カルネ」など、どの曲も未だに古臭くなっていない。特にビドが手がけたナンバーは独特の切ない雰囲気があって、それこそがモノクローム・セットのイメージになっているようだ。なにはともあれ、本作が全曲ハズレなしの傑作であることは間違いない。
本作以降の活動

モノクローム・セットはポストパンク時代から現在に至るまでロックシーンに大きな影響を与えた。1985年に彼らは一旦解散するのだが、その後もライヴやレコーディングに引っ張り出され、結局10枚以上アルバムをリリースする。10年以上の活動休止のあと2010年に再結成し、2016年には本作の続編となる『Volume, Contrast, Brilliance…(Unreleased & Rare Vol. 2)』をリリースするなど、まだまだ現役バリバリで活動中である。
TEXT:河崎直人
アルバム『Volume, Contrast, Brilliance…(Sessions & Singles Vol. 1』
1983年発表作品

<収録曲>

1. アイネ・シンフォニー・デス・グラウエンス/Eine Symphonie des Grauens

2. ジェット・セット・ジュンタ/The Jet Set Junta

3. 愛しのゾンビーズ/ Love Zombies

4. シリコン・カルネ/Silicon Carne

5. ザ・ルーリング・クラス/The Ruling Class

6. ビバ・デス・ロウ/Viva Death Row

7. 髭面の男/Man With the Black Moustache

8. フランク/He’s Frank (Slight Return)

9. ファン・フォー・オール・ザ・ファミリー/Fun For All the Family

10. レスター・リープス・イン/Lester Leaps In

11. イシイ・レ・ザンファン/Ici les Efants

12. ファット・ファン/Fat Fun

13. アルファビル/Alphaville

14. アバンティ/Avanti


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