チューリップ『TAKE OFF(離陸)』に見る“和製The Beatles”っぷりと日本的情緒

2021年9月1日 / 18:00

結成は1970年。自主制作、今で言うインディーズで最初のシングル「柱時計が10時半」を発売したのち、福岡から上京して、メジャーデビュー作「私の小さな人生」をリリースしたのが、その翌年の1971年である。つまり、チューリップは今年デビュー50周年を迎えたことになる。コロナ禍もあって、かつて口にしていたメモリアルコンサートの開催はままならないようだが、多くのヒット曲を世に送り出し、後世に与えた影響も大きいレジェンドバンド。節目の年であるからこそ、今、彼らの偉大さを称えたい。
The Beatlesの影響

チューリップがメジャーデビューした1971年にはまだ物心もついてなかった筆者なので、「心の旅」から始まって、「青春の影」、「サボテンの花」、「虹とスニーカーの頃」辺りが彼らの代表曲であることはさすがに知ってるけれども、どれもリアルタイムで聴いたわけではなく(多分「虹とスニーカーの頃」がギリ)、オリジナルよりも他者がカバーした曲をよく聴いた感じで、「心の旅」は有頂天版、「青春の影」はLUNKHEAD版のほうを愛聴していた。よって、チューリップが和製The Beatlesだとか、財津和夫(Vo&Gu)が和製Paul McCartneyと言われても、ピンとこないのが正直なところだ。The Beatles好きの某バンドのリーダーがあまりにもThe Beatlesが好きすぎて“The Beatlesを研究する過程でチューリップまで聴いた”という話は聞いていたが、それこそ上記の代表曲くらいしか知らないので、そう言われても、これまたピンとこなかったことを白状しておこう。

だから、これもまた包み隠さずに告白すると、今回初めて『TAKE OFF(離陸)』を拝聴したのだが、The Beatlesも詳しくない自分でも、これは確かに和製The Beatlesであると認識した。もっと言えば、チューリップがこんなにもThe Beatlesの影響下にあるバンドだとは思わなかった。Wikipediaに本作の解説として[『心の旅』のヒットによりブレイクを果たしたあとに発表した最初のアルバムである。(中略)アイドル的な人気を得た一方で、ビートルズのような音楽を作りたいという変わらない思いを表現すべく制作された]とある([]はWikipediaからの引用)。引用元がはっきりしないので、それがメンバーの偽らざる気持ちだったかどうかは定かではないが、生粋なファンのみなさんにとっては改めて言うまでもない、定説の如きものになっているようだ。

また、ソウル・フラワー・ユニオンのTwitterでこんな記述も見つけた。【同時期シングル群を外し、“アルバム”に拘った極上3rd。財津の「青春の影」「セプテンバー」、姫野&安部の「明日の風」、B面後半のメドレー等、各メンバーが名品を書き下ろし、後期ビートルズ的な編曲作法を自分たちのものにしている。バンド絶頂期の最高傑作】(【】はソウル・フラワー・ユニオンのTwitter公式アカウントからの引用)。これはおそらく中川 敬のツイートだろうが、自他ともにその音楽的雑食性を認める彼の見立てであるとすると説得力があるし、チューリップがThe Beatlesの影響下にありながらも、その単なるフォロワーに留まらない裏づけでもあるように思う。

調べてみたら、ソウル・フラワー・ユニオンの中川 敬の他、カーネーションの直枝政広も『TAKE OFF(離陸)』を高く評価しているらしい。チューリップがミュージシャンズミュージシャンから支持されていることを知り、そんな人たちが評価しているアルバムを、さっき初めて本作を聴いた程度の筆者如きが語ってはマズいのではないかと正直ビクつきつつも、ビギナーならではの視点もある意味では大切だろうと開き直って、以下、『TAKE OFF(離陸)』の解説を試みたい。

ここまで言い訳めいたことをグダグダと述べたが、デビュー時のチューリップに対する評価と、彼らがのちの音楽シーンに与えた影響も若干分かっていただけるのではないかと思う(しかし、チューリップ、カーネーション、ソウル・フラワー・ユニオンと、ここまで紹介したバンドはいずれもその名に花があるのは何か因果関係があるのだろうか)。
随所に垣間見えるオマージュ

オープニングM1「TAKE OFF」は財津和夫作詞作曲で、ヴぉーカルも財津が務めている。37秒という短いナンバーではあって、そのタイムだけで見たらSE的にとらえられるかもしれないが、聴けば、独立した一曲としてしっかりとした存在感を示していることが分かるだろう。メロディーといい、サウンドといい、序曲と言うには豪華である。メロディー、コード、コーラスはもちろんのこと、ディスト-ションの聴いたギター、ドラムの響きと、少しでもThe Beatlesを聴いたことがあれば、これらがThe Beatlesへのオマージュではないと言えないだろう。どう考えても影響アリアリである。しかも、37秒というのがいい。これで3分とか続けると、オマージュというよりもパロディー感が漂ってくるのではないかと思う。このくらいが丁度いいし、これから何が起こるのかと中身を想像させるに十分な濃さがある。

M2「明日の風」は安部俊幸(Gu)の作詞、姫野達也(Vo&Gu)の作曲で、ヴォーカルは姫野。M1よりテンポは若干緩やかになるものの、キレのいいドラムス、ギターの鳴りといい、ロック感は変わらない。[ビートルズよりウィングスを意識して作曲された]とWikipediaにはあって、半可通な自分はその辺はよく分からないけれども、このポップ感はPaul McCartney寄りであるとは思う([]はWikipediaからの引用)。とりわけピアノの跳ねた感じからは「Lady Madonna」とかを思い出した(ピアノは財津の演奏)。財津和夫作詞作曲、ヴォーカルの M3「そんな時」もテンポは緩やか。ギターが前面でドラムのビートは抑えめで、フォーキーな印象はある。だが、その前面に出たギターの音がとてもいい。一本一本の弦がしっかりと鳴っていることや、金属弦であることがはっきりと分かる感じは、レコーディング技術もしっかりとしていた証拠だろう。「Norwegian Wood」に近い気もするが、やはり「Here Comes The Sun」へのオマージュを強く感じるところではある。ギターが印象的なのは、続くM4「見すごしていた愛」も同様。エレキギターのアルペジオと、アコースティックギターのストロークは、これもまたいい音で録れているように思う。歌のメロディーはもろに和風というか、日本のフォークソング的ではあるものの、後半にグルーブ感を増していくバンドサウンドは確実にロックバンドのそれである。吉田 彰(Ba)が奏でるベースラインも個性的でいい。M4は作詞が上田雅利(Dr)、作曲が財津、ヴォーカルが姫野で、本作収録以前のライヴでは上田が歌っていたというから、チューリップの分業体制(?)、そのバンドのスタンスが発揮されたナンバーと見ることもできる。

街の雑踏のSE から始まるM5「サンセット通り」は作曲を手掛けた姫野がピアノ弾き、リードヴォーカルを務めたナンバー(作詞は安部)。スロー~ミドルで、メロディーもマイナーな上、サウンドもそのピアノにベース&ドラムのリズム隊のみという2分程度の楽曲だが、それゆえにシャレオツなコード感であったり、バンドアンサンブルの妙味であったりも確認できて、チューリップのポテンシャルを端的に示しているように思う。そこから一転、安部の作曲で、吉田が作詞&リードヴォーカルのロックンロール、M6「おしえておくれ」、さらには財津作詞作曲&歌のM7「セプテンバー」へとつながっていくというのも、チューリップのすごさであろう。ワイルドなツインギターが聴きどころで、歌詞が如何にも男のロックなM6と、財津らしいポップなメロディーを柔らかな歌声で仕上げたM7が連続する──しかも、M5から続くという緩急は、メンバー全員が曲を手掛けることができるというバンドの懐の深さゆえのこと。この辺りをして、アルバム『The Beatles』──俗に言う“ホワイトアルバム”的と言うのは簡単かもしれないが、このバラエティー豊かさはそうそうあるものではない。これもまた彼らが和製The Beatlesと言われた所以なのかもしれない。
メドレーからうかがうリスペクト

M8「あの、ゆるやかな日々」以降はアナログ盤でのB面。安部作詞、姫野作曲で、財津が歌うM8は、これもまた跳ねたピアノが印象的なナンバーで、多くの方が指摘しているように、The Beatlesの「Martha My Dear」をかなり意識していることが分かる。ハイトーンに抜けるヴォーカルがちょっとソウルっぽい感じもあって面白い。M9「ハートせつなく」はイントロのギターがカッコ良い。安部の作詞作曲で、財津がリードヴォーカル。歌の主旋律は何か可愛らしい感じなのだが(歌詞も可愛い感じ)、ギター、ベース、ドラム、エレピがそれぞれにシンプルながらも個性的なプレイを聴かせて絡み合う様子は、バンドならではと言ったところだろう。コーラスも他とは違って可愛らしい印象ではある。

チューリップの代表曲でもあるM10「青春の影」。財津が作詞作曲を手掛けてリードヴォーカルも取っている。サウンドは「Let It Be」のオマージュとも、「The Long and Winding Road」とも言われているし、Procol Harumの「A Whiter Shade of Pale」な感じもするけれども、いずれにしても主旋律を盛り上げるサウンドアレンジは見事なものだと言わざるを得ない。ピアノ伴奏のみでも十分に感動的な曲ではあろうが、この楽曲の物語性、世界観をドラマチックに仕上げているのは、ストリングスを含めたこの編曲あってのことだろう。3分ちょっとしかないが、決して短く感じない、むしろ奥深さを感じさせる名曲である。

財津が作詞作曲で、姫野が歌うM11「愛は不思議なもの」は、ほぼ《愛はいつでも 不思議なもの/そして永遠(とわ)に 輝くもの》のリフレインと言っていいナンバーだが、それゆえにバンドアンサンブルとそれぞれのプレイに変化を持たせている。跳ねるようなピアノ、ドラムも相変わらずいいが、間奏以降からグイグイと迫ってくる安部のギターがとても素晴らしい。完全にロックだ。

続く、M12「悲しみはいつも」~M13「ぼくは陽気なのんきもの」~M14「笑顔をみせて」は、曲が連なったメドレー形式。アコギ基調なM12、カントリー調でありつつ、スペクターサウンドも聴けるM13、そして、広大なメロディーがひたすらに美しいM14と、タイプが違うナンバーを上手くつないでいる。この辺は、多くの人が指摘している通り、『Abbey Road』の影響であろう(ライヴではM11からのメドレーを披露したというから、かなり意識していたのだろう)。また、このM12~M14では[メンバーの本来の担当楽器とは別の楽器を所々で弾]いていたそうで、この辺からもチューリップがThe Beatlesを相当強くリスペクトしていたことがよく分かる([]はWikipediaからの引用)。M12~M14は全て財津作詞作曲で、M12、M13のリードヴォーカルが財津で、M14では財津、姫野がふたりで歌っている。
歌詞に描かれた細やかな機微

と、徒然なるままに、楽曲解説をしてみた。もっとチューリップにもThe Beatlesにも詳しい人であれば、こんなものじゃない、深い考察ができるはずなので、ご興味を持った方は調べてみると楽しいと思う。それはそれとして、半可通な自分でも、この度チューリップがThe Beatlesの影響下にあることはよく分かったが、だからと言って、M1の時に少し述べたように、単なるThe Beatles好きのパロディーやコピーに堕してないところは、当たり前のことだが、決して見逃してはいけない重要な部分ではないだろうか。それはメロディーやコード、あるいは財津、姫野の歌声など、さまざまなファクターがあるはずだが、最も大きな要素は歌詞だと思う。

《君はもうみつけただろう/くちぐせだった 愛のくらし/ぽくは ずっとずっと同じ/くものようにただ浮かんでいる/しあわせは しあわせさ/ほんのささやかなものだって/汽車をまつ そんな時/ふと思い出す 君のほほえみ》(M3「そんな時」)。

《いつものように 君を駅におくる/だけど立ちされずに/僕はタバコをつけて 白いけむり/白い息がのこる/いつも いつでも 君と会える/でも別れは いつもいつもつらいものさ》《いつものように 君を駅におくる/だけど立ちされずに》(M5「サンセット通り」)。

《自分の大きな夢を追うことが/今までの僕の仕事だったけど/君を幸せにするそれこそが/これからの僕の生きるしるし》《ただ風の中に たたずんで/君はやがてみつけていった/ただ風に涙をあずけて/君は女になっていった》《君の家へ続くあの道を/今 足もとにたしかめて/今日から君は ただの女/今日から僕は ただの男》(M10「青春の影」)。

《若い日 この人生は/ぼくのものだと 信じてた/でも今 すべての人は/心をよせるべきさ/ぼくの人生は 君のものであり/君の人生は ぼくのものさ/だってほほえみは とてもみじかく咲いて/悲しみはいつもいつでも すぐにやってくるから》(M12「悲しみはいつも」)。

代表曲なだけあってM10がそれが顕著に出ていると思う。単なる男女の恋物語だけではないばかりか、そこにある機微も細やかに描いているのは、チューリップの大きな特徴と言える。この情緒を指して“日本的”と言い切ってしまうのはやや乱暴かもしれないけれど、その辺はリバプールでは生まれない、彼らの結成の地である九州・博多ならではものなのではないだろうか。
TEXT:帆苅智之
アルバム『TAKE OFF(離陸)』
1974年発表作品

<収録曲>

1.TAKE OFF

2.明日の風

3.そんな時

4.見すごしていた愛

5.サンセット通り

6.おしえておくれ

7.セプテンバー

8.あの、ゆるやかな日々

9.ハートせつなく

10.青春の影

11.愛は不思議なもの

12.悲しみはいつも

13.ぼくは陽気なのんきもの

14.笑顔をみせて


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